ドイツで女性に『専業主婦』と言ったらものすごく怒られた話
こんにちは、taigaです。
さっきタイトル画像をアップロードして改めてプレビューを見ると、なかなかこれはキャッチーな題名だ。
タイトルはやや盛ってしまった気がする。別に怒鳴られたとかではないので、そこは安心して読んでほしい。
そんなわけで、今日はちょっくらドイツにおける『家事育児に専念していて、就労していない女性(専業主婦)についての考え方』について語ってみようと思う。
ちなみに、専業主婦(Hausfrau)ならぬ専業主夫(Hausmann)も存在するが、日本と同じようにまだかなり少数派なのと、やはり専業主夫と専業主婦は捉えられ方が全然違う(と考えられる)ので、今日のお話はあくまで『専業主婦』だと思って読んで欲しい。
また、僕の立ち位置を先に話しておく。
個人的には、性別に起因する賃金格差・昇給格差をなくし、子どもに関する制度が差別なく受けられることで、家庭内で同じだけ働いている方々は家事育児をきっちり折半できる世界が一番いいと思っている。
そうすることで「〇〇は楽だよな」「〇〇はATM」「〇〇は・・・」など、性別のみに起因するおかしな歪みが減ると思うからである。
男だから、女だから、性別がないから『〇〇しているべきだ』『〇〇するなんて絶対に許せない』などというのは間違っている。
てなわけで、前置きはここまで。本題に移ろう。
◆ドイツでは『専業主婦=能力が低い』とみなされることがある
まず第一に、なかなか衝撃的な見出しだ。
だが事実としてドイツでの専業主婦(Hausfrau)のステータスは相当低い。
確かにドイツは日本に比べたら男女平等は相当進んでいるが、まだまだ女性差別は存在するし『母親=子ども』という方程式もバッチリ存在する。
なので出産後に育休(Elternzeit)などを使ってしばらく休む、ということは往々にしてある。
だが問題はその後である。出産後、一番忙しいと言われる幼少期の数年間が終わったにも関わらず『ずっと専業主婦のまま家にいる』というのは、実際のところ、かなりのマイナスイメージなのだ。
★Exkurs(余談):地域差で価値観はかなり変わる
バイエルン州はどのドイツ人も認めるかなり保守的な地域だ。なのでこの辺りの住民であれば専業主婦であっても「あら、家庭を守っているのね」と、ある程度は好意的に受け取ってもらえるかもしれない。
しかし今日においてほとんどの地域ではそんなプラスには働かない。
特に旧東ドイツに属していた地域では『勤労をしない=国民の義務を果たしていない』と捉えられていた時代があったので、当時の教育を受けた人たちは未だにこのように考える傾向がかなり強い。
例えば、ドイツ人と結婚した日本人女性が、自分は家事・子育てに専念したいけれど夫や義理の両親から執拗に「いつ働くんだ」などと、専業主婦であることに対して肩身が狭い思いをさせられている、というような話は、まさに地域差による価値観の違いが少なからず関係していると考えられる。
つまり、非常にフラットに言ってしまうと、専業主婦という響き自体が、時には『能力が低く、仕事が見つからないから家にいるんだろう』とみなされる場合があるのだ。
日本では『専業主婦』という単語を聞いて、真っ先に『能力がないから仕事が見つかっていない人』などとイコールで紐づけるような価値観は、まずないと思われるが、どうだろうか?
◆失敗談:女性にHausfrauと言ったらものすごく怒られた
そんなわけで、日本人の感覚で言うところの『え~?でもそう言いつつ、実際にはその人、専業主婦やん?』という方々であっても、当人たちは自分で自分を貶めるような、Hausfrauという単語は絶対に使わない。
これについて、僕はとても大きな失敗をしたことがある。
ドイツに来てまだ数カ月と間もないころ、僕は語学学校に通っていた。
語学学校はもちろんドイツ語を学びに来ている人たちの集まりなので、講師以外ドイツ人はいない。
そんな中、クラスメイトに若い移民女性(バルカン半島、つまりクロアチアやセルビアなど、ハンガリーやルーマニアの下に位置する国々)がいて、席が近かったので話す機会があった。
当時20歳前後で、既に結婚しており、配偶者がドイツで働いているので引っ越してきて、自分もドイツで就職したい、という感じの聡明な女性だった。
いつこの話をしたのか、休憩時間での雑談だったか、正式には覚えていない。しかし何らかのタイミングで話しているときに、彼女は自分のことを「私は専業主婦などではない。ドイツ語を学んでいるから学生だ」ということをアピールしていた。
今思えばそれは、至極まともなことで、当たり前なことだ。
しかし当時の僕はガチガチの日本人の価値観を持っていた。
つまり『勤労していない既婚女性(ボランティア、PTAなど『金銭を生み出さない仕事』は何故か仕事として認知しないんだよな日本人は)=専業主婦』という方程式が頭の中にあった。
なので正直なところ、語学学校に通っているだけで専業主婦ではない、というのは『単なる屁理屈』だとすら感じたのだ。
