雑文その1

アイデアとは、突如飛来しては去ってゆく未確認飛行物体のようなものである。

公園を散歩しているとき、買い物がてら自転車に乗っているとき、トイレの便座の上できばっているとき、そいつは何の前触れもなく頭上に降下してくる。

ぼくはあわてて紙とペンをさがす。カメラを忘れたカメラマンの心境だ。

さらにやっかいなことに、そいつは一度現れて消えると、再び現れてくれないことがある。

よしんば再び現れてくれたとしても、そいつは以前とは少し形を変えて現れる。よくできた偽商品をつかまされたときのことを想像していただきたい。そいつはよく似てはいても、どこか違うような、もしくは先に触れたものよりも劣化した偽物だったりするのだ。

だからアイデアとは鮮度が一番。捕らえたらすぐにでも冷凍保存でもしておくべきだが、タイミングによってはなかなかそうはいかないのが現実である。

ほら、またぼくの頭の上をちらついているのがあるぞ、そら急げ、急がないとそいつは消えてしまう。カメラはどこだ! 今度こそ絶対にその姿をレンズに収めてやる。


……。そいつの姿は遥か忘却の彼方だ。