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15秒で読める小説

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15秒で読める!140字創作小説
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#眠れない夜に

【140字小説】望郷

【140字小説】望郷

ゴミ袋をぶら下げ夜道を歩く。左右の家からTVと食卓の音が漏れ聞こえた。仰いだ空に星が幾つか瞬いている。

ふと、随分遠くまで来たな…と思う。生まれ育ったあの町も、同じような夜に包まれているだろうか。帰りたいな。

その前にゴミ袋の中身を処分しなくては…。

【140字小説】真夜中我が家奇譚

【140字小説】真夜中我が家奇譚

夜中、尿意で目覚める。

時計のカチコチという音が耳につく中ドアを開ければ、長いタイルの廊下が伸びていた。

…あれ、寝室の時計って静音仕様じゃなかった?
…ウチの廊下はフローリングじゃなかった?

考えないようにしてトイレを済ませ、布団に戻ってぎゅっと目を閉じる。

【140字小説】深海リビング

【140字小説】深海リビング

取り込んだ洗濯物を山積みにすると、息子が寄ってきて音もなく畳み始める。

私は何故だか海底の鯨の死骸に集まるグソクムシを思い浮かべる。

その一瞬、我が家の狭いリビングは確かに深海なのだ。

暗くて寒くて静かで暗い…………

「終わったぁ!」
元気な声で我に返る。

【140字小説】ひぐらし

【140字小説】ひぐらし

カナカナカナ…
ひぐらしの声。

プールからの帰り道。

「ひぐらしが鳴くと夏休み終わっちゃう感あるねー」私は横を歩く友人に言った。

「違うよ、あれは私を呼んでる声だよ」

その瞬間、湿度を帯びた重苦しい風が吹き抜ける。

新学期、友人は…香奈は登校してこなかった。

【140字小説】助言

【140字小説】助言

ずっと何かを忘れて生きてるでしょう?

忘れてる事すら忘れてるくらい朧げな何か。

そうして浴室で1人、
目を閉じ髪を洗っていると
脳裏にぼんやり浮かんでくる何か。

…それ以上考えないで!

“何か”が輪郭を取り戻したら
きっと貴方が目を開けたとき
後ろに立っているから。

【140字小説】ずっと探してる

【140字小説】ずっと探してる

おおお…

あの素敵なおうちはどこですか?

坂の街の上のほう。

白壁に緑色の屋根が映える。

手入れされた庭。

毛並みのいい大きな犬。

駐車場にはお洒落な黄色い車が

停まってる。

僕が昨日さらわれて殺された

あのおうちは一体どこですか?

おおお…おおお怨

【140字小説】ノンフィクション

【140字小説】ノンフィクション

雨が降っている。
遠くでサイレンが鳴っている。
前にもこんな夜があったような。
それとも映画で観たワンシーンの記憶だろうか。
映画の中では殺人鬼が侵入して家人を…。
___ガシャン
暗い玄関の方で何かが割れる音がした。

【140字小説】村

【140字小説】村

逃げる様に上京し10数年。
気ままで心地良い都会暮らし。

久々にマニュキアを塗る。
「あームラができちゃった」
呟くと息子が
「爪に村ができるの?」

「まさかそんなわけ…」
言いかけた時どこからともなく祭囃子の音が聞こえた。

急いで除光液で落とし、以降私はマニュキアを塗らない。

【140字小説】終末の雨

【140字小説】終末の雨

雨が降ると遠くから川の放流サイレンが聞こえる。

薄暗い部屋でそれを聞いていると、さながら終末気分だ。

浮かれた花金の声も雨音とサイレンで塗り潰され、ただの薄暗い一日の始まり。

外からは誰かが布団を叩く音が響き続けている。

そろそろ私も布団を干さなくては。

【140字小説】戻った手紙

【140字小説】戻った手紙

手紙が戻ってきた。

遥か昔に1度だけ訪れた、
桜で煙る遠い国。
そこで出会ったあの子宛ての手紙。

ラジオから
あの国が噴火で沈んだと
聞こえてくる。
90秒の短いニュース。

あの子に貸した僕の宝物、
時が経つと大変な事になるから送り返して
と書いた手紙。

間に合わなかったんだ。

【140字小説】帰宅

【140字小説】帰宅

「ママ」
一瞬誰かの声がした。見回してみたがそもそも我が家に子供は居ない。私はまたTVへ視線を戻す。

「ママ!」
今度ははっきり聞こえた。振り向けば隣家の子が顔中血塗れでぼーっと浮いている。前が見えないから帰る家を間違えたかな。

遠くで救急車の音がする。

【140字小説】てるてる坊主

【140字小説】てるてる坊主

雨が1週間続いた夜、
白いフードの男が訪ねて来て言った。

「雨を止めたいから力を貸してくれ。」

どうすればよいか問うと

「俺を縄でお宅の軒先に吊るしてくれ。」

てるてる坊主の化身かなと思い、
言われた通りに吊す。

____翌朝、雨は止んでおらず
男は軒先でただニヤニヤと揺れている。

【140字小説】呼ぶ声

【140字小説】呼ぶ声

「母ちゃん」

暗い2階から声がする。
ウチに子供はもういないのに。
それに去年死んだ息子は私をママと呼んでいた。
それでも万一息子ならば一目会いたい。

フラフラと足を踏み出すと
2階でバシッ!ギャッ!と騒がしい音。

_静寂。

行ってみると息子の棺に入れた筈のバットだけが転がっていた。

【140字小説】miracle change

【140字小説】miracle change

この世に生まれ落ちる前の夢うつつで
神に言われた。

「心底辛い時、miracle changeと
叫べば1度だけ救済しよう」

酷い境遇の下、辛い日々だった。

出し惜しんでいた言葉を遂に今日叫ぶ。

「miracle change‼︎」

…何も起きない。
本当に唯の夢だった様だ。
悪夢だけが続いていく。