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ドイツでは親の介護はその子ども達が当然のようにやっている

こんにちは、taigaです。
最近、ドイツ人の友人と会う機会があり、半年ぶりぐらいだったので世間話にも花が咲いたわけだが、その中の話題の1つで、『親の介護』というものがあった。

もちろんドイツにも年金制度があるので、普通の人々は、老後は年金生活ということが一般的である。

だが、とても興味深かったのが、介護を受ける段階に入った時の、本人たちの、そして子どもたちの価値観が日本とは全然違うということだ。

ドイツでは、年を取ったら老人ホームに入るのが普通という感覚

特に僕が「なるほど」と興味を引かれたのは、ドイツ人は年老いた時に、老人ホームに入居することが、日本と比較して、本人たちの抵抗が少ないと言われていることである。

というのが、ドイツ(それ以外のヨーロッパ諸国もそうかもしれない)では、『自分・夫婦・それ以外』という境界線が比較的はっきりしている。

なので、たとえ家族であっても、子どもであっても『子どもに老後の面倒を何から何まで全て見てもらう』という考え方が日本より強くないと考えられるからだ。

外国では、結婚していれば、『夫婦でワンセット』という感覚があるので、そこは一つに纏められているが、僕の知る限り、子どもというのは基本的に『自分たちとは異なる人生を送る別の存在』として認識されている。

これは子どもを小さな頃から一人部屋で寝かすこと(映画でよく見る「絵本の読み聞かせ」をして額にキスしておやすみ、というあのシーン)から見て取れる。

あと、ついでに言うとドイツでは『子ども部屋おじさん・おばさん』『結婚するまで実家暮らし』と言うのはほとんどない。
大学や専門学校等に入学する18歳を境目に、みんな巣立っていくし、夫婦二人の時間を早く取り戻したい両親もそれを望んでいるからだ。

そんなわけで、例えば夫が妻の介護を『介護なんて男には無理だ、お前達、母さんの世話をやってくれ』などと、自分の子どもに丸投げするということはない。なぜなら、妻は生涯のパートナーだが、子どもは別の人生を歩んでいる『ちょっと外の人間』だからだ。

だから僕の友人は、『ドイツ人は基本的に老人ホームに入るのが普通だと思っているし、息子や娘に面倒をかけないように、若いうちからある程度は蓄えている』と言っていた。

もちろん家庭事情や本人の性格などによって異なるが、ドイツでは『一般的には』そうらしい。

老人ホームに入れる=親を見捨てる、という感覚の日本人

というわけで、ドイツ人は年を取ったら自分から老人ホームに『入る』という感覚が割と一般的であるという話をした。

一方で日本はどうだろうか。
日本はその逆で、未だに息子・娘に老人ホームに『入れられる』という感覚があるように思える。

そりゃあ最近は、日本人でも息子・娘に苦労をかけたくないからと、老後の貯蓄はしている人はいると聞く。
それでも、どこかに『年老いた両親の面倒を見るのは当然』『子どもがいるから老後は安泰』と考えている人はまだ多いように思うのだが、どうだろうか?

ちなみに、これは儒教とか諸々の影響で日本が『目上を敬う』文化が根付いていることに一因があると思われる。
目上を敬うのは、どの国でもそれなりにあるし、それ自体は問題ない。しかし度が過ぎると、人々を非常に生きづらくする価値観でもある。

なので、本来であれば『親には恩義を返すのは当然』と言う考えがあるからこそ、『育ててもらった苦労は無視して、親を老人ホームで他人任せにするのは本人が楽をしている、親を軽視している』などと結びついてしまうのではないだろうか。

だから、もし「老人ホームを探したいんだけど」と我が子に言われでもしたら、「お前は親を捨てると言うのか!そんな冷たい人間に育てた覚えはない!」と怒鳴り散らす人がいるんだと思う。

ドイツでは、本人・兄弟・姉妹で親の面倒を見るのが普通である

老人ホームに入れるか・入れないか以外にも、もう一つポイントがある。
ドイツでは、年老いた自分の親の介護を、自身の配偶者(こういう場合、ほとんどの場合は妻だが)に丸投げすることはまずないのだ。

(へえ、じゃあ誰が面倒を見るんだ?)
などと疑問に感じた方は、常識的に、普通に、直感的に、考えてみてくれ。

その人の親が介護が必要な場合、世話をするのは『その本人』に決まっている。
またはその人の兄弟・姉妹だ。
あるいは、本人と兄弟姉妹で、金銭面・物理面で協力してやるしかない。

確かに思い返してみれば、ドイツ映画やドラマを見ていても、『スーツを着た仕事上がりの青年が、自分の母親がいる老人ホームの近くまで来たから立ち寄っていく』というようなシーンを目にする。

上記のパターンはよくある、そして大概その登場人物の親は老人ホームに入っている。もちろん在宅介護も存在するが、ドイツではこれが当たり前の光景なのだろう。

そして、その際、本人の配偶者・パートナーが同行していることはあまりない。
もちろん、息子の配偶者(義理の娘)がヘルプすることもあるらしいが、それは基本的には珍しいと聞いた。

