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#034.バテについて考える

今回はトランペット吹きの大敵「バテ」のお話です。


そもそもバテとは何か

トランペットを演奏していると疲労により思ったように音が出せなくなることの通称を「バテ」と呼びます。その理由はいくつかあり、大きく分類すると以下の3つに絞られると私は考えます。

1.筋肉疲労によるバテ
2.血流の悪化によるバテ
3.精神的なバテ

筋肉疲労によるバテ

トランペットは体を使うことで音を発生させるので、寝ているようなリラックス状態では演奏に必要な機能が働きません。人間は体を動かすために筋肉の収縮(働くこと)が必要になりますが、どれだけ負担をかけないように使っていても筋肉はいつか必ず疲労します。

筋肉は休ませなければ長時間使い続けられないことを楽器を演奏する最に理解しておくことが大切です。

しかし、トランペットを演奏するために必要な口周辺の筋肉などは大した力を必要としておらず、正しく効率的な使い方や定期的な短い休憩をはさめば筋力バテはなかなか起こりません。

血流の悪化によるバテ

この場合の血流とは唇とその周辺を指し、具体的にはマウスピースのリムが唇に触れ続けることによる血流の悪化です。粘膜部分の多い繊細な唇周辺は、物体に圧迫され続ける経験がほとんどないために違和感を覚えやすく、しかも演奏中に無意識にマウスピースを押し付けたくなる傾向にある奏者が多いことから、唇が痺れて感覚も反応も鈍くなってしまう状態です。

これも筋肉疲労によるバテと同様、可能な限り回避する方法や意識の持ち方がありますが、ひとつ大切なことは血流バテをしたくないからとマウスピースと唇を極力接触しないよう、まるで浮かすような状態で演奏するのは奏法のバランス崩れが起きて、かえってバテを誘発しやすくなります。

精神的なバテ

これは上記2つとはアプローチが異なります。簡単に言えば「やる気がない」状態です。

眠いとか、具合が悪いとか、体全体が疲れているとか、単に気が乗らないとか、音楽に集中できない他の気になることがあるなど様々あると思います。本番当日などローテンションでも楽器を演奏しなければならない時もあると思いますが、体調や気持ちが乗らないのであれば可能な限り休むことをお勧めします。1日ゆっくり休ませたり、他に楽しいことをするなどしてリフレッシュし、元気になったらまたモリモリ練習すれば良いのです。毎日絶対楽器を吹かなければならないと思う必要はありません。

誰でもバテます

「プロの人ってバテないじゃないか」と思っていませんか?当然バテます。人間ですから。ただ「バテにくい吹き方」「バテないための対策」をしているのです。これはプロだからできるわけではなく誰でも心がけていれば手に入れられるスキルです。

まず大切なのは「バテない吹き方などない」と理解しておきましょう。

「バテない」ではなく「バテにくい」を目指す

鍛える発想は持たない

僕が中学生のとき、口を横に思い切り引っ張って唇だけで鉛筆をくわえ、落ちないようにキープする訓練をさせられました。理由はバテないための筋力作りだそうです。
また、その当時部活に来ていた指導者(アマチュア)は「バテるのは練習が足りないから」「バテは甘え」「バテてからが練習だ」と本気で言っていました。この人だけでなく、みんながそう言っているそんな時代でした。

当時は健康に演奏し続ける方法を多くの人が知らないかったわけです。

ではバテ対策、具体的にはどうすれば良いでしょうか。

マウスピースリムの重要性


マウスピースのリム、これは何のためにあるのでしょうか。リムの役割とは、

位置を固定する(ずれないようにする)これが目的です。では何の位置でしょうか。答えは、リム内の状態です。

トランペットは唇が振動することで音が出ますが、その唇というのはリムの中にある唇を指します。ですから、リムより外にある部分はトランペットの音の出る原理とは直接関係がありません。したがって演奏するためのセッティングとは、リムの中をセッティングすることなのです。

これを理解しないで顔面の筋肉を駆使し、やれ横に引っ張るだのそうでないの、マウスピースの当てる位置はどこが正しいだの、唇を巻くな開くな楽器の角度がああだこうだと言っているから混乱してしまうのです。音の出る原理は非常にシンプルであり、そして明確です。

リム内の唇とアパチュアサイズが最適であれば音は出ます。そしてそのバランスを保つためにリムが唇やその周辺に適切に「貼りつく」ことが必要なのです。リムの貼りつきは決してグイグイ押し付ける必要はありませんし、それはやらない方がいいです。その割合は実際にマウスピースとどの程度触れ合っていればくっついてくれるか実験すればすぐわかります。軽く接触すれば貼りついてずれませんね。

貼りつきが起こり、リム内の状態がベストをキープできていれば、リムより外側の筋肉を駆使する必要はありませんから、結果的にバテにくい演奏が実現するわけです。

したがって、効率良く演奏できていると筋力バテは起こりません

プレスという言葉

「プレス」という言葉をよく耳にします。マウスピースのリムが唇に貼りついている状態を指す言葉ですが、言葉のニュアンスからどうしても「押し付ける」イメージを持ってしまいがちです。したがって私はできるだけこの言葉は使いません。

ただしプレス行為が悪いのではなく、意味もなくギュウギュウ押し付けることによるデメリットがあるのです。かと言って、極力リムと唇を接触させないようにすると今度は口周辺の筋肉で固定しなければならず、筋力バテが簡単に起こりますから大変良くありません。結局は先ほどの「貼りつく」状態で演奏することが大切なのです。

しかしリムが唇とその周辺に貼りつき続けていると、今度は血流バテが起こります。この血流バテは人間である以上、条件が揃ってしまうとプロでも誰でも起きてしまいます。

対策は、できるだけこまめにリムを唇から離す時間を作ることです。合奏中でも1小節空いたら唇から離す。完全に離してしまうとセッティングに時間がかかりますから上唇は軽く触れているだけの「浮かせる」状態にし、下唇はすぐに同じ位置に戻って来られるように、ほんの少しだけ離します。

したがって、自由に時間を使える個人練習時などはこまめに休憩を入れます。よく10分吹いたら5分休憩など時間で考えることが多いですが、演奏する内容、課題、楽器、空間などの条件でそれらは大きく変わりますから、「隙あらば唇から離す」と考えて、キリの良いところまで吹いたらコンディションが戻るまで時間をあける、など臨機応変に休みを入れてください。

いい音を追求することがバテにくさに繋がる

バテないようにしようと考えると、どうしても守りに入りがちです。楽器の演奏は守りに入った時点で歯車の噛み合わせが狂い出します。また、楽器がコントロールしきれていない状態は、同時に体に負担がかかっている状態です。したがって音楽表現も音色もベストなものを追求し続ける積極的な演奏をしてください。


さていかがでしょうか。トランペットは常にバテとの隣り合わせです。「バテナイ」ではなく「バテにくい」を追求して練習してみましょう。

それではまた次回です!


荻原明(おぎわらあきら)

荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。