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その他(2000年〜2009年)

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雑誌等に投稿した原稿です(2000年〜2009年)
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#前川徹

長崎県と佐賀市の取組みから何を学ぶか 「行政とADP」 (2005年6月)

長崎県と佐賀市の取組みから何を学ぶか 「行政とADP」 (2005年6月)

 地方自治体におけるIT調達改革の取組みは、それぞれの自治体によって進捗状況に大きな差があるだけでなく、その取組みの方向性もかなり異なっている。本稿では「自前設計型」の長崎県と「SI連携型」の佐賀市を取り上げ、そのIT調達改革から学ぶべきものを考えてみたい。


1. 自前設計と小分け発注の長崎県1.1. 自前設計の手法

 長崎県のIT調達の特徴は、自前設計と小分け発注にある。自前設計とは、県

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すでに通信と放送の融合時代は始まっている (「季刊EIT」 2006年3月)

すでに通信と放送の融合時代は始まっている (「季刊EIT」 2006年3月)

 世界で最もブロードバンドが普及している韓国では、国民のテレビ視聴時間と地上波テレビの広告収入がともに低下傾向にあるという。原因の一つは、数年前からドラマを含むテレビ番組がインターネットで再配信されるようになったからである。好きな時に見ることができるオンデマンドの番組もあるし、モバイル機器向けのテレビ放送もすでに韓国では普及している。おそらく、今後日本でも韓国のようにパソコンや携帯電話、PDAでテ

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「ウェブ言論」は人権侵害の無法地帯だ (2007年3月)

「ウェブ言論」は人権侵害の無法地帯だ (2007年3月)

 インターネット上での人権侵害が深刻化している。事件は、もはやインターネット上だけに留まらず、現実の生活に影響を及ぼすようになってきた。

 たとえば、あなたがブログに何気なく書いた一言が巨大な匿名電子掲示板である「2ちゃんねる」上で取り上げられ、そこにあなたを誹謗中傷するような書き込みが大量におこなわれて「祭り」と呼ばれる状況になり、「発掘」と呼ばれる作業によって、あなたの実名や勤務先、家族構成

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ネットバブルの崩壊から得られた教訓  第4回 「競争を勝ち抜く戦略」 (2004年)

ネットバブルの崩壊から得られた教訓  第4回 「競争を勝ち抜く戦略」 (2004年)

 米国商務省センサス局が調査している小売業のオンライン売上を見ると、前年同期比で20%台後半の伸びが続いています。この電子商取引市場の拡大に大きく寄与しているのは、「ピュア・プレーヤー」と呼ばれるインターネット専業の小売店ではなく、「マルチチャンネル・プレーヤー」と呼ばれる既存の小売業者になっています。

 たとえば、世界最大の小売企業であるWal-Mart、百貨店のJC Penny、Sears

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ネットバブルの崩壊から得られた教訓  第3回 「勝ち組みの成功要因は何なのか」 (2004年)

ネットバブルの崩壊から得られた教訓  第3回 「勝ち組みの成功要因は何なのか」 (2004年)

 ネットバブル時代に多くのECサイトが目指したビジネスモデルが、薄利多売型のネット小売モデルでした。しかし、このビジネスモデルで成功したのは極めて限られています。ピュア・プレーヤーと呼ばれるネット専業の企業に限定すると、大成功したのはAmazon.comだけかもしれません。

 前回に説明したように、Amazon.comのような薄利多売型のビジネスモデルでは、資金が枯渇する前に、十分な数の顧客を獲

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ネットバブルの崩壊から得られた教訓  第2回 「破綻した企業と破綻した原因を考える」 (2004年)

ネットバブルの崩壊から得られた教訓  第2回 「破綻した企業と破綻した原因を考える」 (2004年)

 破綻した企業はすべて、ValueAmericaのように顧客の評判が悪かったわけではありません。たとえば、ネット上で玩具を販売していたeToysは、2001年3月に破産してしまいましたが、とても評判のよい企業でした。たとえば、優良ウェブサイトを紹介した『Gomez BEST WEB 2001』という本が2000年に出版されていますが、eToysは、この本の玩具部門では第1位にランクされています。ま

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ネットバブルの崩壊から得られた教訓  第1回 「ネットバブルの崩壊で何が起きたのか」 (2004年)

ネットバブルの崩壊から得られた教訓  第1回 「ネットバブルの崩壊で何が起きたのか」 (2004年)

 新興の情報系企業が数多く上場しているナスダック総合株価指数をみると、2000年3月10日に5048ポイントを記録した後、歴史的な下降局面に入り、約1年後の2001年4月初めに1600ポイント台まで下落しています。これが、いわゆるネットバブルの崩壊です。ドットコム企業の株価は暴落し、いくつもの上場企業が破産してしまいました。また、それ以上の数のネット系ベンチャーが、新規株式公開の夢を実現できないま

