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蔵出し映画レビュー『C.R.A.Z.Y.』

『ヴィクトリア女王 世紀の愛』や『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャン=マルク・ヴァレ監督が『ヴィクトリア女王 世紀の愛』よりも前に作った作品で、今回本邦初公開になる『C.R.A.Z.Y.』。

主人公が生まれてから大人になる約20〜30年を描いた壮大な青春成長期で、父と子、兄弟や母、恋人との繊細な葛藤を描きながら、時代の音楽でポップに彩る秀作である。

日本で言えば『青春の門』みたいな作品だが、流石にあそこまで重さ・暗さはなく、近い時期に作られたイタリア映画『輝ける青春』(6時間ある超大作)の方がテイスト的には近い。敬虔なクリスチャンの家庭で、1960年代から80年代という時代を描きながら、その時代その時代の事件・ニュースや各キャラクターの仕事や学校といった事柄は最小限に、主人公ザックの影響を受けたものとライフスタイル、父と兄アンソニーを中心に、母、他の兄・弟、近所の幼馴染、従兄妹などといった人との関係性を見せた青春映画になっている。

その中でも一番時間を割いているのがザックの性に関することで、これが一番のテーマである。昨今の言葉で言えば「性の多様性」になるが、その描き方がフランソワ・オゾンやガス・ヴァン・サントみたいに極端にLGBTに特化したものではなくて、非常に緻密な描き方である。それはカトリックという宗教の道義的なもの、主人公の親世代の「家族」や「世間」の価値観といった外側からの視点と、ザックの女性観、好み、趣味から由来する内側からの視点と両面から描く。なので、完全なGではなく、どちらかといえばとか、男子なら誰にでもありえそうな経験を捉えたもので、そこに完全なLGBT映画よりも共感・好感が持てる。

結局の所はそうじゃない人にとっては五十歩百歩で、その対応は『ブロークバック・マウンテン』でも見られた前時代的な価値観で、そこの部分の時代性は正確であったとうかがえる。

これと、父子におけるあるエピソードから起こる断絶もポイントの一つ。この断絶の構図は『エデンの東』のそれに通じる普遍的なもの。『エデンの東』と違うのはそこに音楽をアイテムとして絡ませていること。この溝埋めを父子の共通の趣味である音楽を巧みに使う。

映画のタイトルは5兄弟の頭文字から取っただけではなくパッツィー・クラインの「クレイジー」にも被らせたダブルミーニングになっていて、このアナログレコードがキーにもなっている。他にも各パーティーシーンで父が必ず唄うシャルル・アズナヴールの「世界の果て(Emmenez-moi)」も味がある使い方である。他にもデヴィッド・ボウイやローリング・ストーンズ、ピンク・フロイドなど、センスの良さと時代性を出したチョイスで雰囲気が良い青春映画になっている。

行ったり来たり、つかず離れずの末に着地点の読めなさではポール・トーマス・アンダーソン監督の『リコリス・ピザ』やヨアキム・トリアー監督の『わたしは最悪。』に勝るとも劣らない傑作。性の緻密な表現はひょっとしたらフランソワ・オゾンやガス・ヴァン・サント、ペドロ・アルモドバル以上かも。上記で挙げた作品や監督が好きなら見ておいた方がいい。

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