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(4) 国籍と、ナショナルチームを考察する。(2024.4改)

ニュージーランドの首相がビルマを訪問して、スーチー最高顧問と面会したいのだと言う。
クーデター未遂後に国連監視団の一行がビルマ訪問した以外の、初の海外首脳の訪問となる。ニュージーランド首相のコメントは、「同じ女性としてスーチー氏を讃えたい、数々の政治的な苦難を経験した最高顧問に強い敬意を抱いている」と内心を吐露したが、首相官邸、政府サイドの最大の目的は「軍事面での提携」だった。
災害救援活動をメインとする部隊の設立をビルマが打ち出したのを受けて、同じコンセプトを掲げるニュージーランド軍との合同訓練や「相互の装備」等、同じ仕様の機器を利用する事で国際社会に貢献しようとビルマ政府に打診したいらしい。

ニュージーランド政府の思惑は、非核中立、停戦監視団や平和維持活動等の国連活動に特化している自軍の存在と自国が、周辺国によって脅かされる状況になっている背景を憂慮しており、他国とのパートナーシップによって状況を是正しようと考えた。
ニュージーランドを取り巻く国防環境の変化は、中国の海洋進出によって齎された。
米国、日本、インドと「クアッド」で米国寄りの防衛協定を組み、米国から原潜を調達するオーストラリアの軍備が強化が進んでいる状況をニュージーランド政府は疑問視している。

ビルマの体制変更に伴って、プルシアンブルー社の機器やUAVが導入され、ビルマ軍が再編されつつある。旧ミャンマー軍を再編中のビルマに近づき、プルシアンブルー社からの自立型兵器の調達と人的余裕のあるビルマ兵との補完体制の構築を目指そうと考えた。
人口小国500万人のニュージーランドの軍人は、9千人と限られているからだ。

オーストラリア滞在中の杜 亮磨と火垂の兄弟を首都へ招待したのも、亮磨が父の後でビルマ入りしビルマ支援を訴えたので、首相のビルマ訪問の為のアドバイスと、ビルマ首脳との仲介を要請する為、そして日本訪問の要請をする為だった。
東京のニュージーランド大使が富山訪問を打診したり、モリ都議との面会を求めても外遊中だったり、都内に居ずにコンタクト出来ないでいたらしい。

ニュージーランドが真剣だというのも、亮磨には直ぐに理解できた。プルシアンブルー社のテクノロジーが是が非でも欲しいと訴えてきた。
兄弟がオージー入りする目的が、弟の留学計画にあると諜報部門が察知し、オージーへの留学阻止、NZへの留学勧誘に動き出した。
また偶然だが、同国のサッカークラブチームが日本のJ2リーグで活躍中の杜兄弟に目を付けており、同クラブのスカウトが日本で活動中だった。
オーストラリアのAリーグは選手登録20名中3人を20歳以下の選手にしなければならない。
これがシーズン終盤(2021年は6月まで)で選手の故障により厳しくなり、急場を凌ぐために海外でスカウティングをしていた。兄の火垂と合わせて、弟2人を寄宿舎のあるハイスクール込みで獲得出来れば、3人の補強が実現する。

そんな状況が突然訪れたので、モリ家ではちょっとしたパニックとなっていた。
ニュージーランド首都にある国立大学に、航空学部があると知った当の本人と父親が「それだ!」と半ば決断していまったのも大きい。
弟達まで、「航空ライセンスが欲しい」と近い将来の留学に前向きになってしまっていた。ニュージーランドのクラブでありながら、”Aリーグ”に属している環境もプラスに作用する。

そんな状況に突然なり、異母兄の亮磨はオーストラリアへ戻り、火垂はウエリントンに残り、スパイクを購入してウェリントン・フェニックスFCに練習生としてトレーニングに参加していた。

受験勉強中により殆ど体を動かしていなかったが、3月は夏で気温も日中は30度近くまで上がり、急遽の調整には向いていた。とは言え、突然の参加はインターバルもあるので慎重に始めようと冷静になりながら、国内リーグに出場しているリザーブチームのトレーニングに練習生として加わっていた。

幸いチームでも身長が一番高かったので、「Usually、Defender position I played in Japan」と嘘を言って、ディフェンス登録にした。
海外のチームに移籍した選手に「全くパスが来ない」「シュートチャンス、ゼロ」という”あるあるネタ”を想定した火垂は、「相手の攻撃陣からボールを奪う作業」に集中しようと決めた。
後衛は前線のポジションよりも体力を消耗しないのもある。長いこと全くトレーニングをしていないのだ。ニュージーランドで美味しい魚を釣らずに、脚を釣る可能性の方が高い。
取り敢えず、守備に集中する。

