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蔵出し映画レビュー『峠 最後のサムライ』

『雨あがる』、『蜩ノ記』、『散り椿』など情緒ある時代劇映画を作らせたら随一の小泉堯史監督・脚本最新作。というより、同じ司馬遼太郎原作で『燃えよ剣』と共に新型コロナウイルスのために公開を2年待たされてようやく公開となった『峠 最後のサムライ』。戊辰戦争の最中、変わりつつある日本の最後の武士文化をアクション、ドラマ、それと情緒ある夫婦ドラマとたっぷりたっぷりな役所広司で見せた時代劇映画で、侍としての生き様もしかりだが、より役所広司を存分に味わう映画だった。

作品は長岡藩の家老・河井継之助目線の幕末・明治維新で、1868年1月の鳥羽・伏見の戦いから会津若松での戦いの間の出来事で、この辺りは日本史に詳しくなくてもなんとなく知ってるなら、展開云々よりも役所広司が演じる河井継之助の心境の変化と、周辺の風景・空気を存分に味わい、感じる映画である。なので、どことなく同じ役所広司主演映画で成島出監督作品『聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-』で感じた“憂鬱”に相通じる。

 

数々の映像美の中で夕日に烏が飛ぶカットが素晴らしく、作中で河井継之助が語っていたように拘りが見られる。また、豪放さと妙な可愛気がある主人公像も偶然ながら『聯合艦隊司令長官〜』の山本五十六に重なる。その最たるシーンが妻・おすがとのデートシーンである場所で遊ぶ姿だが、このシーンにおける役所広司と松たか子のナチュラルな雰囲気はこの二人の俳優・女優でも屈指のシーンである。

とにかく役所広司が出ずっぱりでアクションシーンでも何故か指揮官である彼が前面に立って戦う。完全主役過ぎて、西軍が完全にモブキャラになってしまい、先に公開した近い時代を描いた『燃えよ剣』と比べると、あまりにもモノローグすぎるというか淡白・単調。まあ、元の原作がそうなんだろうし、それを風景の情緒と夫婦ドラマに分散させたあたりが小泉堯史監督らしくもある。

役所広司命というぐらい役所広司が好きならたまらない役所広司時代劇映画で、これに司馬遼太郎原作のダシに小泉堯史監督・脚本風味を効かせたのが本作、と取れば深く味わえるはず。アクションの派手さは控え目だが、濃厚な役所広司の時代劇と思えば結構楽しめる。

 

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