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コンビニ&イオンのIT/DXの最新動向

国内の人口減少が進む中、限られた労働力で効率的に業務を行うには、ロボットやAIといったテクノロジー活用がカギとなります。
特に小売業界では、需要予測や在庫・発注管理、品出し業務といった分野でのIT活用が期待されています。
今回は、実際にチェーンストア各社で取り組んでいる事例について、「販売革新」編集委員の梅澤聡さんにレポート頂きました。

チェーンストアのIT/DX化はどこまで進んだのか。本稿ではセブン-イレブン・ジャパン(以下、セブン-イレブン)をはじめとするコンビニ勢力の事例、併せて、日本のGMS(総合スーパー)を代表するイオンリテールの取り組みを紹介していきます。

セブン-イレブン50年目の大方針

セブン-イレブンが東京都江東区豊洲に国内1号店を出店してから、今年が50年目に当たります。
同社の永松文彦社長は本年4月の50年目に際した会見で、「これまでは、開いててよかった、近くて便利といった、時間や距離の利便性や、おいしい商品、質の高い商品を提供することで成長してきました。今後、次の便利の扉を開くには、人や地域とのつながりに、よりいっそう目を向ける必要があります」と述べ、新たに目指す姿「明日の笑顔を 共に創る」と4つのビジョン(健康、地域、環境、人財)を掲げました。

あらゆるステークフォルダーの皆さまが、笑顔になること、そして社会にとって必要とされる“ソーシャルグッドな存在” となることを目指していきます」(永松社長)

お客様はもちろん、加盟店や取引先と共に成長を目指す、チェーン本部の姿勢をあらためて示したといえます。その要の一つにIT/DXの推進があります。
これからのセブン-イレブンについて、永松社長は「労働市場においても、生産性を高め、差別化を図ることが成長を続けていく上で、非常に重要です。加盟店オーナー様や、加盟店従業員の方々の働きやすさ、生産性をIT/DXでサポートしていく」とした上で、「軽作業の自動化や、AIによる提案、レジの自動化など、積極的に機械と人の分業を進めることで、人にしかできない接客や、調理といった仕事の質をさらに高め、生産性が高く、気持ちよく働いていただける場を、今よりも提供していきます」と語っています。
同時に、セブン-イレブンは、労働人口が減少する中で、工場作業の効率化、配送工程の自動化と効率化により、取引先の働き方まで考えた店舗運営を目指していくとしています。

垂直連携、水平連携の強みをさらに強化し、サプライチェーンの皆さまの生産性向上にも寄与していきたい」(永松社長)

セブン-イレブンは第1号店の出店から今年で50年目。
IT/DXにより、顧客と加盟店、取引先の満足度を向上させていく。
写真は同社代表取締役社長の永松文彦氏

ファミマのAIロボット

こうしたセブン-イレブンの問題意識は、各コンビニチェーンに共通しています。
例えば「軽作業の自動化」について、ファミリーマート(以下、ファミマ)は2022年8月より「AIロボット」の導入を開始、22年度は約30店舗に設置を完了、24年度中に計300店舗にまで拡大するとしています。コンビニ店舗に本格的なロボットを実装したのは業界初といえるでしょう。

ファミマのAIロボットは、飲料やビールなどを販売する冷蔵ケースの裏側、すなわちウォークインの壁面の補充棚から飲料を取り出し、売場に陳列されている冷蔵ケースの背面から1本ずつ送り込んでいきます。
AIロボットは1日最大で1,000本の商品を陳列できます。ロボットの土台はレール上で、陳列棚を横移動しながら、必要な商品を随時陳列していきます。
AIロボットには人工知能が搭載されています。単に右から左に商品を移動させているわけではなく、補充する本数に関して、単品ごとに、どの時間にどれだけ売れるかの販売データを共有し、それをアップデートしています。ある商品を一定時間に何個陳列しないと欠品するといった情報を、AIが毎回、自動的に認知して更新しているのです。
例えば、商品Aが朝7時から8時の時間帯に10本売れるとすれば、それ以前の時間帯に10本陳列できるように、AIが自動的に計算して補充を終えることができます。売れる商品を時間帯ごとに割り出して、売れる順番に商品を陳列していく。これを「人」が陳列すると、補充忘れのないように「位置」を起点とした作業になり、左から右へといった順番に作業が進められます。

一方のAIロボットは、売れる順番に補充するので、最も売れている商品が常に並んでいる状態をつくることができます。販売データはアップデートされているので、どの商品を先に陳列するか、AIロボットが優先順位を決めて陳列しています。陳列フェースの変更については、AIロボットが何フェース必要かを算出し、補充が必要な数量からフェース数を逆算して提案します。