サイドバックではなく、身長でセンターバックになったのはラッキーだった。ボールを持った相手が、嫌だと言っても勝手に突っ込んで来るからだ。
練習のパス回しですら ジャップにはボールが来ないので、ディフェンスを選んだのは正解かもしれないと考えた。

後に神奈川U18時の映像をメディアが探して来てフォワードの選手だとバレるのだが、新参者には良いポジションだと考えていた。
実際、父親がサッカー部の顧問で監督していた頃に入部した際に、ディフェンダーをやらされた経験がある。
「点を取られたくないから」と父が真顔で言うので呆れた。キーパーで無かったのでまだ良かったと思うぐらい、不貞腐れたのを覚えている。

中1と高1でディフェンダーを半年づつやって分かったのは、中学生、高校生フォワードのレギュラー選手のレベルを目の当たりに出来た点が、プラスに作用した。
「オレならこうするのに」「そう来るか!」等と言った遣り取りを経てから、前線に出ると逆に視野が広がり、攻め手が増えていたのに気が付いた。初めて父親の凄さを知ったのは、あの時だったのではないだろうか?

***

「リザーブ」チームのカークス・ラッセル監督とコーチのウラール・ハミルトンは、並んで紅白戦を見ていた。
週末のニュージーランドリーグの試合に向けて、レギュラーチームとサブチームを戦わせてレギュラー組の連携を確認していたのだが、サブチームに居るホタル・モリがリードするディフェンス網に苦しめられていた。
連携の確認をするつもりが、攻撃の穴をホタルに見抜かれ、1.5列目の10番とチーム得点王のフォワード選手へのパス供給を、寸断され続けていた。

ディフェンスリーダーとしてボランチとサイドバックの選手に指示を出し続けながら、自身は最終防衛ラインで波状攻撃を確実に塞いでいた。 
フォワードの選手が前線でボールをチェイスして奪おうとする動きに似ているのが解せなかったが、驚異的とも言える運動量でカバーし続けていた。最もディフェンスなので過度な深追いはせず、常に適度な距離感を保っている・・。
あの身長で有りながら足が早いので、余裕すら感じさせながら相手の動きを封じてゆく。日本人ディフェンダーは「遅い」「動かない」「拙いボール技術」というイメージが有ったのだが、アフリカ系のディフェンダーのような軽快さなのでラッセル監督は驚いていた。
レギュラー組の自信喪失は不味いと思いながらも、ホタルの動きを見たい欲求の方が勝っていた。
「あの日本人、足技もいいですね。ボールを奪った後のキープ力もあるし、パスも極めて正確です。ハーフバック(ボランチ)も出来るのではないでしょうか?」

「まぁ、やり慣れてるポジションの方がいいだろう。半年近くプレイしていないらしいからな」

「半年ですか?信じられません・・ウワッ、また取りやがった。
ウチのレギュラー、自信喪失しませんかねぇ・・あー凄えな、ロングパスも正確だ・・パスを貰う方が驚いてますよ・・アイツ、トップチームでも、Aリーグでも通用するんじゃないですかね」

トップチームの10番を背負っていたコーチにここまで褒められた選手は初めてだ。
確かにベテランの様な落ち着きと、高い技術を兼ね備えている良い選手だ。
何故、日本のクラブチームが手にしなかったのか・・怪我でもしていたのか、実は故障や問題があるのを隠しているのか、スカウトチームに調べさせようと、監督は考えていた。

ーーー

都議会を終えて、新宿駅まで歩いて移動し山手線に乗り込む。
渋谷駅で下車して、指定されたアイリッシュパブへ向かうと、ニュージーランド大使のジョン・マッカートニーという冗談の様な名前の人物と、ユリアさんという奥方に出迎えられる。
個室に移動して、オーストラリア大使からの度重なるアプローチに辟易していると明かすと、夫妻に陳謝される。ニュージーランド大使館からも採算連絡を貰っていたし、今回は横取りするように留学先を提示してきたからだ。

火垂が2月に国立大の工学部を受験したのも、航空機開発のエンジニアを志望したからだった。
ドローン・UAV開発のプルシアンブルー社航空部門が、旅客機製造を始めた。
一方、航空ライセンス取得までのメニューを国大が用意しているのは、あまり前例が無い。
また、クラブチームも練習生扱いから本契約したいと言っている様なので、拒む箇所が見当たらなかった。

