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アライアンスは “幸福な風景” から始まる

column vol.953

妻と過ごす休日はもっぱら街歩きをしているのですが、魅力的なカフェを目的に出かけることが多いかもしれません。

最近、非常に興味深いと思ったお店があります。

それは、地元横浜からほど近い川崎中央卸売市場北部市場にある「調理室池田」

XDの記事を読んで、ビジネスのヒントにもなると思ったので共有させていただきます。

〈XD / WEBサイト〉

こちらのお店は “境界線をつくらない” という哲学を持っているところが面白いのです。

「店員とお客」ではなく「人と人」の関係

経営するのは料理家の池田宏実さんと、フードビジネスで長年プランナーとして活躍してきたプロデューサーの池田講平さん夫婦。

店づくりを担当した講平さんが目指したのは「境界線をできるだけ排除すること」

飲食店は大抵キッチンと客席が分かれていますが、その境界線を極力曖昧にしようとしている。

家でいえば、家具が置いてあるような感覚で、冷蔵庫や作業台を配置しているのです。

いわゆるオープンキッチンだと、手もとが見えないように囲いをつくることが多いのですが、それもしたくなかった。保健所の規定や法律をクリアしつつ、そのギリギリを突く表現をした結果、今の形になりました。

講平さんのこの言葉に呼応するように、宏実さんも開店準備の頃を

市場の中に “自分たちの別荘” をつくるような感覚があった

と振り返っています。

「境界線を曖昧にする」のは、キッチンと客席、店と通路といった “目に見えるもの” に限らず、生活と仕事、あるいは顧客と店という、人の営みや関係性においても、境界線を曖昧にしたいと思ったそうです。

市場関係者がメイン客であるならば、100円コーヒーの方が喜ばれるかもしれない。

しかし、家で居心地良く過ごすような感覚でこだわりの朝食とコーヒーを楽しむ

単に喉とお腹を満たすのではなく、心までしっかりと満たしていく

お二人が提供したかったのは、“幸福な朝の風景“ なのかもしれません。

アライアンスに必要な「共感力」

こうした池田夫妻の想いに共感して市場関係者のみならず、さまざまな人たちがこのお店に集まってくる

2018年のオープン当時は、長年市場で働く方々からすると「新参者」という目で見られていた部分もあったそうです。

しかし、お二人が提供する “幸福な朝の風景“ を通して、「店員とお客」ではなく「人と人」として心が結ばれていく

実際、市場で働くお客さんからたくさんのアシストが集まっているのです。

例えば、顔なじみの八百屋さんから「ホットドッグ」が食べたいとリクエストを受けた時のこと。

せっかくだから「市場の利点を生かしたい」と相談すると、八百屋さんがそれならとマグロ屋さんを紹介してくれたそうです。

そうして人気の「ツナメルトサンド」が誕生。

他にも、食の深い知識を知る市場の皆さんから多くの知恵とこだわりの食材が池田さんたちのもとに集まっているとのこと。

ここに最近、ビジネスの現場で重要視されている「アライアンス」の本質があるような気がするのです。

アライアンスとは、企業同士が協力し合って事業を行う経営手法。

企業と企業が互いの利益最大化を目指す目的で、業務提携を交わす(協力関係を結ぶ)ことです。

例えば、自社にはない技術を他社と組むことで使えるようになり、今までにない顧客満足につなげることができる。

ただし、一方で他社と組むことは容易ではありません

「利益最大化」が目的であっても、「利益」だけだと難しい

やはり、お互いの企業同士の強い共感が必要だと思うのです。

「幸福の風景」を見せられているのか?

もちろん、「間違いのない利益」が約束されているならば、利益だけでのアライアンスは成り立つかもしれません。

しかし、そうとばかり言えないものです。

想定外の問題にぶちあたることもありますし、結果に時間がかかる場合もあります。

上手くいかないことがあれば、利益だけでつながっている関係だと破綻しやすくなってしまうわけです…

やはり、前提として組む相手をリスペクトしているかどうか。

「この企業のビジョンやアクションは、非常に共感できるな〜」という強い信頼がさまざまな壁を乗り越える上でとても重要になります。

特にBtoCの商材を売っている企業は、アライアンス先の企業がユーザーである可能性が高いわけで、いち消費者としての相手に「幸福の風景」を見せられているのかが肝要でしょう。

つまり、自社の商品が消費者の生活において豊かさ(幸福感)を生み出せているかどうか。

例えば極端な話、ディズニーが相手なら多くの企業がアライアンスに対して前向きになるでしょう(もちろん、ビジネスの互換性があってこそですが)。

それは利益への期待もさることながら、いち生活者としてディズニーに共感している人が多いことも大きな要因に思えます。

今回の川崎中央卸売市場北部市場はビジネスの世界の縮図

調理室池田が見せる幸福の風景に、お客さんとして市場関係者が共感し、協力関係が結ばれていく。

市場の食材を素晴らしい料理に変えてくれるという信頼があって、メニューが生まれ、そのメニューを通して、市場と外部のお客さんたちの新しい関係づくりが築かれている

XDの記事を読んでいて、そのように感じるのです。

詰まる所、アライアンスを結ぶ際、メリットだけを強調するのではなく、それを通じて、お互いの顧客に対して「どんな幸福の風景」を見せることができるのかも伝えられるようにすることがポイントになるでしょう。

そんなことが改めて大事だと思う、今日この頃です。

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