なんとなく、僕の友人の言葉のニュアンスからして、「どうしても自分が手を外せないというタイミングで、たまに手伝ってくれたら超ラッキー」という、

『運任せのピンチヒッター(つまり断られる可能性も十分にある)』的な感覚なのだ。

介護義務を誰にも負わせないドイツ、法律に書いてもいないのに『嫁が介護をするもの』と決められている日本

というわけで、ドイツ人にとって『いずれは老人ホームに入る』という感覚を持っている人は少なくないし、逆に子ども自身も『絶対に在宅介護をしなければいけない』というプレッシャーもない。

そもそも基本の考え方が違うので、ドイツでも介護問題はあるだろうが、日本のような押し付け合いや争いは起こりづらいと思われる。
(介護の割合で兄弟姉妹で争いが発生、と言うことは十分考えられるが)

だが、日本は未だに『嫁は介護要員』という考えがどこかに蔓延している。
(僕は嫁という単語は嫌いだが、今回はニュアンスも含めてあえて使っている)

なので、日本では日常茶飯事のように、夫婦間で、
「なんだよ!俺の親のこと、愛してないのかよ!それって俺のことも愛してないってことだぜ!」
などという理不尽で摩訶不思議なやり取りが起きているのだ。

逆にドイツだと、全員が全員ではないにしろ、妻側からしても、「えっ!あなたのお母さん、介護が必要になったの?そう、とても大変ね。頑張ってね」と言う感じだろうと思う。
なぜなら、日本ほどは直接的には関係ないからである。

というか、だ。
みんなも知っている通り、日本で家制度は戦後とっくに廃止されている。
なので、この時代で、自分の親の介護に関して、自動的に妻が選択肢に入っている感覚が本来はもうおかしいのだ。

自分の妻や、ましてや兄弟の奥さんに介護を押し付けてしまおう、という考え方は、戦前までは普通だったかもしれない。でも今はそもそもNGなのだ。

そもそも日本では現行法上も、親の介護の責任は、その子どもであり、どこにも配偶者にやらせる条文はない(民法877条)。参考リンクはこちら↓

ちなみにドイツでは、そもそも『親を介護する義務』が法律として存在しない。
日本は義務だが、ドイツは親の面倒を見ることは義務ではない。もちろん、通常であれば何らかの援助は子どもがすることは多いらしいが。

なので、老人ホームなどの費用も、よほど子どもが高所得者(本日現在の日本円で約1300万円以上)でない限りは、基本的にはすべて『要介護者の配偶者』が責任を負う。
(この辺りが夫婦はワンセットという考え方なのだと思う、子どもにまず頼らないということだ)

日本で未だに起こっている『親の介護を嫁たちに押し付け問題』

かなり辛口になるが、現在でも下記のようなパターンはないだろうか?
(だいぶ大袈裟かもしれないが)

・兄弟のいずれかに妻がいれば、その人が当然のように介護要員になっている

・もし断られようものなら「俺たちの親を大事じゃないのか!」と思い切り罵倒して罪悪感を植え付けてやろうと考えている
(または「〇〇さん、頼むよ。俺たち仕事で忙しくてさ。助けると思って、ね?」と兄弟に半ば無理やり説得される)

・自分たちが妻側の両親を介護する可能性については一切考えない(関係ないと思っているから)

・兄弟が何人いても、本人達は「俺たちは仕事があるからさ。一番時間がありそうな人がやってよ、その辺りの割り振りは君らに全部任せるからさ」と放置して、自分たちは介護の押し付け合いには参加しない

・その結果、なぜか彼らの妻たちのみが強制的に押し付け合いのバトルに発展
「私はフルタイムで」「こっちはお受験で」など

・それを横目に見て「介護ぐらい誰でもできるだろ。これだから女の争いは醜いよな」と笑い、高みの見物で酒のつまみにする

・ちなみに万が一、兄弟全てが独身でも、姉か妹さえいれば、その人を介護要員にできる可能性があるという保険がある

かなり大袈裟に書いたが、このような現実はまだ存在していると思う。

だから、ダブル介護の負担が大きくなりがちな女性たちも、もう昔とは違うのだと気にせず、『私は自分の親を介護するから、あなたも自分の親を介護してね』と言い続けていく。現段階の対策法としては、それしかないと思う。

まとめ

僕は、最近の日本の介護事情は分からない。
昔と違って、今は色々と変わってきているのかもしれない。

だが、まだ「いいお嫁さんね。老後も安泰だわ」と考えている年寄りの人々と、「介護は女にやらせればいい、俺らには関係ない」と考えている男性は非常に多いと思われる。

なので、ドイツでははじめから妻が介護要員と見られていないので、『この点』においては、日本に巣くう女性の介護負担の問題が丸ごと解消しているように見えて、実に素晴らしいと感じている。

とは言っても、ドイツでもやはり統計上は、介護は圧倒的に女性側に負担が偏っているので、決してパラダイスではないが、

それでも一般的に、親・子ども・配偶者の全員が『ある程度、ドライで割り切った考え方をしている』ので、そういう意味では少しでも何か参考にできれば、日本人が日本の高齢者社会でより生きやすくなるのではないかと思っている。




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