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波の中を歩く

人の多さに、くらくらする。ターミナル駅を歩く。外出自粛の報道があって、人が少ないくらいなのに、わたしにとってはまだ多い。

息をひそめて、人波に埋もれるように。足を運ぶ。

どうやって人ごみの中にまぎれよう。

そればかり考えていたら、迷子になった。「いつも」のルートを外れると、とたんに、これだ。

山や林の中で、地形を読みつつ進む道は、迷子になんてなりようがない。それなのに、街の中。あの小さなブロックの中では、迷子になりがち。

目の前を通っていく人が気になり過ぎて、集中していないからなのか。
ひと昔前のGPSなみに、地上でないと電波が届かないからなのか。

ふうふうと。走ってもいないのに、息が上がってくる。

今日は、もう。早めに眠ろう。
風呂にゆっくりと、入ってみるのもいい。

帰ってからのお休み法を妄想しながら、人波を泳ぐ。

ぷつん。

人の声や気配がすっと、消えた。
目の前に、まっすぐな道。
生物の腹の中みたいな、やわらかな気配を持つ道。

いつのまにか、足元はふかふかと。重さを吸いこむような感触がする。

どこを歩いていたっけ。
どこに歩いていくんだっけ。

ぼんやり、ぼんやり。遠くから、誰かの声がする。

あちらへ、行けばよかったかな。

わからない。
わたしは、違うところへ行きたかった。

わたしの行きたい方向へと、向かう波は。
まだ、見えない。

もう、乗っているから見えないんだろうか。

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