「戦時の嘘」に描かれた戦争プロパガンダ⑩~ドイツの「死体工場」
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大戦中に広まった最も荒唐無稽な嘘の一つが、ドイツの「死体工場」の噂だろう。「ドイツ人は、戦場で死んだ兵士の死体を工場で加工している」というものだ。
兵士の死体を加工する工場?
1917年4月16日の「タイムズ」にはこうある。
翌日の「タイムズ」紙にはさらに詳細な説明があった。裸にされ、束ねられたドイツ兵の死体が鉄道で到着し、大釜で煮られ、ステアリン酸と蒸留された油が製造されるという。
嘘が広まったきっかけとは
このような噂ができた発端は、誤訳(意図的かもしれないが)の可能性がある。ドイツ語の「kadaver」は死体という意味だが、「動物の死骸」という意味であり、人間の死体を指すときには使わない。
でっち上げの話であることは言うまでもないのだが、「死体工場」の話は英国内のみならず、諸外国(特に中国、インドなど東洋)に対する効果的なプロパガンダとして活用された。
英国政府の不作為
1917年4月30日の下院でのやりとりは、流布する嘘についての英国政府の姿勢がよく表れている。
すなわち、政府高官は「死体工場」の話が嘘だと承知しつつも、誤った話が広まるのを積極的に止める努力はしなかったのである。敵に対する卑劣な中傷が広まった場合、それを進んで否定するのを控えた方が政府にとって好都合である。ポンソンビーは、この手の「政府の敢えての不作為」にも厳しい目を向けている。(Ponsonby1928)
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