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台湾ひとり研究室:映像編

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台湾ドキュメンタリー映画を中心に、中華圏の映画やドラマについての記事をお届けしています。
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台湾ひとり研究室:映像編「徐漢強監督《鬼才之道》に見るコメディホラーの最高峰。」

台湾ひとり研究室:映像編「徐漢強監督《鬼才之道》に見るコメディホラーの最高峰。」

映画のジャンルとしては「コメディホラー」というらしい。「らしい」というのは、私自身が映画の専門家でもなければ単なる観客の一人に過ぎないから。画面としてはホラーなんだけども、内容は全くコメディで、四六時中、笑っていた。時に笑い泣きするほどに。

今回観た《鬼才之道》、「Dead Talents Society」という英題のついた本作は、今月7日に台湾で、15日には香港マカオ、来月にはマレーシアで劇場

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台湾ひとり研究室:映像編「李幼喬監督《導演你有病》に見る台湾のユーモアセンスの背景にあるもの」

台湾ひとり研究室:映像編「李幼喬監督《導演你有病》に見る台湾のユーモアセンスの背景にあるもの」

2024年9月6日から台湾で公開予定の李幼喬監督《導演你有病》の試写会に参加してきました。会場になったのは、台北101に近い松仁威秀MUVIE CINEMAS。日頃あんまり行かないエリアなので遠回りしてしまい、ギリギリに入ると大きな会場は8割近く埋まっていて関心の高さが伺えた。

「うまくいけば次は本格的に映画を撮らせる」という出資者の下、製作費10万元(50万円)という超低予算で始まった映像撮影

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台湾ひとり研究室:台所編「ドキュメンタリー映画『キッチンから花束を』に見るおいしい記憶の束の奥にあるもの。」

台湾ひとり研究室:台所編「ドキュメンタリー映画『キッチンから花束を』に見るおいしい記憶の束の奥にあるもの。」

画面越しなのになぜだか(あ、これ、絶対おいしい)とわかる。食べたことないくせに、映し出されるお料理の姿、慣れた手つき、そして自分が食べてきた味の記憶と照らし合わせると、どう考えてもおいしい、しか出てこないのである。味も香りもないのに、不思議。

そんな画面越しの「おいしい」から始まるドキュメンタリー映画『キッチンから花束を』の舞台は、南青山にある中華風家庭料理「ふーみん」。ふーみんと、ふーみんの生

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-蕭美玲《並行世界》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-蕭美玲《並行世界》」

台湾国際ドキュメンタリー映画祭TIDF2024で、個人的には最後の鑑賞作品となったのが、この《平行世界》である。

いわゆる映画祭でがっつり参加したことがあるのはTIDFと山形で、あとはドキュメンタリー作品だけ見て全体のスケジュールを把握しようとしたことがないのでよく知らないのだけれど、その2つの映画祭では、最終日に受賞作が一気に上映される。その最終日に本作を観る機会を得た。

フランス人夫の間に

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-蔡崇隆《九槍》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-蔡崇隆《九槍》」

はじめて鑑賞中に目を閉じた。観ていられなかった。「しっかり観ろ」と迫りくる映像に抗うには、それしかなかった。

本作は、昨年の映画アワード「金馬賞」でドキュメンタリー部門の最優秀賞を獲得した1本。

2017年8月31日、川べりに集まっていた人たちのもとに、パトカーに乗った複数の警官がやってきた。彼らは全員、外国人労働者で、不法滞在だった。ベトナム出身の阮國非は、タイトルにあるように「9発」の実弾

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-藤野知明《我們到底做了什麼?》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-藤野知明《我們到底做了什麼?》」

2023年の山形国際ドキュメンタリー映画祭でも上映された藤野知明監督の「どうすればよかったか?」 は、今回見た中でもTIDF2024の個人的衝撃作となった1本である。監督からは、今年の冬に日本で劇場公開予定だと伺ったので、以下、ネタバレしない形で紹介していきたい。

1983年、姉が統合失調症を発症した。医者であり、医学の基礎研究に携わる両親の下、家族はどんな25年を過ごしてきたのか。予告映像だけ

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-上映作3本、一挙紹介。」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-上映作3本、一挙紹介。」