「弟さん達の移籍ですが、寄宿舎学校も紹介しますし、如何でしょう?クラブチームも弟さん達を欲しているのです」日本に留学していた夫婦なので日本語は達者だった。

「有り難いお話なのですが、高校卒業までは日本に留まらせます。翻訳ツールがあるにせよ、英語力としてはまだ十分ではありませんので」
といった攻防を何度も繰り返して、毎年一人づつ留学予定という話を取り付ける。

親が日本での大学受験を経験させたかったのも有る。進学を希望する日本人が誰しも経験するモノを一度は体験して貰いたかった。元教師としては譲れない点でもある。
合格して入学手続きを済ませれば、サッカー選手の夢が破れた際に「〇〇大中退」と履歴に書ける。プロの世界は甘くはない。逃げ道を持っておく方がベターだと考えていた。

都議を月末で辞すので4月になったら母親とニュージーランドへ視察へ行くと約束して、店を出る。
火垂が「ディフェンダーとして登録した」と聞いたのが、何よりも一番嬉しかった。高校卒業したばかりの無名選手が、前線の選手としてプロリーグででスタートするのは些かハードルが高い。
世界では日本のサッカーは途上国の扱いなのだ。

また、私見なのだが今の日本人監督になって、日本代表のサッカーは大きく後退した。選手個人の能力に大きく依存したサッカーなので、時代に全く削ぐわず、つまらなくなった。
ゲーム中は過剰なまでのボールチェイスやマークを要求するので、本来なら点が取れる筈のカウンター攻撃の勢いを勝手に失い、緩急を使い分けてゲームメイクする中心選手を置かない(=育てられない)ので、セットプレーからの得点が殆ど無くなった。
現代サッカーの2大得点源を用意せずに足元でチマチマ転がすことに終止するサッカーを求め続けるので、チームの強さや特徴、何よりも方向性が分からない。
指導力・戦術面という点では歴代の代表監督、五輪代表監督で最低と、AIの評価は極めて低い。
そもそも、サッカー協会がプロ化前の幹部達で構成されており、世界と競う組織になっていない。協会幹部達の視野・視点が劣っているので、良い監督・コーチ陣を選べないというジレンマを抱えている。代表選手の選考も甚だ疑問だ。
(1)海外クラブに所属して居るか?
(2)海外でも活躍しているか?というのが「基準」となっている様にしか思えない。
選手の育成は所属クラブ依存で、協会は何もしていない。海外監督の選考にしても、値段相応のオトクな監督(結果、全てポンコツ)しか選べない。そもそも協会内に世界基準のレベルで対等に語り合える人材が居ないからだ。

予算前提でチームが小さく纏まり、選手選考が海外在籍選手を選べば無難と思っているので当落線上の選手達は代表では失敗をしないよう、小さく纏まる。そもそもポンコツがクラブチームとは異なるポジションで使ったり無駄な負荷を与えるので、選手は冒険を避けて無難に卒なく振る舞う。
とにかく、今の監督の采配には全く信用が置けない。未来の代表選手、子供たちに恥ずかしくて見せられない試合しか出来ない。選手が有能でも指揮官がポンコツなので全く期待できない。
そもそもディフェンスありきの監督に、スペクタクルなゲーム展開や目の覚める様なカウンター攻撃の指導が出来る訳がない。結果、日本のサッカーは足元で叩いてばかりなので、世界から嘲笑される。更に恥ずかしいのが、ベスト8以上とか、メダル獲得とシャアシャアと言う。常連国からすれば、我が国に勝つという事だな?とイエローモンキーから戦線布告されたのと同じだ。
ならば、日本がベスト8になるためのプランやメソッドを語ってみろ、常連国を理論で脅かしてみろと思うのだが、一度も聞いたことがない。
結局、与党の政治、日銀と同じ、口先だけなのだ、戦術そっちのけ、出来もしない御題目を掲げるだけで行き当たりばったりに終止する。
常連国に失礼だと協会は文句を言いもしない、サッカーが相手有ってのスポーツだという基本的な概念が欠落しているポンコツを放置してしまう。全員、頭の中がお花畑なのだ。

「代表選手を海外クラブの選手で揃えてみました」と、オールスター的な招集でサポーターは満足してしまうので、日本のサッカーは一向に改善しない。
サッカーAIで戦術の重要性を知った息子達が、日本代表を全く視野に入れなくなったのも面白い。自分たちの国籍にも拘りがない。英国連邦に属するニュージーランド、オーストラリアという可能性の方が、よっぽど楽しそうだし、自分たちに向いていると察しているのだ。
父親がシンガポールで起業したりするから、なのかもしれないが。

