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#エッセイ

井伏鱒二のこと

井伏鱒二のこと

井伏鱒二と言えば、「山椒魚」と「黒い雨」である。代表作があるのは素晴らしい。ツーと言えばカー。打てば響く気持ちよさ。
「漱石」
「はい。こころ」
「太宰」
「はい。人間失格」
てな具合。
だが、井伏先生の二作には、いろいろ味噌がついている。

「山椒魚」は、名作の誉れ高い短編だが、全集に入れる時、何十年も皆んなに読まれてたのに、ラストを変えちゃった。これに野坂昭如が噛み付いた。発表して、何十年も経

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ドストエフスキーのこと

ドストエフスキーのこと

 ロシアの大作家と言えば、トルストイとドストエフスキーである。偉大である。が、私はトルストイを読了したことがない。「戦争と平和」は上巻の半分くらいで挫折した。「アンナ・カレーニナ」は最初の床屋のとこで挫折した。ほんの十数ページである。私は戦争も不倫も興味なかったのである。
 ドストエフスキーは面白かった。「罪と罰」「カラマゾフの兄弟」「悪霊」「白痴」「虐げられし人々」は読んだ。「地下室の手記」は、

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安部公房のこと

安部公房のこと

 ここのところ短編小説を書いていた。20枚くらいのもんなんで、筆が乗れば一日で書けるが、筆が乗らない。続けて書くと、発想が枯渇することがわかった。何事も無理してはいけない。昨日、本を段ボールに入れて持ち上げたら、腰をやった。無理はいけない。今後は、週一ペースで行きたい。その他の日は、また本の話やらなんやらくだらないことを書こうと思う。
 で、今回は安部公房。偉い作家である。死んじゃわなければ、ノー

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処分できない本

処分できない本

私は読み終わった本には無頓着だ。古典の本とか、後でまた見る機会のあるものは取っておくが、それ以外は大概処分する。特に小説などは、真っ先に処分する。二度読むことは、殆どないからだ。時々家人から、読もうと思ってたのに、なんでもかんでもすぐ売っちゃう、などと怒られる。読みたいんなら、断ってサッサと自分の本棚に確保すればいいのである。私とて、他人の本棚から本を取り出して売りゃしない。
では、小説の類のもの

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司令の休暇 阿部昭

司令の休暇 阿部昭

 一時期、気に入って阿部昭ばかり読んでいた。共通一次の試験問題にでて、あの作家は誰だ、みたいに盛り上がったが、すぐに盛り下がった。話としては、元海軍の父が病に倒れ死ぬまでの話である。ここに兄の話が絡んだりする。親が死ぬ話は、「海辺の光景」をはじめとして私小説界では鉄板である。恋人が病に倒れ死んじゃう話並に多い。と思う。親の人生と自分の過去を俯瞰するにはもってこいの筋立てだからであろうか。
 阿部昭

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わが師折口信夫 加藤守雄

わが師折口信夫 加藤守雄

ジャニーズ関連のあの事件。それについてのコメントは控えるが、あの頃、頭をよぎって仕方ない本があった。本書である。加藤が、この本を書いたのは折口の死後である。
折口は小説「口ぶえ」の通り同性愛者であった。当然、生涯独身で身の回りのことを、住み込みの弟子が行なっていた。国文学、民俗学、釈迢空としての短歌、小説。折口は圧倒的な知の巨人であった。慶應、國學院の弟子(あえて弟子と呼ぼう)たちにとって、折口は

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貧困旅行記 つげ義春

貧困旅行記 つげ義春

世の中の尺度で、ダメな人間ていますよね。働けるのに働かないやつ。才能あるのに努力しないやつ。"向上心のないやつは馬鹿だ"とか、"努力しても成功しないかもしれない。しかし、努力しなければ成功することはない"とか、よく聞きます。ずっと聞いてました。ああ、頑張んなきゃとか思いました。けど、いっぱいいっぱいなんですよね、いつでも、生きることって。だから、私はつげ義春が好きなんです。この旅行記の冒頭の一編な

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文学入門 伊藤整

文学入門 伊藤整

本を整理してて、いったいいつから私は文学にイカレたのか、つらつら考える。何かきっかけがあったはずである。ドカベン命だった私を太宰大好き人間に変えた何かが。
よおく考えたら、それは高校の時に読んだ「文学入門」だったかもしれない。それを私は滅多に行かない本屋で見つけた。そこは、ちょっと変な本屋で、青林堂の漫画単行本が大量に並んでたりした。
そこで私は、カッパブックス1番、伊藤整「文学入門」と出会うこと

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