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DX再考 #20 コダックの経営破綻

コダックのデジタル化への取組み

 富士フイルムのDXについて取り上げたついでに、イーストマン・コダックのデジタル化への対応についても簡単に説明しておこう。
 コダックについては、デジタル化の波に呑み込まれて2012年1月に経営破綻したと言われることが多いが、これは半分正しくて、半分は誤っている。

 コダックは、世界で初めてデジタルカメラを開発した企業である。市販品ではなく試作品ではあるが、1975年にデジタルカメラを開発している。この事実だけでも、コダックはデジタル化に乗り遅れたわけでなないことがわかるだろう。ちなみに、このデジタルカメラを開発したのは入社2年目、当時24歳のスティーブ・サッソンである。画素は100×100ピクセル(10,000ピクセル)で重さは3.6kgもあった。

 1970年代、コダックは2010年までに写真市場が完全にデジタル化すると予測していたと言われている。このためコダックは、1993年までに50億ドルをデジタル分野に投資している。半導体分野の特許出願数をみると、1989年〜1993年までのコダックの出願数は富士フイルムより多い。(ただし、この分野の特許の出願数が急増するのは、富士フイルムは1997年頃から、コダックは2001年頃からである)

 コダックは2001年4月、デジタルカメラ「EasyShare」を発売している。このEasyShareは、撮影した写真を簡単にパソコンに送り込む機能がついていて、友人知人と簡単に写真をシェアできる便利なカメラであった。
 コダックのデジタルカメラ市場におけるシェアをみると、2004年には米国市場で21.9%を占めており、メーカー別にみればトップの位置にいた。海外市場をみても、2004年時点では、オーストラリア、アルゼンチン、ペルー、チリで首位、ドイツ、英国、メキシコ、ブラジルで第3位のシェアを獲得している。ちなみに、ホームデジタルフォトプリンターの米国市場でもトップシェア(2004年)であったし、最も利用されている店頭プリント端末はコダック製だったと言われている。

 この事実からみれば、コダックはデジタル化への対応が遅れて、2012年1月に連邦倒産法第11章の適用を申請した(経営破綻した)というのは間違いだということがわかる。

コダックの失敗とその原因

 コダックは2004年に、写真フィルム関連設備の集約化と27,000人の従業員のリストラを世界規模で実施している。これは写真フィルム市場が世界的に急速に縮小していたからである。しかし前述したように、これは1970年代からコダックが予想していた未来が現実になったにすぎない。

 コダックは富士フイルムと同じように医療分野に関心をもっており、医薬品や医療機器の分野に投資をしてきている。その結果、1980年代半ばから医薬品分野における特許出願が増加しており、1988年には医薬会社スターリング・ドラック社を買収している。しかし、1994年にこの医薬会社を売却し、1996年以降は医薬分野の特許出願数が減少している。さらに育成してきた医療機器事業を2007年に売却している。

 この一貫性のなさは、CEOの交代とそれに伴う戦略変更が原因だと推察されている。
 コダックは1993年、デジタル技術を強化するというの狙いから、半導体メーカであるモトローラからジョージ・フィッシャーをCEOとして招聘した。1988年に買収した医薬品会社を1994年に売却し、中国市場など新興市場における写真フィルム事業に投資する決断をしたのは、このフィッシャーである。
 2000年には、コダック生え抜きのダニエル・カープがCEOに就任している。カープは、デジタルカメラの開発を再び加速し、2001年4月にはデジタルカメラEasyShareを市場に投入、米国市場などでトップシェアを獲得している。カープは、医療機器のデジタル化にも投資をしている。

 そんな中、2005年にCEOに着任したのは、ヒューレット・パッカード(HP)からやってきたアントニオ・ペレスである。ペレスは、2003年にコダックのCOOになっているのだが、その前はHPの副社長であり、デジタルイメージング、電子パブリッシング事業、インクジェット・イメージング事業などを担当していた。
 このペレツは、2007年に医療機器事業を売却、高品質&高価格なインクジェット・プリンター市場に参入するという決断をしている。おそらく、HP時代の経験を活かそうとしたのだろう。

 このチグハグな経営戦略の結果、コダックは2012年に経営破綻することになったのである。デジタル化によって写真フィルム産業が衰退することを予想し、デジタルカメラに投資し、かつ医薬品や医療機器の分野に投資をしたという点では、富士フイルムに似ている。しかし、CEOが交代する度に経営方針が変更になった点が富士フイルムと異なっている。


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