マガジンのカバー画像

短編たち

9
僕のオリジナル短編作品まとめです。
運営しているクリエイター

記事一覧

ご飯大盛!チキン南蛮弁当4

ご飯大盛!チキン南蛮弁当4

 水曜四限、アジア経済史の講義が終わった。手元には教科書、隣にはゴトウミズキ。
 先週衝撃の一言を言ってのけた女だ。

「料理、食べさせてよ」

 この言葉には続きがあった。

「もちろん、私の料理も食べてもらうわ」

 訳が分からない。
 理由を聞いてみるとこれまた奇妙なものだった。彼女は食べるのに困っているわけではないようなのだ。彼女は、彼女自身が作る料理に飽きたのだという。

「何を作っても

もっとみる
ご飯大盛!チキン南蛮弁当3

ご飯大盛!チキン南蛮弁当3

 彼女と初めて出会ったのは大学三年の夏、ちょうどアジア経済史の講義が終わった後だった。ヒートアイランド現象のおかげで講義棟は外よりも蒸し暑かったが、机に手が触れると気持ちがよかった。

 「タナハシくんってあなた?」

 コメントペーパーを書いている時に話しかけられた。見ると知らない女性が横に座っていた。黒く長い、まっすぐな髪の持ち主だった。汗のべたつきが一切感じられない、だけど乾いているわけでは

もっとみる
ご飯大盛り!チキン南蛮弁当2

ご飯大盛り!チキン南蛮弁当2

レジ袋を机の上に置いてベッドに倒れ込んだ。

ベルトの金具が腹に食い込んで痛い。へその下あたりがゴリゴリ押される。仕方がないので仰向けになる。スーツが皴になってしまう。ジャケットくらいは脱げばよかった。

まだ力が残っていた手足から余力が抜けてベッドと一体化していく。目に映る天井は確かに僕の家の天井で、だけどそこには何の思い出もない。こんなにまじまじと天井を見たのは初めてだ。寝ている真上にいつもあ

もっとみる
ご飯大盛!チキン南蛮弁当

ご飯大盛!チキン南蛮弁当

誰もいない部屋に帰ってくるのは久しぶりだ。壁に手をつけてスイッチを探す。マンションの一室に明かりがついた。片手に持っていたビニール袋を机に置き、急いでコートを脱ぐ。机の上に置いてある小さな紙が目についた。

「ごめんなさい」

それは牛丼屋の割引券の裏に書いてあった。

そういうとこだよ。と思いながら紙をゴミ箱に放り込んだ。

続く

焦々

焦々

ガチャン!!

 閉園時間間近に駆け込んだためであろうか。ゴンドラが揺れるほどの力で扉が閉められた。タイムリミットは15分、一周まわって地上に戻ってこの部屋の扉が再び開けられるまでになんとかして挽回せねば。陽はすっかり落ち、上着一枚では心配になるほどの寒さだが、ゴンドラの中は暖房がよく効いていた。中に入った直後は気にならなかったが、乗ってからしばらくすると砂糖と生クリームの甘ったるい匂いがやけに鼻

もっとみる
ご飯大盛り!チキン南蛮弁当

ご飯大盛り!チキン南蛮弁当

 誰もいない部屋に帰ってくるのは久しぶりだ。壁に手をつけてスイッチを探す。マンションの一室に明かりがついた。片手に持っていたビニール袋を机に置き、急いでコートを脱ぐ。早く食べないと、せっかく温めてもらった「ごはん大盛!チキン南蛮弁当」の力が損なわれてしまう。蓋を開けると勢いよく蒸気が飛び出してきた。ご飯の甘い匂いと油の匂いとタルタルソースの酸っぱい匂いがいっぺんに鼻に押し寄せてくる。あ、お茶を用意

もっとみる
お題 タオル

お題 タオル

 みんなの服装の選択肢にカーディガンが入ってくる頃、僕は未だ首にタオルを巻いて外に出ている。栗の収穫をするためだ。あの子たちはイガイガにくるまれている。だから長靴に長袖長ズボン軍手、そして上から栗が落ちてきたときのためにつば付きの帽子が標準装備だ。さらに僕は首にタオルを巻いている。栗というのは面白い果物で、熟すと自然に木から落ちてくる。つまり、収穫するときはいつイガが落ちてきてもおかしくないという

もっとみる