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DX再考 #12 データ駆動(その1)

データ駆動社会

 4つ目のキーワードは「データ駆動」あるいは「データ・ドリブン」である。そもそもデータ駆動とは、データ駆動型とは、データを基にして次に行うことを決定することである。
 政府が喧伝するSociety 5.0では、社会全体がデータと高度に連動する「データ駆動社会」になると想定されている。データ駆動社会は、あらゆるモノがインターネットに繋がる「IoT(Internet of Things)」の延長に生まれた言葉で、IoTによって得られた莫大なデータを解析してビジネス、社会経済社に活用するというビジョンでもある。
 2018年6月に内閣官房から公開された「未来投資戦略2018」には次のような記述がある。

これまで世の中に分散し眠っていたデータを一気に収集・分析・活用する(ビッグデータ化)ことにより、生産・サービスの現場やマーケティングの劇的な精緻化・効率化が図られ、画一的ではない、個別のニーズにきめ細かく、かつリアルタイムで対応できる商品やサービス提供が可能になる

出典:内閣官房「未来投資戦略2018-『Society 5.0』『データ駆動型社会』への変革-」2018年6月

 ちなみにIoTは、従来、サーバやパソコン、スマートフォンやタブレット端末などを接続していたインターネットに、あらゆるモノが接続されることを意味しており、2015年の予測では、2020年には500億個を超えるモノがインターネットに接続されることになっていた。

データの出典:NTCA “Behind The Numbers: Growth in the Internet of Things”, Mar.20, 2015 (https://www.ncta.com/whats-new/behind-the-numbers-growth-in-the-internet-of-things)

KOMTRAX

 IoTやデータ駆動の事例としてよく取り上げられるのがKOMTRAXである。株式会社小松製作所(コマツ)が開発した建設車両の情報を遠隔確認するためのシステムであり、KOMTRAXはKomatsu Machine Tracking Systemのアクロニムである。
 コマツの建設車両は、世界中で稼働しているが、KOMTRAXは、その建設車両から自動で情報を収集し、遠隔での車両の監視・管理・分析を可能にしている。2001年から標準装備化され、2019年11月時点で56万台以上がKOMTRAX に接続されている。収集した情報は、インターネット経由で顧客に提供すると共に、コマツ(現地法人を含む)と代理店で活用可能となっている。次の図はそのイメージである。

出典:筆者作成(建機等のシルエット画像は無料イラストサイトから)

 このKOMTRAXには以下のような機能がある。

(1) 遠隔ロック
 建設機械が盗難されたと思われる場合には、センター側から建機を稼働できなくすること(ロック)が可能である。これは建機のユーザがレンタル料を支払わない場合や、レンタル期間切れにも関わらず返却しない場合にも利用できる。

(2) 車両位置確認
 建機にはGPSが搭載されており、その位置を携帯基地局や通信衛星経由で把握することができるので、地図上に建機の位置を表示することや、建機の移動経路を把握でき、建機の最適な配置、配車が可能になる。

(3) 車両管理
 建機の管理番号、現場名、検査期日、作業員名などを登録しておけば、建設車両の管理が容易になる。

(4) 稼働管理
 建機の位置、稼働時間、コーション(警告)情報、燃料残量等を把握できるので、建機ごとの稼働率を把握できる。

(5) 保守管理
 建機の保守作業の管理やコーション(警告)の管理が可能であり、収集したデータを分析することにより、消耗品や部品を交換するタイミングを通知できる(予防保守が可能)。

(6) 省エネ運転支援
 燃料の消費量やCO2排出量を把握することができ、データを分析することによって、省エネ運転の提案も可能である。

KOMTRAX開発の経緯

 このKOMTRAXの開発の経緯についても簡単に記述しておこう。
 発端は、盗んだ建機をつかって現金自動預支払機(ATM)を収納ブースごと破壊して現金を盗むという窃盗事件である。
 当時、開発部門から経営企画室に派遣されていた技術者が、建設機械を遠隔監視する仕組みに関する企画書を経営企画室長であった坂根正弘氏(後に社長に就任)に提出した。坂根氏はこの企画書を評価して、研究開発を承認し、後にKOMTRAXと呼ばれることになるシステムの開発プロジェクトがスタートしている。このプロジェクトはコマツ社内でオーソライズされたものではなく、経営企画室のプロジェクトだったと言われている。

 1998年に5台の試作品が完成し、そのテストを福島県郡山市の建機レンタル会社の(株)ビッグレンタルに依頼した。この実証実験の結果、建設機械の稼働率が従来の4割から8割に向上するという予想以上の成果が得られた。
 ちょうどこの頃、コマツ社内ではKOMTRAXの開発を継続し、事業化するかどうかについて議論が行われており、プロジェクトは存亡の危機にあった。しかし、そのタイミングで、ビッグレンタルからKOMTRAXの大量発注があり、2000年にKOMTRAXは正式に製品化されることとなった。
 ちなみに、2001年9月、コマツとビッグレンタルが「遠隔配置された対象物を監視するシステム及び方法」を共同で特許出願している。

 2001年6月、坂根氏が社長に就任し、その翌年にはKOMTRAXをすべての建機に標準装備することを決定している(それまではユーザ・オプションの扱いであった)。
 2008年には、KOMTRAXの事業化に貢献したビッグレンタルがコマツレンタル株式会社としてコマツの傘下に入っている。また、2015年にはビッグレンタルの創業社長 四家千佳史(しけ ちかし)氏が、コマツの執行役員になり、スマートコンストラクション推進本部長に就任している。
 2022年、KOMTRAXの機能はさらに強化され、建設機械の状態をほぼリアルタイムで収集可能になり、故障の予兆を察知して事前に部品交換すること(予防保全)によって突発的な故障をほぼゼロにすることが可能となった。これによって、建設機械の稼働率はさらに高まることとなった。


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