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水屋

窓に灯りが見えた
去年の今頃とはまた別の
暮らしの気配がゆっくりと
緑色のカーテンを揺らしていた

夕食の相手は私なんかと違って
諍いの元を部屋のどこかで目にしたら
水屋の隅にそっと置いておくような
優しい女性であって欲しい

あなたのことだから多分
私が描いた下手な似顔絵を
見せるような野暮はしないわね

想いのままをことばにするのが
いちばん伝わると信じてた
あなたの深い愛情を
今さら知ったところで
それこそ野暮ってものよね

窓に灯りが見えることだけが
あなたが生きている証を
確かめる術だったけど
それももう叶わない

台所にあった水屋の
煤けた磨りガラスみたいに
ぼんやりと白い暮らしを
今は何となく送るだけ







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ほろ酔い文学

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