見出し画像

DX再考 #11 所有から利用へ/サブスクリプション (その2)

所有から利用へのパラダイムシフト

 Office 365やAdobe Creative Cloudのようなサブスクリプション・サービスは、SaaS(Software as a Service)と呼ばれる。このSaaSに加えてPaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)などをまとめてクラウド・サービスと呼ぶことがある。
 クラウド・サービスは、ユーザー側からみれば「所有から利用へのパラダイムシフト」だと言える。かつて情報システムはハードウェアもソフトウェアも、ユーザが購入してオンプレミスで利用するものであった。ところがクラウドのサービスは、ネットワークの向こう側にあるリソースを利用して情報処理を行うことを可能にした。つまり使い時に使えればよいのであって、情報処理に必要なリソースを自分で持つ必要はない。
 この所有から利用へのパラダイムシフトは、音楽のサブスクリプションで考えるともっとわかりやすい。もはやレコードや音楽CDを所有する必要はなく、ネットワークの向こう側にある1億曲を超える音楽を好きな時に楽しむことができればよい。多くの消費者はそう考えるようになった。
 日本の消費者は、なかなか所有から利用へ考え方を変えられないようだが、米国の音楽市場をみると、はっきりと所有から利用へのパラダイムシフトが起きている。

出典:米国レコード産業協会:RIAA(https://www.riaa.com/u-s-sales-database/)

製品の販売からサービスの提供へ

 一方、この変化を事業者側(ベンダー側)からみれば、製品の販売からサービスの提供へのパラダイムシフトであると捉えることができる。SaaSの場合、従来はパッケージソフトを販売していたビジネスが、そのソフトウェアを使って情報を処理するサービスを提供するビジネスに変わるということである。IaaSで言えば、顧客にサーバーを販売していたビジネスを、インターネット経由でサーバーを構築・運用できる環境をサービスするというビジネスに転換するということになる。
 音楽ビジネスの場合も同じで、音楽を録音したレコードや音楽CDを販売するビジネスから、いつでもどこでも好きな音楽を楽しめるサービスを提供するビジネスへの転換である。

サブスクリプションのメリット

 サブスクリプションというサービスを提供するビジネスは、製品を販売するビジネスに比べていくつものメリットがある。
(1) 顧客管理が容易になる
 製品販売に比べて顧客管理が容易になる。製品を販売するビジネスの場合だと、どの顧客がいつどのような製品を購入したのかを管理し、場合によってはそのメンテナンス状況やバージョンアップ状況などを把握する必要があるが、サブスクリプションの場合には顧客であるかどうか、いつ料金を支払ったかだけを管理すればよくなる。

(2)収入が安定する
 収入が安定するというメリットもある。製品の販売だと新製品や新バージョンを発表した後に収入の山があり、その後に収入が落ち込む谷がやってくるが、サブスクリプションの場合には毎月、単価×顧客数の収入があることになる。

(3) 新規顧客が獲得しやすくなる
 さらに新顧客を獲得することも容易になる。製品の販売の場合、初期費用が必要になるが、サブスクリプションの場合には1ヶ月の利用料金だけで利用を開始することができるので、新規顧客を獲得しやすくなる。もし可能であれば、新規の顧客の場合、最初の3ヶ月間は無料にするという方法も可能である。

(4) 利用データが活用できる
 サブスクリプションの場合には、利用者の利用データを収集・分析し、サービスの向上に役立てることが可能である。利用データを分析すれば、利用者のニーズを把握することができ、より便利な機能を追加したり、よく利用されるデータ処理時間を短縮をすることによって、顧客満足度を向上させることができる

(5) リスクを抑えてバージョンアップが可能
 もう一つ、ソフトウェアの場合、リスクを抑えてバージョンアップが可能になるというメリットもある。製品販売の場合にはバージョンアップしたパッケージソフトを発表しても、既存顧客がそれを購入してくれる保証はない。特に成熟した分野のパッケージソフトの場合、機能追加や性能向上が売上に結びつかない可能性が高い。サブスクリプションの場合には、ベンダーの都合に合わせてリスクの低いバージョンアップが可能である。

サブスクリプションの戦略

 サブスクリプション・ビジネスを成功させるには、製品販売とはことなる戦略が必要になる。
 まず、サブスクリプションの料金プランを戦略的に決める必要がある。もちろん、すべて同じ条件で同じ料金という「単一価格」を選択する手もあるが、顧客管理が容易で、利用者にも分かりやすいというメリットはあるものの、新規顧客獲得と収入の最大化という観点からみると、あまりよい選択とは言えない。

 サブスクリプションでよく見られるのが、エントリー、ベーシック、プレミアムのような3段階の価格設定である。このいわゆる松竹梅方式の価格設定の場合、利用者は真ん中のプランを選ぶことが多いので、利用者に選んで欲しいプラン/料金を真ん中に設定するとよい。さらに一歩進めて4段階、5段階とプラン/料金を分けることもあるが、あまり複雑にしすぎない方が良い。
 また、新規顧客獲得のためには、一定期間無料で試せる「無料トライアル」の制度を設けるとよい。

 提供するサービスとコスト構造にもよるが「フリーミアムモデル」を採用するという方法もある。一般利用者は無料で利用できるのだが、本格的に利用するユーザから利用料を徴収したり、ゲームの場合には特定のアイテムやキャラクターの入手に対して課金したりするという方法である。

 料金や課金の方法以外では、以下に解約率を下げるか(つまり顧客ロイヤルティや顧客満足度をいかにして向上させるか)が重要になる。この鍵になるのが、利用データを分析して機能向上やサービス向上を図ることである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?