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蜷川 幸雄『演劇ほど面白いものはない 非日常の世界へ』(PHP研究所、2012年)を読みました。
アングラから始まり商業演劇に転向し世界的に認められた蜷川さんが率直に語る自伝的インタビュー録。自分を追い込んで創作するエピソードには日本的なものを感じますが創造の方法論として面白いと思いました。
本書より…
稽古中に、目の前を虫が飛ぶんです。幻覚ですが、そうやって自分を追い込んで、何かを創ろうとしていた。そんなふうに自分を追いつめていくと、たしかに頭やイメージが動き出しますが、体を痛め続けてい
風間 研『小劇場の風景―つか・野田・鴻上の劇世界』(中公新書、1992年)を読みました。
60年代のアングラ演劇から始まり、その後の第2世代~第4世代、特に、つかこうへい、野田秀樹、鴻上尚史を中心に小劇場の流れを概観する一冊。著者はフランス演劇の専門家でやや距離を置いた書き方がここちよかったです。
本書より…
だから、野田の芝居を見ていると、やがて、そこにふんだんにある「言葉遊び」が、効果的な役割を果たしていることにも気づくだろう。一見、井上ひさしの世界に近いようにも見えるが、質は
平田 オリザ『平田オリザの仕事〈1〉現代口語演劇のために』(晩聲社、1995年)を読みました。
平田オリザさんの演劇論が非常に分かりやすくコンパクトに纏まっています。「静かな演劇」の理論的背景を論理的に分かりやすく解説してあります。読めばなるほどと納得しましたし、60年代くらいからの日本の演劇の流れを俯瞰することができます。
本書より…
では、芸術は、演劇は何を伝えればいいのだろうか?私は何も伝えるべきものなどないのだと思う。ただ演劇は、人間を、世界を直接的に描くことができればそれでいい
柳生 宗矩『兵法家伝書―付・新陰流兵法目録事』(岩波文庫、2003年)を読みました。
柳生家の剣術の秘伝書が現代では岩波文庫で読むことができます。日本の出版文化の凄さを味わうことができます。内容についてはゆっくりじわじわ理解できればと思っていますが経営戦略の考え方と似ていますね。
本書より…
一 敵のかまへ、太刀先、我方へむかはば、あぐる所につけてうつべし
一 敵をうつとおもふて、我身をうたすべし。敵が我をうちさへすれば、敵をばうつた物也。
一 水月の場をとれ。それより心持を専
扇田 昭彦『才能の森―現代演劇の創り手たち』(朝日選書、2005年)を読みました。
演劇評論家扇田昭彦さんはおそらく唐十郎はじめ60年代演劇や蜷川明夫さんあたりとのインタビュー集や評論が多い印象ですが本書ではそれ以外の演劇人中心の24名(ただ、唐十郎、蜷川明夫も入っています)の評伝になっています。扇田さんが幅広く演劇を取材し演劇人と深く交流してきたことがよく分かります。(プライベートエピソードが随所に書かれています。)これだけのインテリジェンスが戦後日本演劇にあったことは幸せなこ
もっとみる平田 オリザ『「リアル」だけが生き延びる』(ウェイツ、2003年)を読みました。
平田オリザさんがまだ40そこそこで桜美林大学にいた頃の本で飾り気がなくいい味を出しています。いくつもふむふむポイントが有りました。私は演劇のことをあまり知らないので演劇人からのの学びがたくさんあります。
本書より…
六〇年代の演劇は、非常に実存主義の影響が強かったり、しかもほとんど無意識にリアリズムのタガを外してしまったために、ヒューマニズムが暴走したと僕は思っているんです。そして、ヒューマニ
森田 創『紀元2600年のテレビドラマ ブラウン管が映した時代の交差点』(講談社、2016年)を読みました。
テレビは世界に先駆けて日本で開発されました。昭和15年に開催予定であった東京オリンピックに合わせて国家プロジェクトとして進行し戦前にすでにテレビドラマが放映されていたということは知りませんでした。こうしたテレビの開発やNHKなどでテレビ時代の新しい文化を担う人々(後に著名となる中村メイコ、黒柳徹子の子役時代、著名人の親:岩下志麻のお父さん)の様子が描かれています。昭和初期~戦中期は現代文化の萌芽が
