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ヨコハマ・ラプソディ 1


澄みきった青を背景にゆっくりと東に流れていく、ほうきでサッと掃いたような形の巻雲の下を、飛行機雲が鮮やかな白い筋を一直線に伸ばしていく。
暑さもひと段落し、移動性高気圧に覆われた高い空は、ようやく横浜にも秋が訪れたことを示していた。
35度を超えるような猛暑は勘弁だが、夏が大好きな俺には一抹の寂しさが宿る時期でもある。
いや、今の俺が寂しいのは、単に夏が終わるからだけではないのだろう。

それにしても、「あれ」からずいぶんと長い時間が経った。
「昭和」という時代はすでに最終コーナーを周っていたが、まだバブルの足音は聞こえていなかった。
やがてそのバブル景気の到来によって日本は狂乱と混沌の時期に突入し、その後のバブル崩壊による深刻な不況によって勢いを失くした日本経済は、長く苦しい低迷期に陥ることになる。
まさに日本という国が大きな変革を余儀なくされる以前の、ある意味穏やかな、閉塞感に満ちた現代とは違う、もう少しゆったりとした時間が流れていたように思える時代のささやかな出来事。
俺は九州の田舎から上京し、大学の寮から都内のキャンパスに通う、しがない大学生だった。
やがていつしか、長い通学時間とぎゅうぎゅう詰めの満員電車に嫌気がさし、ついつい大学の講義もサボり勝ちになって、いつも寮の中でゴロゴロしながら、貧しく味気ない学生生活を送っていた頃。
俺はこの横浜で一人の少女に出逢った。

あの頃の俺は、本を読むことが唯一の趣味みたいなものだった。あまり外出もせず、いつも自分の部屋で本を読んでばかりいた。
けれど、彼女と出逢った年だけは全く違っていた。
まだ吐く息が白かった早春から蒸し暑かった夏、最後に秋へと続く眩しすぎた季節は、俺の人生における最も大切な時間だった。

本当に楽しかった幾つもの思い出。
今でも鮮明に思い浮かぶ、あの人の笑顔。

俺と彼女が駆け足で通り過ぎた幻のような日々に、俺の魂はまた舞い戻っていく。

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目次
一.横浜駅
二.山下公園
三.深夜の電話
四.馬車道
五.江の島
六.ダイアモンドは傷つかない
七.チョコパフェ
八.国立寮
九.夏休み
十.いちばん長い日
十一.気分転換
十二.城ケ島
十三.母親
十四.雨やどり
十五.白いスカートの少女
十六.絆創膏
十七.ビルの角
十八.赤い電話器
十九.富樫岳
二十.氷川丸


一.横浜駅 

なんだか色っぽい夢を見ていた。相手は知らない女の人だった。
目覚まし時計のけたたましいアラームが、いいところで邪魔をしやがった。
すぐに右手を伸ばし、手探りのまま午前六時三十分にセットした目覚まし時計のボタンを指で押さえて、俺は速やかなアラームの解除に成功した。
できればこのまま、温かい布団の中で夢の続きを見ていたかったが、今日の俺にそんな贅沢は許されない。
僅かな逡巡のあと、踏ん切りをつけて勢いよく上体を起こした俺は、眠い目を指でゴシゴシとこすると、夢の余韻に浸りながら薄暗い部屋の中を見回した。
窓の外から聞こえる、ばらばらと降る嫌な雨の音には気付いていた。今日の予定のことを思うと、朝っぱらから気が重くなってしまう。せっかくのいい気分が台無しである。
それにしても、今まで見たことのないほどいい夢だったのに、惜しかった。相手の顔はもう憶えていないが、なんとなく美人だったような気はする。
俺に朝食をとるだけの時間的余裕はなかったが、どっちみち朝はいつも食欲がない。
布団の上にあった久留米がすりの半纏(はんてん)を羽織り、のそりと布団から出た俺は、すぐに電気ストーブのスイッチを入れると、少しだけストーブに手をかざしてから外出するための準備を始めた。
やがて部屋の外の廊下から、パタパタといくつかのスリッパの音が聞こえてきた。時計の針は、いつの間にか午前六時五十六分を指している。俺もあまりグズグズしてはいられない。
少し色落ちした青いダンガリーシャツの上に、クリーム色をした厚手のセーターを着ると、急いでナイロン製のパイロットジャンパーに袖を通す。だが、チャックが上手く閉まらなくて少々焦る。
枕元にあったレイモンド・チャンドラーの短編集をバッグに放り込み、電気ストーブ上部にあるスイッチを足の親指でパチンと切ると、最後にドアの内側に立てかけてあったビニール傘を掴んで、俺はそそくさと三階にある自分の部屋を出た。

