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シン映画日記『すべてうまくいきますように』

ヒューマントラストシネマ有楽町にてフランソワ・オゾン監督作品『すべてうまくいきますように』を見てきた。


家族の尊厳死を取り扱った作品で、
ソフィー・マルソーが演じる娘目線を中心に
死にたい父とその周りを取り巻く家族を描いている。

ある日、エマニュエルの父アンドレが脳卒中で倒れ、病院に運ばれる。一命を取りとめるが身体が不自由になり、しばらくしてアンドレはエマニュエルに自らの死を懇願するようになり「尊厳死」を希望するが、エマニュエルら家族は困惑することに。

いわゆる「尊厳死」の映画というとカナダ映画の『みなさん、さようなら』やスペイン映画の『海を飛ぶ夢』、ドイツ映画の『君がくれたグッドライフ』などいくつかあるが、
本作もエマニュエルの目線が中心でありながら、真正面からフランスにおける「尊厳死」を取り上げたヒューマンドラマ。

迫りくる父が切望する「死」をなんとか止めさせようとするエマニュエルと妹のパスカルだが、頑固なアンドレは何とか押し通そうとするから、娘らも全力では拒むことは出来ない。

病気で身体が不自由な高齢者の「尊厳死」という重いけど地味そうな題材ながら、
『8人の女たち』や『スイミング・プール』、『危険なプロット』を手掛けてきたフランソワ・オゾン。
展開はよく見ると非常に単純で、
死にたい父となんとか死なせない方向に持っていきたい長女エマニュエルと次女パスカル。
しかしながら、「死にたい」父の要望は出来るだけ答えたいので、尊厳死が可能なスイスでの執行の手続きを整えていく。
この矛盾する気持ちと過ぎ行く日々から、
見る者は「え?本当に遂行するの?」とか「実は途中で止めるんじゃね?」と最後までハラハラドキドキが途切れずに成り行きを見ていく。

本作は『まぼろし』や『スイミング・プール』、『ふたりの5つの別れ路』などの脚本を手掛けたエマニュエル・ベルンエイムの原作、というかずばり彼女の父親の「尊厳死」を題材にした作品。
しかも、エマニュエル・ベルンエイムは2017年に亡くなっているので、
本作はフランソワ・オゾン監督によるエマニュエル・ベルンエイムに対するレクイエムの意味合いを持つ作品である。

そのためか、
エマニュエルの部屋からアンドレの部屋、彫刻家の母親の部屋(工房?)、アンドレの病室、各レストランでの食事シーンなど、室内シーンにおける室内装飾、小道具、色彩にいたるまで気合いが入っている。
エマニュエルの部屋やファッション等は赤やピンクの系統の色でまとめ、
対してアンドレの場合は水色やライトグリーンなど青系統の色で統一し、映像を見せている。

また、アンドレか美術コレクターでアンドレの妻クロードが彫刻家というだけあって、室内に壺や絵画、美術品がそこここに溢れているし、随所でブラームスの曲がかかる。
見るからにハイソサエティな生活が伺えるが、
それが嫌味に見えなく、ごく自然であることがこの映画のポイントでもあるし、
アンドレの医療費やあまり仕事をしているシーンがないエマニュエルの様子も全て「お金に余裕がある人たち」と見れるから、
安心してエマニュエルとアンドレの「死」の攻防が見られる。

全体的にフランソワ・オゾンの作品では珍しいヒューマンドラマ調の作品だが、後半のアンドレに関するある描写から突如見られる「やっぱりオゾン!」と言いたくなる。
新境地のようでいて、
実はフランソワ・オゾンとエマニュエル・ベルンエイムの最後のコラボレーションと考えると
本来フランソワ・オゾンが描きたかった映画であり、
それがたまたまフランソワ・オゾンの新たなる傑作になっている。

それをどことなくルイス・ブニュエル監督の『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』のスパイスを加えたフランソワ・オゾンならではのエマニュエル・ベルンエイムに対する映画葬としている。

『みなさん、さようなら』や『海を飛ぶ夢』、『君がくれたグッドライフ』のどれとも違う新たな味わいの「尊厳死」の映画になったのはフランソワ・オゾンとエマニュエル・ベルンエイムの最後のコラボレーションが成し得た着地点であり、完成度が高い。

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