シェア
月乃
2024年8月31日 19:33
菜の花。暖かな春に咲く鮮やかな黄色の可愛い花。その名前に引き寄せられるように選んだ病院だった。久しぶりに外へ出る決意をした日。春はもうとっくに過ぎていて、夏も超えて、秋も十分に深まった頃だった。ようやく自分が少し壊れてしまっていることを自覚し、病院に行くことを決めた。_ 当時、私は自宅から歩いて数分の歯科医院で働いていた。男性歯科医一人と衛生士の先輩と私だけの小さな医院だった。事
2024年8月21日 10:14
椛だったか、桜だったか。何か模様の入ったガラスの引き戸だった。その昭和レトロガラスと呼ばれるガラスは、今はとても貴重なものらしい。私にとって、トラウマのようなそのガラスの存在は、いつまでも記憶の一番奥の引き出しに眠っている。両親が離婚して、母と弟と3人で暮らしていた頃。六畳二間の狭い借家にそれはあった。ある暑い夏の日。朝早くに目が覚めて、いつも隣に寝ているはずの母がいないことに気
2024年8月2日 01:32
目覚めたばかりの太陽が小さなベランダの植物たちにあたたかな光を届けてくれるゆれる葉っぱたちの甘い匂いに誘われてわたしの呼吸はどんどん深くなっていくこんな優しい朝があったなんてあの頃、まだ小さかったわたしはずっと夜を待っている子だった朝なんて来なければいいのにと毎晩祈りながら眠っていた長い間、孤独の住人だったわたしは闇の中にしか居場所を見つけられず人と関わることに強い
2023年7月22日 12:23
今日はふと、父のことを考えていた。長年、自動車業会で働いていた父。三年前に定年退職し、今は再婚した奥さんの実家の神戸でタクシー運転手をしている。言葉数は少なく、いつも穏やかで優しい人。怒られたことは一度もないし、怒っているところを見たこともない。とは言っても、父とは生まれてから9年しか一緒に暮らしていないから、もっと長く一緒にいられたら…もしかしたら、怒られること