前川 徹

東京通信大学情報マネジメント学部教授、国際大学GLOCOM主幹研究員などを兼務。読書が…

前川 徹

東京通信大学情報マネジメント学部教授、国際大学GLOCOM主幹研究員などを兼務。読書が趣味。好きな作家は丸谷才一、村上春樹、葉室麟、澤田瞳子、安部龍太郎、伊東潤、浅田次郎、アンソニー・ホロヴィッツ、ジェフリー・アーチャー、マイクル・コナリーなど

マガジン

  • DX再考

    デジタル・トランスフォーメーション(DX)に関する論考です。いろいろな角度からDXについて考えてみたいと思います。

  • その他(2010〜2019年)

    2010年から2019年に書いた記事など

  • その他(2000年〜2009年)

    雑誌等に投稿した原稿です(2000年〜2009年)

  • BCN 視点

    週刊BCNの「視点」用に書いた原稿です

  • NCニュースの読み方

    日経コンピュータ連載の「前川徹のニュースの読み方」です。

最近の記事

DX再考 #21 苦悩する新聞社

日本の媒体別広告費の推移  デジタル化の波の中で写真フィルム市場のように破壊的な打撃を受けている産業をもう一つ取り上げておこう。それは新聞である。  次のグラフは、主なメディア別の広告費の推移をみたものである。データの出典は電通の「日本の広告費」「広告景気年表」である。  このグラフを各年の広告市場を100として各メディアのシェアがわかるグラフに書き直してみると以下のようになる。  このグラフをみてわかる通り、1980年には日本の広告費の約3割を占めていた新聞広告市場は

    • DX再考 #20 コダックの経営破綻

      コダックのデジタル化への取組み  富士フイルムのDXについて取り上げたついでに、イーストマン・コダックのデジタル化への対応についても簡単に説明しておこう。  コダックについては、デジタル化の波に呑み込まれて2012年1月に経営破綻したと言われることが多いが、これは半分正しくて、半分は誤っている。  コダックは、世界で初めてデジタルカメラを開発した企業である。市販品ではなく試作品ではあるが、1975年にデジタルカメラを開発している。この事実だけでも、コダックはデジタル化に乗

      • DX再考 #19 富士フイルムのDX

        デジタルカメラ市場の競争激化  20年以上前のことなので覚えている人は少ないかもしれないが、富士フイルムは、世界のデジタルカメラ市場で2割以上のシェアを持っていた。具体的な数字を挙げれば、富士フイルムは、2000年頃には国内のデジタルカメラ市場で28%、世界市場でも23%のシェアを持っており、世界最大のデジタルカメラのメーカーであった  しかし、キヤノン、ニコン、オリンパスといったフィルムカメラを製造していた企業はもちろん、ソニー、パナソニック(当時は松下電器産業)、カシオ

        • DX再考 #18 デジタル・ディスラプション

          デジタル・ディスラプションの構図  デジタル・ディスラプション(Digital Disruption)とは、デジタル技術の発展・普及によってもたらされるイノベーションによって、既存の商品・サービス、ビジネス、産業が破壊される現象である。  すでに起きたデジタル・ディスラプションの例で言えば、デジタルカメラの進歩と普及によって、銀塩フィルムを使った写真関連産業は、ほぼ壊滅してしまった。通常の写真用フィルムの市場だけでなく、フィルムを使ったカメラの市場、フィルムの現像・焼付け・

        DX再考 #21 苦悩する新聞社

        マガジン

        • DX再考
          17本
        • その他(2010〜2019年)
          17本
        • その他(2000年〜2009年)
          48本
        • BCN 視点
          59本
        • NCニュースの読み方
          26本
        • 溜池随想録
          26本

        記事

          DX再考 #17 自動化(その2)

          ディープラーニング  前回紹介した焼きたてパンやきゅうり、廃棄物の識別に使われている技術がディープラーニング(深層学習)である。   ディープラーニングは、機械学習の一つの手法であり、この分野の第一人者である東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授は、「人工知能研究における50年来のブレークスルー」だと評価している技術である。1  ディープラーニングは、脳の神経回路の一部を模したニューラルネットワークに大量のデータ(テキスト、画像、音声など)を入力することによって学習を行う

          DX再考 #17 自動化(その2)

          DX再考 #16 自動化(その1)

          DX時代の自動化  DXによる変化の特徴の最後は「自動化」である。自動化とは技術を用いて労働や作業を代替することであり、言うまでもなく、DX以前から存在している。DX時代の自動化は、それ以前の自動化とは異なる特徴がある。  以下の表にその違いをまとめてみたが、DX以前の自動化は、主に工場における単純な繰り返し作業の自動化であり、代替される労働の種類は肉体労働である。一方DX時代の自動化は、ルール化された繰り返し作業やフィードバックのある繰り返し作業であり、労働の種類も知的労

          DX再考 #16 自動化(その1)

          DX再考 #15 データ駆動(その4)

          ホークアイ(Hawk-Eye)  スポーツにおけるDXは日々進化している。おそらく、この原稿を書いている時点でスポーツ界で最もよく利用されているシステムの一つは「ホークアイ」だろう。  2022年のサッカー・ワールドカップでは「三笘の1ミリ」がニュースになったが、この判定で利用されていたのもホークアイだと言われている。ホークアイは、サッカーだけでなく、さまざまなスポーツのボールのトラッキングやビデオ判定に活用されている。たとえば、テニスのイン・アウト判定や野球の投球や打撃の

          DX再考 #15 データ駆動(その4)

          DX再考 #14 データ駆動(その3)

