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シナリオの文芸論的基礎:現代日本文芸思想史の未来予想(応用編5)

漱石と九鬼周造。本稿では二人の文芸論を比較し、日本文芸思想史の論点とその未来を予想する。文学の歴史は古代から現代まで直観に関する考え方次第で変化してきており、その意義づけも様々に成立し新たな文学の概念を生み出してきていた。古代の文学は論理が中心の文学だったが、ニーチェが悲劇の誕生で明らかにするまで論理が中心の文学は西洋文学の典型的な捉え方となっていた。古代からの文学に対して19から20世紀の文学は複雑な表現を追求するようになり、パスカル以来の繊細の精神という作家の個性が重視されていた。プロテスタンティズムにより個人の信仰生活が重視され、それを根拠にした天賦人権に基づく職業倫理と結合して発達した個人主義による個人の自主独立の思想が社会的通念となり歴史の進歩の動因になったことがその背景にはある。だがそのことで、日本文学での自我の問題(哲学的文芸論における全体的想念の存在論)をはじめとした様々な矛盾が発生していた。文学では詩人や小説家と言った専門的職業が出版業や批評の発達により大規模な市場として確立していき標準化が進んだ。だが二十世紀には、社会の貨幣経済化に対する封建的な土地貴族(本当の土地貴族なら土地に貨幣価値を認めないだろう。この場合土地はブルジョワジーが発達させた市民の文学が基づく商業出版のための信用の担保ともなり得なくなってしまう。ブルジョワ文学の成立は血の土地(マタイ27-8、使徒言行録3-17-19)にではなく文芸の永遠の価値である無形の時間価値に対する合理的期待だったのであり聖書の内容は矛盾してさえいる。)の近代以降の孤立と対立が文芸思想でも先鋭化し、同じ直観でも現代から見て捉え方が異なっていた。

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