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【レビュー】『去る者見せた、意地と覚悟』~第42節ツエーゲン金沢VSファジアーノ岡山~



試合結果

2023 J2 第42節
11/12 13:03K.O. @石川県西部緑地公園陸上競技場
金沢(1-1)岡山
12分 林誠道
28分 永井龍


スタメン


マッチレポート

19試合目の引き分け。
“ラストプレーの気持ち”が見えた90分

岡山は前節から先発4選手を変更。山田大樹と木村が8か月ぶりに先発に名を連ね、長期離脱から復帰した永井が今季初先発を飾った。

突然の出来事だった。岡山が不本意な形で試合を動かす。12分、自陣でのビルドアップにミスが発生。相手のプレスを背中で受けた田部井のバックパスが、自陣ゴール前にいた相手FWへ一直線に転がっていく。そのまま林に流し込まれ、先制を許した。

予想だにしないミスによる痛恨の失点だった。しかし、今季限りで退団する永井が魂のプレーでチームをけん引する。前線から激しくプレスをかけ、体を投げ出してパスカットを狙う。スペースに流れるプレーとポストプレーで起点を作り、PA内で何度も動き直してボールを呼び込んだ。

背番号38のゴールに向かう姿勢が伝播したのか。木村太哉は左サイドを力強く突破し続け、河野も右サイドから鋭いクロスを供給する。左CBの鈴木も積極的な攻撃参加を見せ、波状攻撃を仕掛ける。

待望の瞬間は28分に訪れた。輪笠がゴール前に鋭いボールを流し入れると、永井がスライディングシュートで合わせる。相手DFとの駆け引きに勝利したストライカーが同点弾を決めてみせた。その後は積極的にミドルシュートを打ちながら、相手のカウンターはヨルディ・バイスが弾き返して防いだ。

後半は木村勇大と加藤大樹の2トップに変更した金沢にチャンスを作られる。3バックの脇からゴール前への進入を許したが、最後の局面でのタイトな対応でシュートを枠内に飛ばさせない。67分に末吉と井川を投入する。背番号17が左サイドを突破し、今季初出場の背番号20は中盤の底から左右にパスを散らし、球際の強さを発揮してフィルター役も務めた。80分には“岡山でのラストゲーム”となった濱田がバイスと熱い抱擁を交わしてピッチへ。その左腕には腕章があった。

オープンな展開の中、最後まで一進一退の攻防が続いた。しかし、歓喜を呼び込む1点は生まれずに2023シーズンが幕を閉じた。

リーグ最多タイの19試合目の引き分けで、結果こそ振るわなかった。それでも、今季でチームを去る選手たちが「何かを残そう」と気持ちを見せてプレーした。そんな彼らの勇姿を目に焼き付ける、90分だった。


コラム

全てを懸けて戦う。
永井龍が見せた覚悟

永井龍が見せた全身全霊のプレーに、心が打たれっぱなしだった。

入場時から顔つきが違った。いつも笑顔を絶やさず、底抜けに明るい生粋の関西人。それが永井に対する印象だ。今節は彼にとって岡山でのラストマッチ。今季は度重なるケガでほとんどをリハビリに費やした。ついに掴んだ先発出場は約1年ぶり。鋭い眼光を放ち、“ファジサポ”の方を何度も見ながらピッチに入場した。

最後の時計の針が動き出すと、背番号38は、一生懸命に、必死にプレーした。前線からの守備では二度追い、三度追いを披露し、スライディングで相手のクリアを阻む。スペースに流れるプレーとポストプレーで起点を作り、PA内では何度も相手と駆け引きしてボールを呼び込む。献身性、機動力、技術、ゴールへの姿勢。自分の力を存分に発揮し、存在価値を証明してやる。並々ならぬ覚悟を感じた。

そして、ストライカーは最高の形で結果を残す。28分、輪笠のクロスに体を投げ出して反応した。ボールが来る前に相手DFの背中を取り、前に出て、再び背中を取る。動き直してマークを完全に振り切ると、スライディングで押し込んだ。“生粋のワンタッチゴーラー”を象徴するような今季初ゴールだった。

タイムアップを迎えると、足を攣っていた。限界突破の全力プレーだった。勝利とはならなかったが、確かなものを、ピッチに、サポーターの心に残した。自分自身のために、支えてくれた家族のために。プロとして、ストライカーとしての意地を見せる。その姿は力強く、美しかった。




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