もっとみる森田 創『洲崎球場のポール際 プロ野球の「聖地」に輝いた一瞬の光』(講談社、2014年)を読みました。
当時、職業野球と揶揄されたプロ野球草創期に中心的な役割を果たした球場が今の木場、東陽町のあたりにありました。洲崎球場と呼ばれたのですがわずか2年ほどで役割を終えます。なぜかプロ野球史にも記録が残っていない謎の球場と沢村栄治、スタルヒン、景浦将などの伝説的な選手の活躍が克明に描かれている快著です。そしてこうした選手たちが戦争に出ていかざるを得なかった悲劇…巨人-阪神の伝統の一戦の始まりは弱小巨人軍の
もっとみる扇田 昭彦『劇的ルネッサンス―現代演劇は語る』(リブロポート、1983年)を読みました。
1980年代初頭に扇田昭彦氏が演劇人に対して行ったインタビュー集です。60年代~70年代のアングラ演劇を中心に戦後の演劇をつくった人々が大体40代くらいで脂の乗った頃で扇田節もあり読み応えありました。1980年代の本ですから1ページあたりの字数も多く約500ページの本、演劇人の言葉は考えつくされており、刺激的でした。
本書より…
アフリカへ行った時、原住民の妙なアフリカ漫才みたいなものを見たん
森岡 毅『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』(ダイヤモンド社、2019年)を読みました。
元USJの森岡氏がお嬢さんに向けて書いたキャリア論。日本にまだまだ足りないのがリーダーシップ教育だと感じました。アメリカ時代に血尿が出るほど追い込まれながらP&G HQで成果を出したエピソードは開拓者として立派だと思いましたが誰にでもできることではないですね。(アメリカでも陰湿な嫌がらせがあるのですね。)
本書より…
わかりやすく言うと、資本主義社会とは、サラリーマンを働かせて、資本家が儲ける
パウル クレー『造形思考(下)』(ちくま学芸文庫、2016年)を読みました。
パウル・クレーが創作の原理を解説してしまった本。生のダイナムクスとは何かを明かしたと言ってもいいでしょう。地球の重力から形のダイナミクスを語り、更に色の変化や組合せがいかに芸術に生命を吹き込むかわかりやすく書いています。なぜ2次元の絵画から力をもらえるのか分かります。そういう意味ではアートとサイエンスの融合と言えるかもしれません。驚愕の一冊。
本書より…
構造的リズムと個体的リズムの結合
宇宙
太田 省吾『なにもかもなくしてみる』(五柳叢書、2005年)を読みました。
沈黙演劇の太田省吾さんのエッセイ集。深いことを考えていらっしゃいます…
本書より…
「最高にハイの瞬間だったが、エゴが高揚するハイの瞬間(ハイの瞬間はたいていそうなのだが)ではなくて、エゴが消失するハイの瞬間だった。」わたしは、この言葉をアッという気持ちで受け取った。<劇的>と言う概念<反劇的>に、なんらかの<歓び=ハイ>を感じ合うことを目指す。だが、その<歓び=ハイ>の時は、<劇的>とは言え
出口 治明『全世界史 上巻』(新潮文庫、2018年)を読みました。
世界史をものすごい勢いで解説してくれる書。高校時代世界史を取らなかった私にとってはありがたい本。日本語文献だけでなく海外の文献も元にしているようで出口さんの博覧強記ぶりも楽しめます。歴史学の最近の成果や出口さんの推測、グローバル・ヒストリー的な世界史と日本史の絡みも面白いです。フビライ・ハンの偉大さや元寇の真実などが印象的でした。
本書より…
クビライは海外の事情に通じており、日本と交易をする
浅田 彰『ダブル・バインドを超えて』(南窓社、1985年)を読みました。
ダブルバインドとそれを唱えたベイトソンの入門書的な本。80年代に出された本だけあり、ヒッピームーブメントとの関係性の指摘も生々しいです。複雑系への言及にも時代を感じます。
本書より…
そして、次のステップ、学習Ⅲというのは、その自分が行ういろいろな行為のコンテクストとなっている自分というまとまりを「さらに一段階包み込んでいる、いわば意味システムみたいなことについて、自分が学習しちゃうというレヴ