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たわごと

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とるにたらないおはなし
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ペットコース大阪研修

『ペットと笑い合う会』というイベントがあったため、僕は学校のペットコース代表として大阪へ飛んだ。
 もちろん、僕一人で行ったわけではない。担任の教師である《赤ガッパ》の砂岡先生もいっしょだった。
 砂岡先生がなぜ《赤ガッパ》とよばれているのかというと、ふだんは青い顔をしているのだが、怒ると真っ赤な顔になるから《赤ガッパ》とよばれているのだ。
 今回の研修には、僕の愛犬である「ノブナガ」もいっしょに

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つくし

つくし

 三月も半ばを過ぎると、冬の寒さもやわらぎ、春の息吹が感じられるようになってきます。
 一年のうちで、もっともすがすがしい時候なのではないでしょうか。空気はややひんやりとしていますが、照りつける日差しはあたたかく、かえってちょうどよい体感気温です。植物も虫たちも、この時候をまっていたといわんばかりに活動をはじめます。
 私が住んでいるところの近くに、一級河川が流れているのですが、毎年この時期になる

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うみぼうず

 その少年が語ったところによると、海にはとてもおそろしい生物がいて、夜、ねむらずにいる悪い子を見つけると、その布団をはぎとって食べてしまうらしいというのだ。そいつがどうも『うみぼうず』という名前らしく、少年もまだその姿を見たことはなかったのだが、背の丈は五歳か六歳くらいの子どもと同じくらいの小柄な体躯で、まるで海藻のようなぼさぼさの長い髪の毛が顔じゅうを覆っており、そのすき間からまんまるい目がぎょ

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散髪屋にて

 髪の毛が伸びてうっとおしくなってきたので、散髪に行った。
 その日は平日だったので比較的店内はすいていた。すぐに座ることができた。
 いつもおなじ散髪屋に行くから、髪を切ってくれる人もだいたいいつも一緒だ。今回はちょっと小太りのおばちゃんがぼくの髪を切ってくれることになった。
「どのくらい切りますか?」とたずねられる。ぼくはいつも適当に、「横は耳が出るまで切ってください。あとはそれに合わせて短め

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浜辺にて

浜辺にて

 波打ち際に転がる石ころは、みんなことごとく角がとれて丸みをおびている。長年の潮の満ち引き、流動する砂利や小石のあいだで揉まれているうちに、徐々に角が削れて丸くなっていったのだとおもう。
 海岸の微細な砂は両手ですくいあげると指の隙間から風の吹く方向へ霧のようにこぼれ落ちてゆく。場所によって砂の細かさがちがうというのもおもしろい。
 ある場所では貝殻の残骸が砂利といっしょにたくさん混じっている。そ

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雑文その2

 黄昏に染まる駅のプラットフォームには人もまばらだった。電車がくるまでのあいだ、うとうとしながら待っていたのだが、到着時間を過ぎても電車はやってこなかった。
 事故でもあったのだろうか、と思って辛抱してなおも待っていたが、それらしい連絡も何もない。その時、ようやっと到着のベルが駅の構内に鳴り響く。
 電車に乗り込んだ私は、一番近くの席へと座った。車内には私一人しかいなかった。隣の車輌も、そのまた隣

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雑文その1

アイデアとは、突如飛来しては去ってゆく未確認飛行物体のようなものである。

公園を散歩しているとき、買い物がてら自転車に乗っているとき、トイレの便座の上できばっているとき、そいつは何の前触れもなく頭上に降下してくる。

ぼくはあわてて紙とペンをさがす。カメラを忘れたカメラマンの心境だ。

さらにやっかいなことに、そいつは一度現れて消えると、再び現れてくれないことがある。

よしんば再び現れてくれた

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短編作品その1

 或る朝、ズシンッ! という衝撃音が響き、あわてて飛び起き外へ出てみると、庭に直径二メートルほどの穴が出来ていた。
「なにかしら」とのぞいてみると、穴の奥のほうになにやらきらきら光る、まあるい、小さな球体が埋まっている。
 私はおそるおそる、それを指先でひょいとつまみあげると、「まあ、ひょっとしたら流れ星でも落ちたのかしら?」と一言。
 それから空にかざして太陽の光で透かしてみたり、匂いを嗅いでみ

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短編作品その2

「誰だ!」
 後ろを振り返ると、街燈の光を浴びている自分の姿を映し出した影がそこにいた。
 そいつは僕と目が合うと、脱兎のごとく逃げ出した。
 逃がすまいと必死になって追いかけると、やつは暗がりの街角を曲がり、大通りへと出ると、大勢の人がごったがえす雑踏へとまぎれこんだ。
 ぜんまい仕掛けの操り人形のような、ぎこちない単純運動を繰り返す通行人が行き交うなか、とうとうやつの姿を見失ってしまった。

短編作品その3

水面に、大きな光がサッと横切った。何事かと見上げてみると、白亜のエアプレーンがその翼に太陽の光を反射させ、何度も翻りながら、群青色の空のなかを気持ちよさそうに泳いでいる。

口をあんぐり開けながら見ていると、そのエアプレーンのあとを追いかけてきた一羽の真っ黒なカラスが、エアプレーンめがけて突っ込んでいった。

パァンッ! と、破裂音が響いたかと思うと、エアプレーンは空気の抜けた風船さながら小さくな

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短編作品その4

 

 シガレットをぷかぷか吹かしているお月さまがいて、青色の煙を辺りにくゆらせている。
 私はそれを見て、遠き記憶のなかにある、白髪の髭をたっぷり蓄えた老人の姿を想起させた。
「そうかしら? あなたにはそう見えて?」
「そうだとも。君にはあれがバッハやベートーヴェンに見えるかい?」

短編作品その5

月光のスポットライトが照らし出す舞台の上。

美しいお姫さまと、凛々しい王子さまが手をとりあうなか、現れた一人の道化師。

くるりくるりと二人のまわりを廻って、手に持っていた大きな布を二人の頭からかぶせると、「さあ、御立会い!」と叫んだ。

そしてパッと布を取り外すと、あら不思議、そこに姫と王子の姿はない。

「ハハハッ、なにも不思議がることはありますまい、あの麗しいご両人は、ちゃんとおりますぞ。

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Nostalgia

 不意に襲われる懐かしいという感覚は、はるか昔に閉じ込めてあった記憶の澱が、なにかのきっかけで掻き回され、表象に浮かんでくるものである。
 だいたいにおいてそれはセピア色に色褪せていて、色彩も、匂いも、物に触れたときの感触など、思い出せることはごくわずかであるにもかかわらず、杭を打ち込まれたかのようにそこから動けなくなってしまうものである。
 一般的にはそれを"Nostalgia"という言葉で表現

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