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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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2022年11月の記事一覧

吉野弘の漢字の詩に

吉野弘の漢字の詩に

吉野弘という詩人がいた。学校の教科書で知ったが、私の心につながるものを感じた。好きな詩人のひとりである。その得意とした分野に、漢字を扱った詩が多々ある。私はその趣味は好むものではないのだが、くすっと笑ってしまうのは確かだ。
 
そんな中で、深く考えさせてしまうものもある。引用させて戴く。
 
   表裏
 
  「裏」の中に「表」があります
  裏を見れば表もわかるのが世の常
  「表」だけに目を

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『マクロプロスの処方箋』(カレル・チャペック作・阿部賢一訳・2022.8.)

『マクロプロスの処方箋』(カレル・チャペック作・阿部賢一訳・2022.8.)

新聞のコラムで触れられていたので、買って読んだ。なんとも簡単にのせられてしまうものだ。それだけ、紹介の仕方が巧かった、ということなのだろうか。もちろんコラムは、本の販促をするつもりはなかった。書きたかった内容につながるものがあったからだ。しかし、それを読んでいない者にとっては、そのつながりの深さというものが分からない。そうなると、やはり販促めいた意味になりかねないのではないか。
 
などともったい

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『ある男』(平野啓一郎・文春文庫)

『ある男』(平野啓一郎・文春文庫)

文庫になる前は、2018年の単行本だった。文庫になり手に取りやすくなったが、私の行った中古書店では、単行本も文庫本も、同じ値段で売っている。
 
それはさておき、『マチネの終わりに』の次の作品だというので期待がかかるが、先の恋愛心とはまた違う、アイデンティティを探るような作品となった。
 
ただのストーリーを描いているのではない。そこには、社会問題がきっと絡む。平野啓一郎が近年大きなテーマとして懐

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『新約聖書の女性たち』(C.H.スポルジョン・佐藤強訳・いのちのことば社)

『新約聖書の女性たち』(C.H.スポルジョン・佐藤強訳・いのちのことば社)

スポルジョンの説教集を現代に出す意義は何だろうか。
 
1850年イギリスにて回心したときが16歳。イザヤ書45:22に呼ばれたのだという。その一途な信仰もさることながら、語る才能に恵まれ、説教の天才と呼ばれ始める。19歳にて教会の説教者の立場に就き、200人の会衆を、その年の内に1200席を満席にしたという。牧師として就任した教会は10人しかいなかったが、1年で400人に成長させたそうである。2

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『わたしからはじまる』(入江杏・小学館)

『わたしからはじまる』(入江杏・小学館)

題と表紙の雰囲気に誘われて、図書館の新刊棚から手に取った。副題の「悲しみを物語るということ」にも惹かれた。まるで若松英輔さんのような言葉だと思ったら、確かに後から一部その人に触れていた。グリーフケアについての本だと思った。それは必要なことだと思うし、物語るという形にも、心が向いた。
 
ところがいざ開いてみると、大変なことが分かった。この紹介の場でそれを言ってしまってよいのかどうか迷ったが、それを

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群衆の怖さ

群衆の怖さ

ソウルの繁華街「梨泰院(イテウォン)」で多数の死者や負傷者を出した事件が、痛々しく報道されている。2002年10月末のことだ。韓国でも、若い人たちを中心として、ハロウィーンの騒ぎは大変なもののようだ。
 
韓国では、3月頃が一番新規感染者が多く、一日あたり60万人を超える日(16日)もあった。事故の日のころにも日々3万人以上の新規感染者を数えており、人口が日本の半分以下であることを思えば、決して安

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