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ソフトウェア開発におけるパラダイムシフト自著書評『ソフトウェア最前線』 (2004年11月)

ソフトウェア開発におけるパラダイムシフト自著書評『ソフトウェア最前線』 (2004年11月)

背景あるいは問題意識

 我々の生活を支えている社会インフラの多くはコンピュータによって制御されている。たとえば、電話やインターネットなどの通信ネットワークはもちろん、金融システム、電力、ガス、公共交通機関などがコンピュータによって制御されている。また、マイクロエレクトロニクスの進歩によってコンピュータは小型化し、 身の回りのさまざまな機器に組み込まれるようになった。エアコン、炊飯器、洗濯機、ビデ

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個人情報保護のためにアクセス管理の徹底を (2004年12月)

個人情報保護のためにアクセス管理の徹底を (2004年12月)

 「情報化」とは情報をデジタル化して関係者で共有することによって効率化を図ることである。
 たとえば、EDI(Electronic Data Interchange)は、商取引において交換される注文書、納品書、請求書などの帳票類をデジタル化してネットワークを通じて交換することによって事務の効率化を実現する。また、CALS(Continuous Acquisition and Life-cycle

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ITと企業戦略の関係を考える 第5回  「ITケイパビリティの重要性」 ソフトバンク ビジネス+IT (2006年6月)

ITと企業戦略の関係を考える 第5回  「ITケイパビリティの重要性」 ソフトバンク ビジネス+IT (2006年6月)

 過去4回にわたり、「ITは基盤技術でありコモディティ化が進んでいるので、もはや持続的な競争優位の源泉にはらならない」というニコラス・カーの主張を吟味してきた。この最終回ではITを企業戦略に活かすために必要な要素を考えてみたい。

ITに戦略的価値はまったくないのか

 ITそのものが競争優位の源泉にはなり得ないからと言って、直ちにITには競争戦略上の価値がないと結論することはできない。ITは、競

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ITと企業戦略の関係を考える 第4回  「ITの戦略的価値に関する議論」 ソフトバンク ビジネス+IT (2006年5月)

ITと企業戦略の関係を考える 第4回  「ITの戦略的価値に関する議論」 ソフトバンク ビジネス+IT (2006年5月)

 前回までに「ITは基盤技術でありコモディティ化が進んでいる」というニコラス・カーの主張を解説してきた。今回は「コモディティ化したITは持続的な競争優位の源泉にはらならない」という彼の主張の核心部分を考えてみよう。

競争優位をもたらすものは何か

 ITベンダーやIT系コンサルタント、企業のCIOはもちろん、一部の企業経営者は競争優位を獲得するためにITをいかに活用するかという問題に正面から取り

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ITと企業戦略の関係を考える 第3回  「オーバーシューティングが引き起こす問題」 ソフトバンク ビジネス+IT (2006年4月)

ITと企業戦略の関係を考える 第3回  「オーバーシューティングが引き起こす問題」 ソフトバンク ビジネス+IT (2006年4月)

 前回は「ITは、電話や電力、鉄道などの技術と同じように基盤的技術であり、技術的な成熟にあわせてコモディティ(日用品のように誰でも容易に入手できるもの)になりつつある」というニコラス・G・カー(Nicholas G. Carr)の主張を紹介した。今回は、オーバーシューティングが引き起こすより深刻な問題を考える。

オーバーシューティングとは何か

 カーは、ITが抱えるもう一つの問題を指摘している

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ITと企業戦略の関係を考える 第2回  「ITはコモディティ化しているのか?」 ソフトバンク ビジネス+IT (2006年3月)

ITと企業戦略の関係を考える 第2回  「ITはコモディティ化しているのか?」 ソフトバンク ビジネス+IT (2006年3月)

 第1回では、ニコラス・G・カー(Nicholas G. Carr)が”IT Doesn’t Matter”( ハーバード・ビジネス・レビュー2003年5月号に掲載)で伝えたかったことは、「ITは、もはや企業にとって持続的な競争優位の源泉ではなくなっている」ということであり、それは「ITが電話や電力、鉄道などの基盤的技術と同じように技術的な成熟にあわせてコモディティ(日用品のように誰でも容易に入手

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ITと企業戦略の関係を考える 第1回  「ニコラス・カーは “IT Doesn't Matter” で何を伝えたかったのか」 ソフトバンク ビジネス+IT (2006年2月)

ITと企業戦略の関係を考える 第1回  「ニコラス・カーは “IT Doesn't Matter” で何を伝えたかったのか」 ソフトバンク ビジネス+IT (2006年2月)

ITにお金を使うのは無駄?

 もう3年ほど前になるが、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)の2003年5月号に ”IT Doesn’t Matter” という論文が掲載された。著者はニコラス・G・カー(Nicholas G. Carr)、ビジネス戦略と情報技術に関して数多くの記事や論文を書いている著述家で、現在はコンサルタントと紹介されることもある。

 “IT Doesn’t Matter

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