若い彼女は「私は勉強している。だから専業主婦なんかとは違う」などと、なかなかキツイ、というか専業主婦を若干バカにしたような言い方をしていた(少なくとも自分にはそう見えた)。
なのでつい、専業主婦も立派な職業じゃないのか?と僕も鼻息荒くなってしまい、思わず日本人の十八番である『不寛容さ』をモロに出してしまったのだ。
「いや、でもこの語学学校の学費は何処からきているの?生活費は?パートをしてお金を稼いでいるわけじゃない。配偶者が稼いでそれで生活しているわけで、ここはただの語学学校だから正式な学生の身分でもないし、語学を学ぶことは趣味・習い事の延長っていう人もいるし、そう考えると単に学生、とも言えないよね。少なくともHausfrauでもあるってことじゃない?」
よくもまあ、こんな酷いことを相手に向かってつらつらと言えたと思う。
こんなものは、サラリと日本人らしく空気を読んでおけばよかったのだ。
だが何故かその時は『自分の意見をはっきり言おう!フンス』という謎の意気込みが裏目に出てしまった。
僕のドヤムフンの態度(彼女からはさぞそう見えただろう)に対して、彼女は『怒り』を通り越して完全に呆れかえっていた。
その時の表情は今でも覚えている。
こう、目を見開いて、口を開けて、ゆっくりと首を左右に振る。
「あなた…自分が何を言ってるか分かってるの…?」という感じだ。想像してみて欲しい。
この時、僕は彼女の気分を害したことは流石に察知したが、「正論を言われたから怒っているのだろうか?」ぐらいに思っていた。
無知で傲慢。世界を知らないと、平気でこういうことを言えてしまうのだ。(書いてて思ったんだが、こういう人たちは日本にまだ恐ろしいほど存在する)
だが、彼女はフッと笑って言った。
「そうね。あなたの言う通り、金銭面においてはそういう意見も一理あるかもしれない。でもね、あなたも含め、私たちのように語学学校に通っている人はみんな、『無職』でも『専業主婦(主夫)』でも何でもない。たとえ正式な学生じゃなくても語学学校にいる人たちは『ドイツ語を学んでいる=訓練している』であり、それはもう立派な『職業』なのよ」
若い彼女にここまで言われて、「ああ、なるほど」と自分の中で腑に落ちたことを覚えている。フッと笑ったのは、彼女はわざわざ『僕のレベル』にまで会話のレベルを下げて教えてくれたのだ。
価値観の違いを受け入れたり学んだりすることは、瞬時にできるときと、時間がかかる時、そして認めたくないと耳をふさぎ、何年・何十年と経ってようやく気付く場合がある(一生気付かない場合もあるが)。
僕の場合は、この時は一瞬だった。
ストンと腹の中に落ちる、というのはこのことなんだろうと思った。
◆まとめ:価値観アップデートが始まった
今思えば、これがドイツに来て初めてのカルチャーショックであり『価値観ガラガラ』だったと思う。ネーミングは適当だ。今名付けた。みんなぜひ気に入ったら使ってほしい。
まあ、要は価値観のアップデートが始まったということだ。
そしてこのような苦い経験は今後、幾度となく何度でも体験することになる。そして時がたつと『あ、日本人の考え方って割とヤベえな』と思うことも増えていくわけであるが、それはまた順番に話していこうと思う。
そんなわけで、そもそも専業主婦(Hausfrau)という単語自体がかなりネガティブな意味をもっていると知ったので、語学学校でのこの経験以降、ドイツにおいては、たとえ女性が絡んでいなくても、軽い世間話などの合間に出てくる話題であっても、Hausfrauという単語は使わなくなった。
もしそれが会話をしている当事者なら、面と向かって絶対に言えるわけがないし、もう言おうとも思わない。やや大げさだが、もはや差別用語にも近いのかもしれない(と僕は思っている)。
なので今は違う言い回しをするなどして、言葉にはすごく気を付けている。
ちなみに日本だと、数年前の統計で『専業主婦になりたい』と希望する女性は未だに37%程度を占めており、まだまだかなり高い傾向にある。
パッとこれだけを見ると「ほら、日本は保守的で遅れている!」と反応しがちだが、実はもっと奥が深い。ドイツと日本の歴史にかなり大きく関わっているからである。
(とは言っても、現代社会において日本が男女平等・性別の寛容さに関して、ものすごく遅れていることは紛れもない事実なわけだが)
専業主婦文化がまだまだ根強い日本と、どんどん変わりつつあるドイツ。
これはどちらが良い・悪いと一言で片づけることができないわけだが、これについては、本編の続きというわけではないが、別の記事でしっかり書いてみようと思う。なぜドイツで専業主婦が人気がないのか、その本当の理由の一端が理解できるはずだ。
ちなみに、語学学校の例の彼女とはその後もいいクラスメイトだった。
今もSNSで薄く繋がってはいるが、元気に過ごしていることを祈っている。
この記事を最後までお読み下さいましてありがとうございました。 これからも皆さんにとって興味深い内容・役立つ情報を書いて更新していきますので、今後ともどうぞよろしくお願い致します。