見出し画像

火の用心

四屯トラックが搬入口に付けると
膝の破れたエドウィンの尻ポケットから
作業用の手袋を引っぱり出して
ひとつ大きなため息をつく

日当を手にするまで
もうコンパネで指は挟まない
考えるのはただそれだけ

下手しもてにバミり上手かみてにバミり
平台を組み積まれた箱馬をわらう
転がしが入りシーリングが板を射す
ホリゾントが見せる青から赤への
季節をも操るグラデーション

一瞬、裏方であることを忘れる
緞帳が重たくゆっくりと降ろされ
"火の用心"の札が視界に入る

芝居という魔法の辿ってきた
気が遠くなるほどの道程が
今夜でお終いになればと
馬鹿な妄想に耽ってみる

この記事が参加している募集

#ほろ酔い文学

6,050件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?