ファミマが導入したAIロボット「TX SCARA(ティー・エックス・スカラ)」
AIロボットは24時間で約1,000本の飲料(ペットボトル、缶など)を陳列する

新商品の導入に際しては、商品の360度データをAIが取り入れて認識します。販売データは個店ごとに共有して認識するほか、季節による変動指数も入力しています。例えば、夏場はスポーツドリンクの販売数量が急増するなどの情報を入力するのです。
背面から飲料を補充するプレハブ型冷蔵庫のウォークインでは、従業員は補充作業に集中していても、レジにお客様の列ができると、呼び出されてレジ業務に入ることが求められます。店舗によっては、行ったり来たりの作業性の悪さも指摘されてきました。
しかしながら、AIロボットの導入により、こうした非効率性が解消できるようになり、作業の置き換え以上の効果が期待できるようになります。

もう一つの効果は、職場環境の改善です。ウォークインは、常に5℃から7℃くらいに保たれており、その寒さの中での長時間の品出し作業は、身体にある程度の負荷がかかります。特に夏場になると冷えた飲料が売れて、ウォークインの作業量が増えるため、外気温との差が大きく、身体への負担は増すことになります。
そのような従業員への負荷をAIロボットが軽減します。単に省力化・省人化に効果があるだけでなく、店内作業の中から身体的な負荷の大きな業務が代行されることになります。特に高齢の従業員にとってウォークインでの作業は厳しいため、その負担が軽減されることの効果は少なくありません。

イオンリテールのAIオーダー(発注)

セブン-イレブンが掲げる「AIによる提案」と同様に、イオンリテールでは “国内最大規模の需要予測・発注システム”をうたう「AIオーダー」を開発し、本年5月13日より「イオン」「イオンスタイル」など380店に導入しています。

イオンリテールは発注業務にAIを取り入れて、売上、利益の向上を図っている

これまで同社は、AIによる需要予測、最適化を活用した店舗生産性向上について、2019年より店舗ごとに来店者数のAI予測を実装しています。さらに2021年より、見切りの最適化である「AIカカク」を導入展開。「AIオーダー」はその拡張である発注自動化のシステムです。
AIによる客数予測と過去販売実績、それに加えて曜日や価格、気温、カレンダー情報、プロモーションなどを機械学習させることで、正確な発注数を自動で提示します。AIの学習効果により、気温の変化などによる突発的な品切れを減らす機会ロス削減のみならず、過剰発注を防ぐことで在庫削減、それに伴う値下げや廃棄ロス削減にもつなげています。

さらに発注数の適量化により入荷整理や品出し、在庫管理、値引き、発注修正など、あらゆる業務負荷の削減に効果を発揮しています。
カレンダー情報は、イオンの「お客さま感謝デー」や、平日、週末の指数の変化を捉えています。
気温については、気温上昇に伴い売上が増加するゼリーや寄せ豆腐、玉子豆腐、ところてん、逆に気温低下に伴い売上が増加する、厚揚げ、ちくわ、中華まんじゅう、焼き豆腐、といった商品動向を反映させています。
プロモーションについては、商品ごとに付与されたボーナスポイント企画があり、それによる品切れが散見されていました。しかしながら、「AIオーダー」はプロモーションも学習することで、機会ロスが発生しないように勘案しています。

導入時にターゲットとしたのが、毎日発注を行う日配品、練り物、豆腐、パン、デザート、生菓子。予測精度評価では、豆腐17ポイント、練り物18ポイント、パン4ポイント、デザート23ポイント、生菓子31ポイントの精度改善が見られました。
導入直後と2カ月後を検証すると、該当店舗においては発注金額が30%減少し、その一方で機会ロスが15%改善されて、売上が2%程度上昇、値下げが減少して粗利益率の改善を実現しました。1週間の発注時間は、従来は1店舗1部門、平均90分程度を要していましたが、「AIオーダー」により45分に縮小。発注修正は1店舗1部門、平均40分程度かかっていましたが、25分に減少。なお、在庫修正時間は一部で増加しましたが、吸収できる範囲内と見ています。
発注金額の減少により、1部門の商品補充時間も、9時間から6時間へと3時間の削減に成功しています。

まとめると、従来は、来店者数と商品ごとのPI値(レジ通過客数1,000人当たりの買上点数)を、過去情報を参考にして店舗ごとに考えて発注してきました(図表①)。しかし「AIオーダー」により、それらをAIが予測することで、より精度の高い発注数の提示を自動で実施できるようにしたのです(図表②)。

