20240830 イラストエッセイ「私家版パンセ」0046 体験から経験へ。そして経験から普遍へ。
人は言葉では変わりません。
人を変えるのは、「体験」です。
体験とは他者との出会い。ものごとでも人でも良い。その他者との出会いと格闘を通して、自分が変えられるということです。
教師だったころ、7年間ほど、臨床心理士の佐藤忠司先生からカウンセリングを学びました。先生がよくおっしゃったのは、「答えを与えてはいけない。その場を一緒に過ごすことが大切」ということでした。
相談してくる相手に答えを与えるのは、話を早く切り上げたいから。
カウンセリングで大切なのは、一緒に生きる時間を持つことなのだと。
言葉ではなく、体験が人を変えるということとつながると思います。
その体験が、自分の全存在をかけたものである時、結果の良しあしに関わらず、その体験は、哲学者森有正先生が言うところの「経験」に昇華します。
そしてその経験は個人的なものから、普遍的なものになってゆく。
普遍的とは、他者にも伝わる形になる、ということです。
つまり、人類の宝になる。
多くの場合、普遍的な経験を語る文章は、長い物語になります。
長い物語を読むには長い時間が必要です。作者と共に長い道のりを共に歩まなければなりません。
そのような形でのみ、個人的な経験が普遍的な経験として共有されるのだと思います。
例えば、プルーストの「失われた時をもとめて」や、フランクルの「夜と霧」のような。
名作、と呼ばれる著作には全てこのような普遍的な経験を共有する力があります。
時間をかけず、苦労もしないで大切なものを手に入れることはできないんですね。
「失われた時をもとめて」
人間はほんのわずかな物理的空間を占めるにすぎないが、時間的に見ると、長い歴史をその小さな肉体の中に刻んでいる。
このことを「経験」するために、あの膨大な著作を読まなければならないんです。
私家版パンセとは
ぼくは5年間のサラリーマン生活をした後、キリスト教主義の学校で30年間、英語を教えました。 たくさんの人と出会い、貴重な学びと経験を得ることができました。もちろん、本からも学び続け、考え続けて来ました。 そんな生活の中で、いくつかの言葉が残りました。そんな小さな思考の断片をご紹介したいと思います。 これらの言葉がほんの少しでも誰かの力になれたら幸いです。
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