          TSG 1899 ホッフェンハイム  データによって次のアクションを決定したり、意思決定を行う「データ駆動」が実用化されているのはビジネスの世界だけでなない。次に取り上げるのはスポーツの世界である。  TSG 1899ホッフェンハイムは、ドイツ南部の人口3万5000人程度のジンスハイム市のホッフェンハイム地区を本拠地とするスポーツ総合クラブである。1899年7月に体育と陸上競技のクラブとして設立され、1945年にサッカークラブ「FVホッフェンハイム」を吸収している。  こ

          DX再考 #14 データ駆動(その3)

          DX再考 #13 データ駆動(その2)

          KOMTRAXの効用  KOMTRAXがどのような効用をもたらしたかを理解するためには、まず建設機械(建機)ビジネスの特徴を知っておく必要がある。  TCO(Total Cost of Ownership)を考えると、建機の場合には本体の価格よりランニングコストが大きい。つまり燃料費やオペレーターの賃金、メンテナンス費、修理費、盗難保険料、(ローンで購入した場合は)ローンの手数料の合計が建機の価格の2倍から3倍になる。  仮に建機が故障して工事が進まなくてもオペレーターの賃

          DX再考 #13 データ駆動(その2)

          DX再考 #12 データ駆動(その1)

          データ駆動社会  4つ目のキーワードは「データ駆動」あるいは「データ・ドリブン」である。そもそもデータ駆動とは、データ駆動型とは、データを基にして次に行うことを決定することである。  政府が喧伝するSociety 5.0では、社会全体がデータと高度に連動する「データ駆動社会」になると想定されている。データ駆動社会は、あらゆるモノがインターネットに繋がる「IoT(Internet of Things)」の延長に生まれた言葉で、IoTによって得られた莫大なデータを解析してビジネ

          DX再考 #12 データ駆動(その1)

          DX再考 #11 所有から利用へ/サブスクリプション (その2)

          所有から利用へのパラダイムシフト  Office 365やAdobe Creative Cloudのようなサブスクリプション・サービスは、SaaS(Software as a Service)と呼ばれる。このSaaSに加えてPaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)などをまとめてクラウド・サービスと呼ぶことがある。  クラウド・サービスは、ユーザー側からみれば「所有から利用へのパラダイムシフト」

          DX再考 #11 所有から利用へ/サブスクリプション (その2)

          DX再考 #10 所有から利用へ/サブスクリプション (その1)

          サブスクリプションとは  サブスクリプションとは、製品やサービスなどの一定期間の利用に対して、定額の利用料を支払うものをいう。  分かりやすい事例は、音楽のサブスクリプション・サービスだろう。かつて音楽は、レコードやCDなどの音楽を収録したパッケージ・メディアとして販売されていた。インターネットの発達によって音楽をダウンロード販売できるようになったが、これはメディア(媒体)がパッケージからオンラインに変化しただけで、音楽という情報財を販売するというビジネスモデルには変化がな

          DX再考 #10 所有から利用へ/サブスクリプション (その1)

          DX再考 #9 最適化

          パーソナライゼーション  パーソナライゼーションとは消費者一人ひとりに、そのニーズに合致した製品、サービス、コンテンツ、情報を届けることである。  たとえば、ECサイトでは商品の購入履歴や閲覧履歴を分析して、その人にお薦めの商品が表示されることがある。いわゆるレコメンデーションと呼ばれる機能である。  インターネット広告では、利用者のインターネット上での行動履歴を元に、その人の興味関心を推測して広告配信を行うという「行動ターゲッティング広告」という手法があるが、これもパーソ

          DX再考 #9 最適化

          DX再考 #8 プラットフォーム・ビジネス(その4)

          シェアリング・エコノミーとプラットフォーム  前回の定義に従えば、シェアリング・エコノミーはプラットフォーム・ビジネスでもある。  たとえば、Uberのようなライドシェアは、自家用車で旅客運送をしようというドライバーと手早く(できるだけ安価に)移動したいという利用者とをマッチングするプラットフォームになっている。  AirBNBのような宿泊仲介サービスの場合には、宿泊施設や空き部屋を持つ企業や個人と、宿泊場所を探している利用者をマッチングするプラットフォームである。 シ

          DX再考 #8 プラットフォーム・ビジネス(その4)

          DX再考 #7 プラットフォーム・ビジネス(その3)

          マッチメーカー  ここで取り上げているプラットフォーム・ビジネスは、経済学や経営学の世界では「ツーサイドプラットホーム(two sided platforms)」と呼ばれ [1] 、プラットフォーム・ビジネスが成立する市場は「二面市場(two-sided market)」と呼ばれている。二面市場とは、インターネット・オークションにおける「売りたい人」と「買いたい人」、Airbnbの「泊まりたい人」「空き部屋を宿泊用に提供したい人」のように、異なる2種類の参加者をマッチングす

          DX再考 #7 プラットフォーム・ビジネス(その3)

          DX再考 #6 プラットフォーム・ビジネス(その2)

          プラットフォーム・ビジネスが注目される理由  近年、デジタル技術をフルに活用して2種類のユーザー・グループ間の取引を仲介するプラットフォームを提供している企業やビジネスモデルが非常に注目を浴びている理由はいくつかある。  第一に、時価総額ランキングの上位企業(GAFA, BAT [1] など)の多くが、プラットフォームを運営しているからである。  第二に、プラットフォーム・ビジネスは、急成長し、既存のビジネスの存続を脅かしたり、破壊するケースがあるからである。たとえば、プ

          DX再考 #6 プラットフォーム・ビジネス(その2)