イオンリテールのシステム企画本部・山村卓也氏は次のような拡張計画を語ります。
AIオーダーと同時に物流センターとのデータ連携なども行い、配送効率改善にもつなげていく考えです。AIデータの需要予測を実装することで、製造計画や見切り作業、勤務シフトなど店舗業務のデジタル化を推進します。また、需要予測データを、発注や、その先の物流に連携することで、サプライチェーンの最適化を推進し、物流やシステム構築を通じた、一気通貫したデジタル化を進めていきたい

図表① イオンリテールの既存の発注システム概略図
図表② イオンリテールのAI導入後の発注システム簡略図

ファミマの物流DX

配送工程の自動化と効率化、すなわち物流DX化について、ファミマを例に挙げます。人手不足解消とコスト削減に向けた取り組みです。同社は、配送シミュレータの独自開発を進め、配送ルートの最適化を図ることで、サプライチェーン全体の人手不足解消とコスト削減に取り組んでいます。

ファミマは独自開発した配送シミュレータにより大幅なコスト削減を進めている

国内約1万6,500店舗を持つファミマにおいては、毎年数百店の開店と閉店があります。また、季節により売上の変動幅が大きく、年間を通した配送コースの固定化が難しいことから、年2回(春夏・秋冬)大幅な配送ルートの組み換えを実施してきました。配送ルートの組み換えは、各物流センターの運行管理者が、経験を頼りに手作業で実施していたのです。
仮に1つの定温センターで300店を管轄している場合、35コース前後を設定するため、1日3便の計105コースの作成が求められます。経験による配送ルートの作成では、効率化、最適化には限界があり、無駄が生じていても、その無駄を証明することも実質的に困難でした。

そこで、ファミマは配送シミュレータの独自開発に着手しました。
配送シミュレータを独自開発するに当たり、サプライチェーン全体で目指すべき姿を見える化しました(図表③)。タテ軸に「定温(米飯温度帯、チルド温度)」「常温」「冷凍」、ヨコ軸に「メーカー→センター間配送(横持)」「センター庫内作業」「センター→店舗間配送(店着物流)」を取って、9つの象限を、いかに連携させて、データを作り込んでいくかを考えていきました。

図表③ ファミマの物流DXの全体像

一番ボリュームが大きいのが定温の配送領域です。特に1日3回走るセンターから店舗への物流費がいちばん大きく、この店着物流の領域からDXを推進しようと考えたのです。
配送シミュレータの潜在能力を最大限に引き出すため、各種データの蓄積と連携が最も重要となります。配送トラックにはGPS機能があり、時速何kmで走って、何分を要したか、といったデータがあります。それを「DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)」に蓄積し、配送シミュレータに連携させました。
また、店舗情報や車両情報などの各種配送条件をDMPで吸い上げて、定温から常温、冷凍へ、そして、店着物流をセンター庫内作業や、定温のセンター内配送へと、カスタマイズした展開を図っています。

これまで、手作業で組んできた配送コースでしたが、時間もかかるし、精度も伴っていませんでした。外的要因、内的要因、さまざまな課題に向き合いつつ、DXの効果を最大限発揮することにより、手作業だけでは分からなかった効率的なルートを見つけることができたのです。
新たな配送シミュレータを69箇所の定温センターに導入したところ、年間約10億円以上のコスト削減につなげることができたといいます。
ファミマは、こうした削減効果を、原材料費が高騰している今、加盟店の商品、仕入れ価格に反映できるような原資として使っていく考えです。

以上、今回はセブン-イレブンのIT/DX化の方針と、チェーンストア各社の軽作業の自動化、AIによる提案、配送工程の自動化と効率化を見てきました。

(取材・文:「販売革新」編集委員 梅澤聡)

今回のレポートからは、チェーンストア各社のIT/DX化が、着実に成果を生み出しつつあることが分かります。イオンリテールのAIオーダーでは、発注金額30%減少、発注時間の短縮といった効果が認められ、ファミリーマートが独自開発した配送シミュレータでは、年間約10億円以上ものコスト削減につながるといいます。イオンリテールの山村氏が述べるように、こうした取り組みをサプライチェーン全体と連携していくことで、さらなる効果が得られる可能性もあるのではないでしょうか。ここまでの過程には様々な紆余曲折や試行錯誤、先行投資の積み重ねがあったと思いますが、これらの成果を今後どのように拡大・発展させていくのか、各社の次の一手に期待がかかります。

また、セブン-イレブン・ジャパンが“ソーシャルグッドな存在”を目指すなど、IT/DX 化で効率化や利益を追求するだけでなく、従業員や取引先の働きやすさにも配慮している点が印象的です。ファミリーマートも、特に高齢の従業員にとって身体的負荷の高いウォークイン作業をAIロボットで自動化したように、今後は持続可能性や“人”・“環境”にも配慮したIT/DX推進が、より求められるようになるかもしれませんね。

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