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ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(1)
その日のヒロシマは雨だった。
しとしとと降り始めた雨は、夕方から夜にかけてざあざあと道を濡らし、視界が塞がれるようだった。
流川通りにあるメイドカフェの前に車が止まったのは、夜六時のことであった。
「白島の姉貴、お疲れです」
止まった車の前に、女子高生がすばやくかけよるとドアを開け、大きな黒い傘を差した。
ヒロシマの名門、元町女子高校の制服である。車の後部座席から降りてきたのも、同じ
ディープリー・イン・ラブ・アンド・ウェルダン(上)
『実際安い』のネオンサインがバチバチと明滅するのをユキ・エモリは見上げていた。視界をサークル状になって重酸性雨が落ち、ユキの顔と身体を濡らす。
PVC製コートは今や剥ぎ取られ、眼の前にいる強盗と思わしき男達のナイフが、割れた分厚いメガネのレンズの先で、現実感なく刃を光らせた。
今日はユキが好んでいるカトゥーン雑誌の新刊の発売日であった。サムライ探偵サイゴの最新シーズンのことは分からず仕舞
グリッチマン(完全版)#パルプアドベントカレンダー2023
この企画は#パルプアドベントカレンダー2023 の提供でお送りします。
叙ンは墓場に住んでいる。
正確には、叙ンは墓場の座標からマイナス数ポイント下に位置している。いつからこうだったのかはわからない。彼はそうあるべしとして作られ、設置された。
この墓場は所謂没データらしい。世界と繋がることなく、さりとて消されることもなく、プログラムの狭間でただ存在することを宿命付けられた叙ンは、
(終)ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(47)
三日後。
天神会の事始めは混乱のなか、人事の発表にのみ絞り、サンメンでのオンライン回状により実施された。
祇園連合会と祇園会は解散となり、日輪高子は引退。そうして天神会預かりとなった上島安奈は、同日中に引退することとなった。
それは絶縁に近い、こくどう社会からの拒絶であった。ただこれは長楽寺や宇品を始めとする幹部たちの配慮に近かった。二度と彼女がこくどうをやらなくて済むように──もち
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(46)
平和祈念公園へなだれ込んでゆくこくどう達を尻目に、安奈は公園を大回りして脇道を通り、原爆ドーム前の広場を目指していた。
あの日、不動院から白島の暗殺に乗るよう命じられ、悠には筋について教えてもらった。一月もしない間にまた来ることになろうとは思っていなかった。
おりづるヒルズの入口は、先ほどと同じくばらばらの制服に身を包んだ数人のこくどう達が固めている。裏口は無いだろうかとも考えたが、時間
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(45)
「なんじゃ、ワレら」
天満屋は登校直後、元町女子学院の校内にも関わらず数名の女子高生に囲まれていた。既に異常な雰囲気である。彼女は落ち着いて──なおかつこくどうとして言うべき言葉を選び取って言った。
「どこのもんじゃコラ」
制服は他校──しかしその顔にはいくらか見覚えがあった。手には光り物。その目は据わっていて、殺意と功への焦りがぐちゃぐちゃに混ざっている。
「知らんなら教えたるがのう
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(44)
「不動院の姉貴……どがあにするつもりです」
不動院の移動用リムジンの中、後部座席で顔を突き合わせながら、天満屋は困惑した表情で切り出した。
「会長はあのジャケットをいらんと仰っしゃりました。それはそれで、ワシャついていくつもりではいます」
忠義の言葉であった。
天満屋はこくどうとしていつも正しい。こくどうの親子や姉妹とはそうして助け合い、代紋で食えないときこそ協力し合うのが美しい姿だ
老いてはことを仕損じる
闇の訪れのような声だった。
「さあ、抜きなよ」
共に深夜の雑居ビル、その間の暗がりにはとても似つかわしくない二人だった。
一人は静かな闘志を孕んだような赤髪。背は高く、闇のように黒いセーラー服に、赤いリボンタイ。人差し指に通したリングキーホルダーの先、黄金の防犯ブザーは左右に引っ張られ、今にもエネルギーを開放しそうになっている。
ブザーを構えるまで幼剣士とわからなかったことを、もう
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(43)
宇品が送ったメッセージは、無事高子と不動院に届いたようだった。
安奈のスマホが震えて、そっけなく場所を指定するだけのメッセージが届く。宇品のスマホから転送してもらったものだ。
「上島の姉妹ェ。……すまんが、ワシは同席できん」
朝九時。
原爆ドーム前で合流した宇品は、白島のジャケットが入った鞄を手渡しながら言った。
「やっぱり、爪を落としたから……ですか?」
朝の原爆ドームはど
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(42)
「話が違うで、おい……」
小網は天神会会長用リムジンの後部座席で、親指同士でせわしなく押し相撲をしているのを見ていた。
彼女の下に連絡が入ったのは、ヒロシマ城炎上の翌日なんと朝六時。宇品から『白島の生存』を聞かされ、すぐに学校に来てほしいとのメッセに面食らう。
「小網の親分、生徒会室へどうぞ。皆さんお待ちです」
学校のロータリーに着くと、長楽寺組の使いだという生徒が、リムジンの扉を開
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(41)
背中からどろりと痛みと共に漏れ出るそれに、白島は呆然とそれを確かめるように手で触れ、眼の前で手を広げた。
血だ。振り向くと、M9を持って息も絶え絶えな江藤の姿──。
「殺、殺っちゃる……ウチが仇をとっちゃる!」
「無粋ね──人がせっかく友達と話に花咲かせている時に」
江藤は口からゴボゴボと文字通り血を吐き、バレルは揺れている。立っているだけでも奇跡のような状態だ。そんな中でマズルフラ
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(40)
ヒロシマ城の周りは延焼を始めている。本丸天守閣に火が回るのも時間の問題だった。
安奈は狭い通路を通り、ヒロシマ城内博物館へと入る。耐火式らしく、焦げ臭さまでは感じられない。ここならまだ保つだろう。
そんな事を考えながら、鎧や槍、刀といった収蔵品の間を通り、更に上へ。
惨殺されている天神会のこくどう達を縫って、二階三階と登っていく。江藤というこくどうはあのアオとミオ達よりタチが悪いよう
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(39)
中学生の世羅伊織は、空手以外にあまり興味がない人間だった。
おしゃれもしないし、勉強も自主的にはしない。SNSなぞやってるヒマがない。そんな彼女が、ヒロシマ現代美術館にやってきたのは、夏休みの宿題で美術館の作品についての観察とその感想を述べるという、実に面倒なものがあったからだ。絵には殊更興味がなかった。空手をしないクラスメイトにも、同じく興味がなかった。
さっさとグルっと回って、明日の
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(38)
ヒロシマ市内のど真ん中に、堀で囲まれた天守閣を備えた城──ヒロシマ城がある。南側には神社があり、実際に通行できるのは東側にある橋だけだ。
「いいかい。蟻一匹ここを通しちゃならない。紙屋連合が狙ってくるとすれば今日だからね」
世羅は天神会下部組織から集めた人員に、発破をかける。小網会と長楽寺組は動かなかった。辛うじて、不動院は手打ちを望んでいるという真偽不明の情報を提供してきただけだ。