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ご飯大盛!チキン南蛮弁当3

 彼女と初めて出会ったのは大学三年の夏、ちょうどアジア経済史の講義が終わった後だった。ヒートアイランド現象のおかげで講義棟は外よりも蒸し暑かったが、机に手が触れると気持ちがよかった。

 「タナハシくんってあなた?」

 コメントペーパーを書いている時に話しかけられた。見ると知らない女性が横に座っていた。黒く長い、まっすぐな髪の持ち主だった。汗のべたつきが一切感じられない、だけど乾いているわけではない、むしろ水っぽさが確実に存在していた。

 『そうだけど、どなたですか?』

 「ゴトウミズキ」

と、彼女は答えた。その名前には聞き覚えがあった。中国語で一緒だったアズマだ。一年前、彼女と話したというアズマは興奮気味にその名前を連呼していた。
 なるほど、アズマの気持ちも分からんでもない。確かに彼女には特有の魅力があるように思える。しかし僕の口角は上がらない。

 「タナハシくんって料理できるんでしょ?」

 出会って数分でこの質問が飛んできた。図々しい女だ。確かに自炊はしているが、そのことを進んで人に言ったことはないはずだ。

 「アズマくんから聞きました」

 案の定アズマである。奴は他人のことかアクション映画のことしか話さない。だから僕は奴のことを知らない。下の名前も漢字も知らない。そのくせいつも女子学生を連れているからますますよく分からない。
 と、僕がアズマに思いを馳せていることを知ってか知らずか彼女が言った。

 「料理、食べさせてよ」

 『はい?』

 図々しい女だ。


続く

いただけたら牛丼に半熟卵とかを躊躇なくつけます。感謝の気持ちと共に。