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夏目漱石『夢十夜』関連記事

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2021年9月の記事一覧

📖夏目漱石『夢十夜』第四夜

📖夏目漱石『夢十夜』第四夜

作中の「爺さん」は仙人か、マジシャンか、はたまた単なる狂人なのか? 「手拭を蛇に変えてみせる」と主張したまま、最後には川に潜って出て来なくなってしまう。読者はそんな爺さんに対し、狂気と得体の知れない恐怖を感じるのではないだろうか?

爺さんの思考力は信頼に足るものか?最初に明言したいことがある。それは、「爺さん」だからといって、【判断力が欠如しているとは限らない】ということである。乱暴な言い方にな

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📖夏目漱石『夢十夜』第三夜

📖夏目漱石『夢十夜』第三夜

第三夜は盲目の青坊主を背負う話である。語り手にとっては気味が悪くて仕方ない。語り手は青坊主を背負ったまま、森の中を歩いていく。森の闇の中、ある杉の木の方へと歩いていく。石標は赤い字で行き先を示している。第三夜は『夢十夜』でも屈指の怖さを誇るのではないか。

なるほど八寸角の石が腰ほどの高さに立っている。表には左り日ヶ窪、右堀田原とある。闇だのに赤い字が明らかに見えた。赤い字は井守の腹のような色であ

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📖夏目漱石『夢十夜』第二夜

📖夏目漱石『夢十夜』第二夜

今日は夏目漱石『夢十夜』第二夜を読んでいきたい。第一夜はまことに幻想的な物語であった。地球ともつかぬ場所で百合の花に接吻する男の話が展開されていた。第二夜では打って変わって、江戸後期の禅寺が舞台となっている。

 襖の画は蕪村の筆である。黒い柳を濃く薄く、遠近とかいて、寒そうな漁夫が笠を傾けて土手の上を通る。床には海中文殊の軸が懸かっている。焚き残した線香が暗い方でいまだに臭っている。広い寺だから

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📖夏目漱石『夢十夜』第一夜

📖夏目漱石『夢十夜』第一夜

死んだ女を百年待っている男の話である。咲いた百合の花びらに接吻した際に、男は百年経ったことに気づいた。百合の花は生まれ変わった女の姿ではないか、と解釈するのが一般的であろう。が、これも確定しているわけではない。「〈女〉は〈女〉、百合は百合」ということもあり得る。

この疑問点については、既に優れた考察記事が書かれている。よって下記の記事を紹介したい。ぜひ参照なさっていただきたい。

『夢十夜』と『

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📖夏目漱石『夢十夜』読書メモ①

📖夏目漱石『夢十夜』読書メモ①

本作を幻想小説として捉える方も多いかもしれない。格調高い文体によって紡がれる夢の景色はたしかに美しい。だが美しいだけではない。文章の底には恐怖が沈殿している。

その点を考察したいのは山々ではあるが、まず『夢十夜』の内容や疑問点について整理しておきたい。そのため、自分のためのメモとして、読書メモを記すことにした。できれば本作をドストエフスキー『悪霊』やニーチェと関連付けて読んでみたいところである。

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