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『ザリガニの鳴くところ』を読んで
ディーリア・オーウェンズ著『ザリガニの鳴くところ』を読みました。
ようやくザリガニ仲間の一員になれた、と言ったほうがしっくりくるかも知れません。2021年本屋大賞の翻訳小説部門第1位にもなった話題作です。手練れの本読みの皆さんがきっと心を震わせたであろう箇所、その部分の光をひとつずつ拾うかのように、大切に読み進めました。
舞台はアメリカの架空の地。湿地という特異な場所に主人公のカイアは一人
『スーパーノヴァ』を観て
二日続けて、カラスが蝉を捕食する瞬間に遭遇する。ワシワシした声が急に変調して、ジジジとなって消え去るのってひとつのホラーです。
映画『スーパーノヴァ』を観ました。コリン・ファースとスタンリー・トゥッチのカップルが愛の素晴らしさを音楽のように全身で奏でます。ときに激しく、優しく、哀しさをもって。愛する人のためにできることとは何なのでしょう。答えはなかなか出そうにないけれど、年を重ねたらまた観たいと
『プロミシング・ヤング・ウーマン』を観て
親友を傷つけた昔の同級生を断罪し、復讐をする物語。元医大生で現在はカフェ店員の主人公をキャリー・マリガンが演じます。彼女といえば『わたしを離さないで』『未来を花束にして』といった社会性のある映画が印象深いところ。聞いたところによると脚本を吟味して出演作を選ぶことで知られているそうです。そうと聞いたらますます放っておけませんよね。
映画は最初から度肝を抜かれます。キャリー・マリガン演じるキャシーは
映画『サンドラの小さな家』を観て
観る前に抱いていた期待は、いい意味で裏切られた。『サンドラの小さな家』はDV夫から逃げて棲む家を失った母親が、自力で家を建てようとする話である。筋は知っていたけれど、驚いたのはその強さ。子どもを守りつつ、暴力に怯えながら生きる女性のつらさ、公的支援をなかなか受けられない弱い立場の人たちの今が、画面を通して強く訴えかけられる。
それもそのはず、本作は主役のサンドラを務めたクレア・ダンが友人の窮
映画『この世界に残されて』を観て
『この世界に残されて』はナチスドイツの支配下にあり、約56万のユダヤ人が殺害されたハンガリーの戦後、1948年が舞台である。この年はソ連支配が強まり始めたころであった。ホロコーストの残酷な爪痕と社会主義化前夜の市井の人々が描かれる。
両親と妹を失った16歳のクララ(アビゲール・スーケ)は、診療で出会った寡黙な中年医師アルド(カーロイ・ハイデュク)に同じ境遇を嗅ぎとり、心を寄せるようになる。彼
映画『エイブのキッチンストーリー』を観て
主人公はイスラエル系の母と、パレスチナ系の父を両親にもつ、ブルックリン育ちの12歳の少年。家族の宗教観や文化の違いに迷い、翻弄されながらも、自分の好きな料理の力でなんとか歩いていこうというストーリー。
これはですね、もう少年・エイブが気の毒で仕方がなかったですね。当然ですが祖父母や伯父はそれぞれの価値観を深く信じており、できるだけ無宗教で育てようと決意したはずのエイブの両親も、互いの家族が激論を
映画『ミッドナイトスワン』(9/25公開)
内田英治監督・草彅剛主演の『ミッドナイトスワン』が9/25に公開される。SNSを活用した宣伝員の公募で運良く50人のうちの一人に選ばれ、一足先に鑑賞した。紹介したく、短く記す。
あらすじはこうだ。新宿のニューハーフクラブで働く凪沙(なぎさ・草彅剛)のもとに、中学生の一果(いちか・服部樹咲)が転がり込む。実の親により傷つけられた少女は自分との折り合いがつけられずにいた。間もなく少女はバレエと出
『ポルトガル、夏の終わり』を観て
食事の良さは世界一、という話を聞いたかつての私は、半年後ポルトガルにいた。すぐに、料理もお菓子もワインも、出されるすべてが食いしん坊を十分に満足させることはわかった。と同時に、あくせくしていないこの国の、特別な何かに気づくことになる。ゆったりした空気に、余計に感情を引き出される感覚を覚えたのである。
『ポルトガル、夏の終わり』は、余命を覚悟した女優・フランキー(イザベル・ユペール)が、世界遺産の