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おはなし保管庫

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現実に重なる不思議なおはなし(小説、フィクション、言い伝え)保管庫
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#小説

ふらふらした記憶の帰る場所は

「こちらは地域防災センターです。地区の防災に関するお知らせをいたします」

毎朝6時に始まる地域防災センターからの放送は、11時と16時半にも放送される。そして、18時にはサイレンの音と「お帰り放送」。

その放送は、ぽつぽつとあったスピーカーから聞こえる。田んぼの途中や、集落の上、地区の公民館、学校と役場。それぞれの場所から、盛大な音量でお知らせが流れ出る。

カラスがねぐらに帰る鳴き声、どこか

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波の中を歩く

波の中を歩く

人の多さに、くらくらする。ターミナル駅を歩く。外出自粛の報道があって、人が少ないくらいなのに、わたしにとってはまだ多い。

息をひそめて、人波に埋もれるように。足を運ぶ。

どうやって人ごみの中にまぎれよう。

そればかり考えていたら、迷子になった。「いつも」のルートを外れると、とたんに、これだ。

山や林の中で、地形を読みつつ進む道は、迷子になんてなりようがない。それなのに、街の中。あの小さなブ

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山であったおはなし.

山であったおはなし.

腰のあたりから、ざぁざぁと音が漏れる。背中に担いだバッテリーや機材の重みが気になり、レシーバーの位置を整える余裕がない。次の地点で、機材を配り終えたら、一度、レシーバーの様子を確認した方がいいかもしれない。

足元は、ぬるっと滑る土の上。もう少し上がると、ざりざりとした小石たちがたまる谷に着く。そこからは、急な岩場を上がっていくことになる。待ち合わせは、その岩場の途中。何事もなければ、あと20分で

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カフェで見た「夢」

カフェで見た「夢」

品の良いおばあさまと友人になった。近所のカフェの窓際で、ひとり、ゆっくりと。窓の外を見ていた人。買い物袋を下げて道を歩くわたしと、ふと目が合った。にっこりと手招きされて、ふらふらと店の中へ。数分後には、隣の席でコーヒーを飲んでいた。

しゅっと整えられた爪には、薄くピンク色をしたマニュキア。指にとまっている大きく透明な紫いろした石は、外の風をうけたみたいに、光きらきらとする。

「このあたり、昔は

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神様の正月やすみは邪魔してはならない(と知ったときのおはなし)

神様の正月やすみは邪魔してはならない(と知ったときのおはなし)

神様は山に住んでいる。だから、お正月の時期が終わるまで山に入ってはいけない。神様もお正月休みをとっているのだから、人が関わってはいけない。だって、家族でそろっているお休みに、外からお客さんが来たらゆっくり休めないでしょう。

そう、先生は教えてくれた。

先生は、学校の先生ではない。地域みんなの先生。人生というか言い伝えと言うか、たくさんのことを知っていて、いろいろなことを覚えている。そして、みん

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消えた。(ある谷の景色を撮りに行ったおはなし)

消えた。(ある谷の景色を撮りに行ったおはなし)

紅葉も今年は終わるから、と景色の良い道をドライブ。くねくねまがる一本道を慣れない車を運転して降りていく。一本道は谷にそって拓けた街につづく。

この一本道は林道を舗装したもの。車がすれちがって通ることを考えていないようで、1台で幅はギリギリ。もし、すれ違うのなら待避場まで戻らなければならない。後退運転(バック)が得意でないから、前から車が来ないようにと願う。

それにしても、窓の外に見える景色はこ

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おにぎりのおばあさんに(感謝を伝えたいおはなし)

おにぎりのおばあさんに(感謝を伝えたいおはなし)

とある地方で大雨の後に道路の修繕工事を担当したころのお話。そこは山の奥にある集落で、近くにはスーパーもコンビニもない。近くの集落に在る民宿に調査員10名ほどが分かれて泊まり、それぞれの宿で昼食をつくってもらって工事現場に通っていた。

まだ学生気分も抜けない頃、とにかくお腹がすいて仕方がない年齢。多めに昼食を作ってもらっても、それでも足りない。民宿のおばさんからお腹を空かせている若い衆がいると話を

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お地蔵さんのいる山道で(時間を超えたおはなし)

お地蔵さんのいる山道で(時間を超えたおはなし)

カーテンにうつる光がオレンジ色になってきた。じんわりと夜が顔をのぞかせている。ほんのりと温かな色合いの光を見ると、神隠しから今の場所に戻ってきたときのことを思い出す。

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そのときも、日の光がオレンジ色になり始めた頃合いだった。

お昼前にお地蔵さんのいる山道に入ったけれど、気づいたらもう夕方で。お腹すいたなあと、寺の本堂の裏にあった山道から境内におりてきた。すると、地域の消防団のおじちゃ

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