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蔵出し映画レビュー『大河への道』

『嘘八百』や『記憶にございません!』などシニア層のハートを掴むコメディ映画の主演が多くなった中井貴一。そんな中井貴一主演映画の最新作は立川志の輔の落語を元にしただけのことはあって、現代のパートは軽妙なコメディに仕上がっている。

中井貴一が演じる香取市役所の総務課の主任・池本を中心とした伊能忠敬大河ドラマ化プロジェクトの奔走のくだりは面白い。特に池本の部下の木下を演じる松山ケンイチのボケとガヤ的なつぶやきが絶妙で、これを中井貴一がツッコむスタイルが現代パートの大半を占め、コメディ作品として楽しめる。

橋爪功が演じる老脚本家も頑固な曲者キャラとして味があり、これに中井貴一が振り回される。加えて、北川景子が演じる観光課の課長のクールさや松山ケンイチが演じる木下の周りをチョロチョロしているOLなどいかにも地方の市役所らしさが出ていて、お役所コメディとしても楽しめる。

が、回想パートとなる江戸時代のパートになると、ややシリアスなドラマになりトーンダウンする。元が立川志の輔の「伊能忠敬が一切出てこない伊能忠敬物語」だけあって伊能忠敬は出てこないので、極めて地味な時代劇ドラマを展開している。それなりに伊能忠敬なしでどうするかの奔走はしているが、現代パートのようなコメディ調は影を潜めてしまい、現代パートの勢いが止まってしまう。

それと、この時代劇パートも中井貴一、松山ケンイチ、北川景子など現代パートと同じキャストだが、ここで北川景子の綺麗さが異様で時代劇にマッチしてない。しかも、北川景子のセリフ回しが時代劇パートになると急に下手に聞こえ、足を引っ張る存在でしかない。これを橋爪功や現代パートよりも出番が多い立川志の輔、肝心な所で出てくる草刈正雄が時代劇パートならではの役回りを見せるが焼け石に水。

せっかくお役所コメディとして良作なのに、シリアスな時代劇パートの地味さがわざわいして、悪くはないが痛快とまではいかない。「映画野郎」的には地味な時代劇ドラマが足をひっぱる映画になっているが、現代パートの良質コメディは捨てがたい。

 

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