見出し画像

DX再考 #9 最適化

パーソナライゼーション

 パーソナライゼーションとは消費者一人ひとりに、そのニーズに合致した製品、サービス、コンテンツ、情報を届けることである。
 たとえば、ECサイトでは商品の購入履歴や閲覧履歴を分析して、その人にお薦めの商品が表示されることがある。いわゆるレコメンデーションと呼ばれる機能である。
 インターネット広告では、利用者のインターネット上での行動履歴を元に、その人の興味関心を推測して広告配信を行うという「行動ターゲッティング広告」という手法があるが、これもパーソナライゼーションの一つである。一般的に、利用者がウェブサイトにアクセスした際に、当該利用者のパソコンやスマートフォン等に記録されるCookie(クッキー)等を使って、個人の特定やその人の趣味嗜好・性別・年齢層・居住地域等を推測しているのだが、その仕組みの解説は省略する。
 同様に検索エンジンも、利用者の検索履歴やクリックされたWebページの履歴などのデータを用いて、検索結果が利用者別にカスタマイズされている。このため同じ検索エンジンで同じキーワードを使って検索しても、利用者が異なると検索結果が微妙に異なる。
 パーソナライゼーションという概念は以前から存在しているが、ビッグデータやAIを用いることによって、精度が向上し、かつ適用範囲が拡大している。

Bodygram(ボディグラム)

 Bodygramは、カスタムシャツのネット販売をしていたOriginal Inc.から2019年1月に独立した米国のスタートアップである。2019年7月に日本法人を設立しており、2020年6月にはスマートフォン向けアプリの提供を開始している。
 Bodygramが提供しているサービスは、アパレルのパーソナライゼーションための身体計測サービスである。スマホで撮影した正面と側面の2枚の写真と身長・体重・性別・年齢の4つの情報から、蓄積したビッグデータとAI技術によって、体形を三次元的に計測(推測)する技術を持っている。計測できるのは、肩幅や首周り、バスト、ウェスト、ヒップ、裄丈、袖丈など全身25箇所で、それぞれの寸法を1ミリ単位で推測してくれる。
 スマートフォン用のアプリは無料で提供されているが、BodygramはこのAI身体採寸サービスをアパレル企業に提供して収入を得ている。
 これもまたパーソナライゼーションの事例の一つと言えるだろう。

学習分野の最適化

 学習や教育の領域でもパーソナライゼーションが進みつつある。
 たとえば、2017年4月設立のEdTechスタートアップであるatama plusは、AIによって生徒一人ひとりの得意、苦手、習熟度を分析して、最適な「自分専用レッスン」をアダプティブに作成するサービスを提供している。
 文部科学省も個別最適化された学びの実現に向けて研究を進める方針を明らかにしている。

児童生徒一人一人の能力や適性に応じて個別最適化された学びの実現に向けて、スタディ・ログ等を蓄積した学びのポートフォリオ(後述)を活用しながら、個々人の学習傾向や活動状況、各教科・単元の特質等を踏まえた実践的な研究・開発を行う

出典:文部科学省「Society 5.0に向けた人材育成」平成30年6月5日、p.18

 もう一つ例を挙げておこう。(株)COMPASSが提供するQubena(キュビナ)は、各生徒の問題ごとの解答プロセスや必要時間、正答率等の情報を人工知能が収集、蓄積、解析し、個別最適化学習を提供できるAIタブレット型教材である。2018年度、2019年度に経済産業省の「未来の教室」実証実験に採用され、麹町中学校での実証実験では、必要な授業時間を半分に短縮できたと言われている。このQubenaは学習塾でも利用されており、1学期分の授業(14週間)を2週間で完了できたというデータもある。

フィルターバブル

 残念ながら、パーソナライゼーション/個別最適化は良いことばかりではない。Yahoo!ニュース、スマートニュース、グノシーなどのニュースサイトやGoogleなどの検索エンジンは、個人の利用履歴データを利用して個別最適化を実施しているが、これは知りたい情報や関心のあるニュースが表示されるてという点で便利なものであると同時に、それぞれの利用者が見たいと思うものしか表示されないという問題を抱えている。
 このニュースサイトや検索エンジンに組み込まれたアルゴリズムが、利用者一人ひとりの検索履歴や閲覧履歴を分析し学習し、利用者が知りたいと思われる情報が優先的に表示される仕組みは「フィルターバブル」と呼ばれている。
 つまり、この仕組みによって、利用者の関心や趣味趣向に合わない情報は表示されないことになり、利用者個人の考え方や価値観の「バブル(泡)」の中に孤立してしまうことになる。自分に関心のない情報、自分の考えに反する情報に触れることがなくなることによって、ネット上の分断が進む可能性があるのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?