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食の未来は “土” がカギ

column vol.973

昨日は【日本の “食” の未来】として、食糧自給率の低い我が国で少しでも安心材料になるような事例をご紹介させていただきましたが

本日は昨日の予告通り、 “土” についての話をしたいと思います。

なぜなら食料危機や健康不安を解決するに辺り、この土がカギを握っているからです。

そして実は、日本の土には大きな可能性が秘められている。

そんな話です。

「環境再生型農業」への意識の向上

食糧問題を語るにあたって、「農作物」に焦点が当たりがちですが、負けないぐらい大切なのが、もっと深堀して言えば「土壌微生物」になります。

〈東洋経済オンライン / 2023年1月21日〉

つまり、微生物が豊かに生きる土壌がポイントです。

例えば、温室効果ガスがこれだけ増えた要因の一つは、大規模単一栽培によって、土が劣化し、本来の炭素固定能力を失ったことにあると明らかになっています。

弱った土は大量の化学肥料を入れなければ作物が育たないですし、表土が流失しやすい

そうしたことが背景に「リジェネラティブ・アグリカルチャー(環境再生型農業)」への意識が世界的に高まっているのです。

農業も畜産も、生命の循環の中に位置づけ、土壌の修復・改善による環境再生に力を入れた取り組みが、世界各地で拡大。

例えば「カバークロップ」という、収穫と次の作付けの間に、畑を裸にせずマメ科植物などの被覆作物を植えることで、土壌を保護する手法があります。

これにより、ミミズやモグラが生息しやすくなり、微生物が増えていく

窒素をたっぷり土中に閉じ込め、次に植える作物の肥料にもなることから、高栄養価の作物が育つのです。

これが、多様性のある長期輪作を可能にするローカル経済の起爆剤として、アメリカのアイオワ州を中心に続々と取り入れられ、議会でも注目を集めているとのこと。

そんな中、日本の土に希望の光が降り注いでいるのです。

世界トップクラスの「日本の土」

立正大学地球環境科学部の横山和成特任教授によると、世界の土の肥沃度の比較でトップの記録を叩き出しているのが日本の土であるそうです。

その理由は、日本では土壌微生物を豊かに育むための循環型農法が昔から当たり前のように行われていたからと言われています。

この国には昔から虫や鳥や雑草も含め、全てに神が宿るとするアニミズムの生命観がある。

そうした価値観が循環型農法を自然に育んできたわけです。

例えば「高機能炭」を使うある田んぼは、化学肥料を一切使わないのに、周りと比べて色艶がよく茎も太くて長いイネが育ちます。

深い炭は、高温で焼いて完全炭化させた無機炭になると、まるで快適な高級アパートのような微生物がのびのび増える環境をつくるそうです。

その炭にその土地の落ち葉を加えて畑にまく。

ポイントは「その土地の土着菌を増やすこと」にあるそうで、理由は「いくら外から肥料を入れても、地元の土着菌には敵わない」からとのこと。

全ての土地には、気象条件や水質、土の特性に合った最適な菌がすでにある。

そういった認識が世界的に広がっており、インドなどでは

土壌を守り小規模農業を多様に行う「農村主体」の手法こそが最も経済的

という風に、考えが見直されているそうです。

豊かな土地は豊かな体を育んでいく

豊かな土地で育った農作物は人間の体を健康的なものに導いていく。

微生物の可能性を最大限引き出すためのユニークな取り組みをしている「菌ちゃん先生」こと吉田俊道さんによると、土壌微生物が元気な土地では、ミネラルが豊富な野菜が育ち、腸の調子も良くなるそうです。

全国の保育園や小学校で、土壌を発酵させる「菌ちゃん野菜づくり」を指導しているそうなのですが、子どもたちの平熱は上がり、ドロドロに固まっていた赤血球がきれいになるなど、驚きの結果が続々と出てきたとのこと。

「食べたものが私たちになる」

そんな当たり前の言葉が非常に重みを持って感じられます。

日本が古来から築き上げてきた循環農法の価値を改めて認識し、世界でもトップクラスの土壌をさらに豊かにしていくことが、実は日本の食の未来におけるキーポイントになるというわけですね。

ちなみに、パワーショベルを使って省力的に土壌改良を行う取り組みが、静岡県の農林技術研究所果樹研究センターで行われています。

〈日本農業新聞 / 2023年2月23日〉

パワーショベルのバケットの先端で、堆肥と土壌を混和する。

2年に1回、2月、3月に行うと、温州ミカン成木園の細根の量が大幅に増え、収量も増えたそうです。

もともと完熟堆肥(バークや牛ふん)を土壌と混ぜると、細根の量が増えることは知られていたのですが、くわで混ぜるのは重労働で、大面積に行うのは難しい…

さらに耕運機は、細根がロータリーにからむため使えなかったとのこと。

そこで、かんきつ農家に比較的普及し、馴染みのある小型パワーショベルに着目し、今回の改良法を試したところ、効果が確認できたのです。

土地を豊かにして収穫量を上げていく。

そうした視点での取り組みが今後ますます増えていくでしょう。

街全体を「都市果樹園」に

ちなみに「果樹」ということで、盛り込みたい好事例があります。

今回の土とは関係ないのですが、昨日から続く「食の未来」につながる話なのですが、都市生活者の私にとって、こんな街になったら良いなぁと願っている話です。

デンマークの首都であるコペンハーゲン市では、誰もが無料で果物を取って食べることができる「公共の果樹」が植えられているのをご存知でしょうか?

〈IDEAS FOR GOOD / 2020年1月18日〉

りんご、ブラックベリー、エルダーベリーなどなど。

公園教会の中庭などに木を植えて街全体を都市果樹園にすることで、人々が果物の味を楽しみつつ地域との絆を強めることにつなげているのです。

カナダの首都オタワでは地元のフードバンクに協力するために果樹を植えたり、オーストラリアのアデレードではホームレスの人を助けるため同様の取り組みが進行するなど、「誰でも手にすることができる街の果樹」はさまざまな目的で今後も広がっていくでしょう。

私は子どもの頃から、もしも家に庭があったら果樹を植えたいと思うほど、果物がたわわに実っている木を見ると、とても幸せな気持ちになります。

今後も庭付きの家に住める自信がないので(笑)、今住んでいる街が都市果樹園になればと願っています。

昨日の野草生活ではないですが、いつでも気軽に食することができる食材に囲まれている生活が、何か心の幸福度に直結していると思うのは私だけでしょうか?

豊かな食が豊かな心を育む

そんなことが頭に浮かぶ今日この頃です。

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