小田香《GAMA》
ー同時代の情景部門ノミネート作品

第二次大戦時、日本で唯一、上陸戦が行われたのが沖縄だ。隠れ場所になった洞窟では集団自殺になったものもあった。本作では、当時を伝える語り部、松永光雄さんの語りを中心に、洞窟での語り、遺骨収集の姿を伝える。沖縄で「ガマ」と呼ばれる洞窟は、いわゆる本土の防空壕とは違って、自然にできたものだそう。松永さんの語る声、水滴の落ちる音、海辺で珊瑚のカケラが

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-廖克發《由島至島》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-廖克發《由島至島》」

「これまで、台湾人に戦争責任はない、当時はともかく今の世代に戦争責任はない、という言い方を聞いてきました。けれども、私たちには、少なくとも次の世代に何があったかを伝える責任、何をどう伝えるかを決める責任はあるはずだ、と考えています」

290分という超長尺の上映時間を終え、あいさつに立った廖克發監督は、ほとばしるように、そう口にした。本作のテーマは「戦争の記憶とその継承」である。

「ある日、息子

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-趙德胤《診所》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-趙德胤《診所》」

今週15日、クローズアップ現代で「ミャンマー潜伏1000日の記録 “見えない戦場”はいま」が放送された。アウン・サン・スーチー氏が政権を握り、2010年代中盤からの民主化が軍によるクーデターで一気に暗転したのは2021年、3年前のことだ。民主化を求めて行動する映画監督によって撮影され、先月日本で公開されたドキュメンタリー映画『夜明けへの道』を軸に、ミャンマーの現状を伝える内容だった。

5/10か

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-張照堂《紀念.陳達》《王船祭典》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-張照堂《紀念.陳達》《王船祭典》」

台湾国際ドキュメンタリー映画祭(TIDF)、2024年は5/10-5/19で開催されている。

2年に1度開かれる祭典のオープニング作品は、張照堂監督の《紀念.陳達》《王船祭典》だった。

張照堂監督は、スチールも映像も撮るカメラマンだ。今回、TIDFで「傑出貢獻獎 Outstanding contribution award」、つまりは卓越貢献賞を受賞した。ただ、TIDFプログラムディレクター・

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台湾ひとり研究室:映像編「映画《青春18×2 通往有你的旅程》に見る台日交流の深化」

台湾ひとり研究室:映像編「映画《青春18×2 通往有你的旅程》に見る台日交流の深化」

台湾ではホワイトデー封切りの前日、台日合作映画《青春18×2通往有你的旅程》の劇場試写会に参加してきました。邦題は『青春18×2 君へと続く道』として5月3日に劇場公開が予定されている1本です(日本公式サイト)。

台湾では本日(3/14)公開ということで訪台していた藤井道人監督、主演の清原果耶も加わり、ダブル主演で今や韓国でも大人気のシュー・グァンハン(許光漢)、そしてエグゼクティブプロデューサ

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台湾ひとり研究室:映像編「中国ドラマ《繁花》が単なるノスタルジーではないわけ。」

台湾ひとり研究室:映像編「中国ドラマ《繁花》が単なるノスタルジーではないわけ。」

「最近観ておもしろかったのは《繁花》かな」

ある会食の席上で大哥の友人が挙げたのは、2023年末から放送が始まり、大陸で大人気になったドラマのタイトルだった——といっても、それより前に知っていたわけではなく、あとで検索して理解したことなのだけれども。

台湾でも年明けごろからドラマ《繁花》の人気は伝えられていたようだ。タイトルから何本もの関連報道が出てくる。

早くもロケ地巡りがスタート

ある

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台湾ひとり研究室:映像編「23/12/22〜劇場公開の台湾映画『赤い糸 輪廻のひみつ』を応援したい理由。」

台湾ひとり研究室:映像編「23/12/22〜劇場公開の台湾映画『赤い糸 輪廻のひみつ』を応援したい理由。」

台湾映画『赤い糸 輪廻のひみつ』(原題:月老)が今週22日、金曜日から各地で公開になります。

台湾で2021年11月に公開されて約2年。台湾での興行収入は約2億6000万元(約11億7000万円)というメガヒット作品です。日本では3日間だけ公開されたそうですが、このたび正式に、今月22日からシネマート新宿、心斎橋を皮切りに、宮城、長野、京都、神戸などでも劇場公開がスタートします。

✔️作家でも

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