そんなこんなで嬉しいのと、飲み足りないので、家から遠ざかる様高田馬場へ移動する。
同駅の傍を流れる神田川沿いには、ビルマ人コミュニティーがある。
アリアと義姉妹の2人が、日本に滞在中のビルマ人の支援団体で働いている。
3人の内、誰かがシャン族料理の有名店で働いている筈だ。そのまま3人のマンションに泊まる予定にしている、都庁にも近いので通勤が楽だ。

雑居ビルの中の店舗に入ると、妹のリタが早速誂われる。
「イイ人が来たよー!」と店の人達から日本語で笑われて、赤くなったままのエプロン姿の状態で厨房から出てきた。トマトかリンゴが描かれたエプロンを進呈しようと思った。
モリがテーブルに座ると、そのまま調理場から追放されたのだろうか、リタはモリの向かいに座った。
渋谷の店とは変わって、”英語でしゃべらナイト”の場となる。リタはシャン州のムラではシャーマン役の老婆のお付きの使用人兼調理人で、薬膳料理を得意としてきた。

この店舗はシャン族料理の店なので、食材的に主要なものはある程度揃っているという。ビルマ東部のシャン州のシャン族のムラは標高千〜千五百メートルの山地なので、イラワジデルタのあるラングーン(ヤンゴン)よりも涼しい。暑くないので脂質も辛さも控えめで、涼しい気候から発酵食・保存食が多く、日本人には違和感がない。
シャン族の皆が五箇山の生活をすんなり受け入れたのは、似通った道具を使い、漬物等の保存食の数々に加えて、澄んだ空気と川のある自然環境に共通点を見出した、と言う。

「夕飯は食べたんですよね? センセイは疲れ気味だって聞いてるから、軽めのものでイイよネ?・・」と言って、新たなビールを出してから厨房へ入っていった。
また厨房内で誂われている様なのだが、自分で作ったのを食べさせたいのだろう。そう考えると当方の気分も良くなる。

リタが持って来たのはサラダとスープだった。
「米の研ぎ汁に茶葉を入れて、3日間発酵します。発酵したら、お茶の苦味を取り除いて、瓶に入れて密封保存したものがベースになる。
揚げたそら豆と数種類豆と乾燥エビが入っている。人気商品の一つ」と説明しながら、箸で摘んで「あーん」と人の口に運ぶのは、姪のマイの影響だろう。
厨房から顔を出している従業員に「アーン」と真似されてリタが赤面するので、囃し立てられている。

そら豆は好物で富山では栽培している。問題は夏に流通する食材なので東南アジアや南国から輸入する必要がある。
「美味しい」と伝えると、リタが少女の様に喜ぶ。

「次はスープ、これは”アーン”は出来ない。乾燥した発酵高菜を使っている。やはり米の研ぎ汁で洗って、数日乾燥発酵した高菜をベースにする。高菜が発酵した分、煮込んだ分だけ高菜が持つ独特の酸味と風味が出てくる。 豚足を入れて更に煮込み、疲れたセンセイの体にコラーゲン補充。さぁ、召し上がれ」
高菜好きには堪らない。高菜と生姜が口の中で絡まって絶妙な風味を醸し出す。
豚足もしつこさが無くてバラ肉煮込みの様に箸で簡単に裂ける。
ムラで食べた際も感動したが、シャン料理は素晴らしい。涼しい気候だからこそ、新陳代謝を促す素材を多用しているのだろう。しかも食材を発酵させて調味料の様に使っている。豆腐、納豆、など食文化的にも親近感を覚える。
「那覇で店を出したら、沖縄の人達が飛びつく。人気店間違いなし!」と、我が家の料理マイスター翔子姫の確信が、この店でのパートタイムジョブという発想に結びついた。   
3人が日本の調理器具と食品衛生の概念に慣れるためだ。

諸々から「シャンの女は家族を支える」と言われるのを納得する。発酵食品で整腸作用を促して、腸のうごきを整える。適切な栄養バランスの食事を常用し、全ては森と畑の食材で賄う・・
「明日も頑張ってね」と笑顔で言われれば、糟糠を崩しながらも自ずと元気になる。
それに、そんなセリフ、蛍から言われた記憶が無い・・
一応、過去情報をトレースして見るのだが、やっぱり身に覚えが無かった。
(つづく)


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