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#エッセイ

『公園物語』 その16

『公園物語』 その16

二週間に一度、ぐらいのペースで公園に行って絵を描いた。
娘のおかげで全然怪しくない。孤独もない。
ブランコぐらい押しますよ。こんなに助かってるんだから。

そうすると、学校帰りの小学生が公園の横を通る。
絵に引き寄せられるように近づいてくる。

「なにしとんー?」
「あ! 前もおったおっちゃんや!」
「前、ここでギター弾いてたやろー?」
僕も有名になったもんである。

高学年の女子は、娘のブランコ

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『公園物語』 その15

『公園物語』 その15

「自然農法」
そんな言葉が飛び込んできて、僕は飛びついた。

肥料も農薬も使わない「ほったらかし」農法だという。
これは僕らにぴったりじゃないか。
なまけものでルーティンが苦手な僕らに。

と、いうことで、あんまり詳しく調べる前に、僕の秘密基地で始めることにした。
衝動的なのだ。僕は。

とりあえず種を蒔けばいいらしい。

「水も肥料もやらなくていい野菜」
で、検索をかける。

そしたら枝豆が出て

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『公園物語』 その14

『公園物語』 その14

僕も秘密基地を作ろうと思った。

先日の「秘密基地騒動」を経て、ぐるぐると考えが巡った。
しかし、考えても考えても、どうしたらよかったのか、どうすればよいのか、わからなかった。
それならいっそ、僕も渦中に入ろうと思った。

共にいる娘がまだ幼いので、
彼らのように山の斜面に作ることはできない。
しかし、山の中には作りたい。

と、いうことで、フェンスの向こう側の斜面になる直前、少し平らになっている

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『公園物語』 その13

『公園物語』 その13

冬の入り口に立った公園は静かだった。

もう砂場にも、公園にも、あんまり草は生えていない。
砂場で大きめの山を作ってその上に座って空を見る。

その時、フェンスの奥の山の中で、影がサササッと動いた。

「ぬぬ?!」
なんだあれは?
バッと立ち上がって、ダッと駆けていって、ソローっと覗いてみる。

そこには素晴らしい「家」があった。

秘密基地だ、、、!
落ちていた木が丁寧に組み合わされている。

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『公園物語』 その12

『公園物語』 その12

骨組みだけで屋根のない、赤レンガのスペースにあるベンチに、
少女が僕から1.5メートルあけて座る。

いつもは何人かと共に行動をする彼女だが、
皆が早めに帰ったために、夕暮れ時に一人だった。

僕は画材を片付けつつ、彼女に話しかけた。

「よう、一人やん」
「はぁ? うるさいわ!」
そんなふうにツンツンしている彼女である。
僕に対しては、触れるものみな傷つける、といった感じなのだ。

カチャカチャ

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『公園物語』 その11

『公園物語』 その11

夏を乗り越えて過ごしやすい秋になった。

その頃、僕は長年の夢だった、油絵を始めた。

夏休みの前あたりの僕の誕生日に、母が油絵セットを買ってくれた。
30歳の誕生日である。妻は驚いていた。
まあくれるというのだから、ありがたい。

気温が下がって、蚊がいなくなった頃、
「そうだ、公園で描こう」
と、また閃いてしまった。

馬鹿でかいキャンバスに、油絵を描くのが夢だったんだ。

馬鹿でかいとは言え

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『公園物語』 その10

『公園物語』 その10

実は僕は英語ができる。

昔、一年弱、アメリカに行ったのだ。

そのときも、何か立ち止まりたくって急に決めた。
この時から何かを抱えてたのだ。
英語を学びたいというのを口実にして、社会人になる前に一年ぐらい「遊び」の期間を作ろうとした。

決めてから色々と調べて(調べてもらって)、格安で行けることになったのだ。
大学を一年休学して(公立だからタダなのである)、ビザを取得して、大学に申請して、カリフ

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『公園物語』 その9

『公園物語』 その9

ラジオ体操の終わりの日、BBQをしようと言った。

子どもたち、大歓喜。
嬉しい。

しかし、問題は保護者である。
もちろん怪しい。
一人の保護者の誤解は解けたが、一人がそうということは大多数がそうだということだ。

子どもたちが来たいと思っても、それは難しい。
難しくあるべきだ。

でもBBQはしたい。したいんだ。
だって、一緒に飯を食うって、めっちゃいいやん!素敵やん!
それにこのラジオ体操で

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『公園物語』 その8

『公園物語』 その8

炎天下の2時間鬼ごっこはキツい、、、。

ラジオ体操に行き続け、3日に1回は鬼ごっこに誘われる。
どうして小学生は鬼ごっこが好きなんだろう。
僕が鬼の時が面白すぎるので(大人だからわがままも暴言もぶつけられる)、
「もう、あんたがずっと鬼やってよ!」
、、、それのどこが面白いんや、、、。

とまぁこんな感じで順調に仲良くなる。

2週間はあっという間に過ぎた。

そのラジオ体操をやっているのは、林

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『公園物語』 その7

『公園物語』 その7

朝、7時に目が覚めた日は、散歩に出ることにした。

我が家の朝は遅い。
自慢じゃないけど遅い。

子育てが始まってから、仕事がないにも関わらず、
自分一人で静かにする時間は少なくなっていた。
当然だ。

でも、静かにする時間は僕にとって必要だった。
放っておいたらカラカラと回り出してしまう頭を、空っぽにする時間だからだ。

何も考えずに「ただ生きる」ということを、
僕は妻から教わった。
もちろんな

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『公園物語』 その6

『公園物語』 その6

二つ目の砂場に着手しはじめた。

うちの近くにある公園は、
高低の2箇所に分かれる。

低いところにあるメインの大きい公園と、
僕ら家族が拠点にしている高台にある公園だ。

その二つの間に森がある。
その森を降ってもう一つの公園を通り、
僕らはいつも児童館に行く。

その低いところのメイン公園の砂場も、
綺麗にすることにした。

しかし、骨が折れた。

行くのに山を降らなければならないからだ。

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『公園物語』 その5

『公園物語』 その5

僕はとにかく、高い山を作ることにした。

砂場もすっかり綺麗になって、娘も砂場に飽きてきて、
何をしようかと悩んだ末に、でっかい山を作ると決めた。

とにかく砂を集めていく。
100均で買ったスコップを僕が、冷凍庫で氷を掬う用のスコップを娘が持って、そのプロジェクトは動き出した。

これには理由があるんだ。
前の梅雨明けに学んだが、砂場は放っておくとどんどん草が生えてくる。
雑草の、根っこも種も根

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『公園物語』 その4

『公園物語』 その4

公園に"救い"の手が入った。

行政だ。

公園のボーボーに伸びていた雑草を一気に刈ってくれたのだ。
電動の機械で。
僕が手動でやった草刈りはなんだったんだと思うけど、まあそれはいい。
今がいいならそれでいい。

それによって公園がすごく綺麗になった。
なるほど、清潔感って大切なんだな。

これで「虫がいるからあの公園いきたくない!」って言ってた子どもたちも公園に来てくれるだろう。
どうやら僕は公

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『公園物語』 その3

『公園物語』 その3

砂場の草はなくならない。

だいぶ減ったかと思ったら梅雨に入り、
梅雨が明けたらまた生えていた。
しかもけっこうしっかりしたやつ。

悔しさに混じって、まだ続けられるという安心があることに、僕は驚いた。

そろそろ暑くなってきた。
夏になったらどうなってしまうのか。
まだ草を抜いているのだろうか。

終わりの見えない草抜きを、終わりが来るまで続けていく。そのうち何かが見えるはず。

そんな時、妻が

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