シン・映画日記『光復』
ヒューマントラストシネマ有楽町で深川栄洋監督作品『光復』を見てきた。
『神様のカルテ』二部作や『60歳のラブレター』などいわゆるヒューマンドラマに定評があるが、東野圭吾原作の『白夜行』のようなサスペンスや『サクラダ・リセット』のようなファンタジー系もこなす商業監督。その彼が奥さんで女優の宮澤美保を主演に奥さんが出身の長野県長野市で作った自主映画。
深川栄洋監督が手掛ける「return to mYselFプロジェクト」第二弾だとか。
これ、まさしく和製『ダンサー・イン・ザ・ダーク』+『アンチクライスト』で、絶望感がニッポンの俗世の負の部分全部盛りというとんでもない怪作だった!
四十路の独身女性の主人公・大島圭子は15年前から親の介護のため実家の長野県長野市で暮らし、母親の介護のみで生活保護で暮らす。ある日、ちょっと目を離した隙に母親が徘徊してしまうが、この騒動をきっかけに高校時代に付き合っていた横山が地元のドラッグストアーで薬剤師として働いていることを知り、コンタクトを取る。
中盤ぐらいまでは昭和の認知症介護映画の名作『花いちもんめ』や中野量太監督の『長いお別れ』に近い認知症介護の社会派ヒューマンドラマ。後半は意外な方向に転がりまくる日本版『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とか、『許された子どもたち』のような展開がある。
全編自然光を使い、BGMや既成音楽を使わなかったり、怪奇・超常現象やアクションで展開するジャンル映画でもないというあたりはラース・フォン・トリアーやトマス・ヴィンターベアが提唱したデンマークの「ドグマ95」に通じるが、監督クレジットがあったので「ドグマ95」を知ってたのかは微妙だが、ラース・フォン・トリアーやトマス・ヴィンターベア、スザンネ・ビアといったデンマーク映画に通じる絶望的なヒューマンドラマ。
とにかくビックリするほど嫌なことばかり起こる。
市役所にしろケアマネージャーにしろ、裁判官、弁護士、警察官、検事、近隣住民など、出てくる大半の人が冷徹。
そんな中で再会したかつての恋人の横山はあり得ないぐらい親切だが、明らかにギブアンドテイクな見返りがあるかな、って思ったら案の定な展開。そこはラース・フォン・トリアーの『アンチクライスト』に通じるものがある展開になる。
後半はさらにエスカレートした展開に。
一つ「ん?」って思ったのは主人公が一応東京の大学を出ているという設定なのに、前半からちょっと頭が弱い設定になっている。
そこは介護疲れというギリギリのラインかも、と解釈せざるを得ない。
全編を通して世間がやたら冷たい、冷酷な部分は終盤の展開から推察すると仏教の六道の「人間道」をモロに描いたんだな、と納得。
その終盤の落とし所は日本らしい。そこはちょっとフランク・ダラボン監督風だがありと言えばありだし、タイトルの意味が終盤分かる。
穴はなくはないが最近では石井裕也監督『生きちゃった』がもっとも近いが、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『ミッドサマー』みたいな陰鬱な展開になれていない方だとかなり厳しく、慣れていたボクでもかなりえぐられるぐらい。
ラース・フォン・トリアー監督の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『アンチクライスト』、トマス・ヴィンターベア監督の『光のほうへ』や『偽りなき者』が好きなら絶対必見。
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