寮の二階ロビーに下りると、すでに多くの寮生がたむろしていた。一階の玄関の内側からも、何人かの陽気な話し声が聞こえてくる。
「うーす。今日も寒いな。堪らんぜよ」
まだ眠り足りなさそうな、しょぼくれた顔で俺に声をかけてきたのは、俺のちょうど真上の部屋に住む同学年の柳田だった。手に缶コーヒーを熱そうに持っている。
「いや、お前北海道出身だろ。このくらいの寒さ、平気なんじゃないの?」
「よく言われるけどさ、それ大きな勘違いだから。冬の北海道じゃどの家も部屋の中は暑いくらいなんだよ。もうガンガンに石油ストーブたいているからな。そうやって北海道民は、真冬に半袖短パンで過ごしながらアイスクリームを食べる」
「へー」
「だからこの寮みたいな暖房のない建物の中じゃ、俺ら北海道民も普通に寒いんだよ」
「ふ~ん。そんなもんなのか」
ちなみに、この寮では石油ストーブの使用は禁止されている。理由は火災防止のため。なにより火災によって、消防や警察などの国家権力が寮内に立ち入ることを防ぐためだ。この寮は寮生の手による自治寮なのである。
俺はさっきから聞こえているNHKのアナウンサーの話が気になり、テレビの方に目をやった。
ロビーの隅に置かれている、ポンコツ寸前の古めかしいテレビのブラウン管には、今日もホテルニュージャパンの火災に関連するニュースが映し出されている。それが終わったと思ったら、今度は羽田沖の日本航空機墜落事故の話だ。
多数の犠牲者を出したこの二件の大事故は、先月の二月八日と九日に二日連続して発生した。マスコミによる二つの事故についての報道は、発生から一か月近く経った今でも、まだ連日のように続いている。
寮生たちは、ある者はテレビの前でニュースを熱心に見て、またある者は別の離れたテーブルで、自販機の温かいコーヒーやスープを飲みながら賑やかに談笑していた。
やがて彼らは各自担当の入試会場へ向け、グループごとにまとまって寮を出発していった。今日行われる二部の大学入試の受験生に向けた、この学生寮への入寮案内のビラ配りを行うためだ。
一部と二部の大学入学試験と合格発表の朝。会場となるそれぞれの校舎へ出向き、俺たちは自分たちが住む、法文大学国立寮の入寮案内のビラを受験生たちに配布する。
これは俺たち寮生が「入寮情宣(にゅうりょうじょうせん)」と呼ぶ、毎年の二月から三月における国立寮の大切な恒例行事だ。

「よーし、じゃあ川崎班出発するぞー」
「うぃーっす」「さーて、行くかー」「あー、腹へったなー」
川崎校舎担当だった俺たち八人の寮生は、いまいち気の乗らない俺の掛け声を合図に、午前七時十分、大量のビラを抱えて予定り寮を出発した。
東京都の東西ほぼ中央に位置する国立市に建つこの寮から、川崎市中原区にある川崎校舎まで、電車を使って約一時間十五分の時間がかかる。今から出発すれば開門の五分前、午前八時二十五分前後に川崎校舎に着く予定だ。
俺たちは寮から歩いて十分ほどの距離にある、最寄りの国鉄国立駅まで歩き、そこから中央線の混雑する電車に乗り込んで、立川駅でさらに人の多い南武線に乗り換え、武蔵小杉駅で降りてようやくラッシュから解放された。
切符を駅員に渡して改札を出た俺たちは、法文大学で去年行われた一部の学部の八王子移転に伴う学内再編成によって、今ではもう一般の学生は体育の授業ぐらいでしか利用しなくなった古い川崎校舎へ向かって、三々五々といった感じで下らないおしゃべりをしながら、やや足早に歩いていった。
でも結局、この日の入寮情宣はあまり順調とはいかなかった。
入学試験開始時刻の午前九時を過ぎ、俺たちがビラ配りを終了するまで早朝からずっと降り続いていた雨は、一度たりとも止むことがなかったからだ。おまけにそれは、今にもみぞれに変わりそうな冷たい雨だった。
受験生はみな片手に傘を持ち、ほとんどの人はもう片方の手をポケットに突っ込んだまま、俺たちが差し出すビラの前を黙って通り過ぎていく。
それでも、俺たち寮生は一人でも多くの受験生にビラを受け取ってもらおうと、傘を叩きつける雨の音にかき消されないよう必死に声を張り上げた。
「法文大学国立寮の入寮案内でーす」
「学生寮の案内をお配りしてまーす」
経済的な問題を抱える人も多いためか、二部の受験生に配るビラは普段ならもっとよくはけるものだが、やはり今日のような寒い雨の日は、晴れている時のせいぜい三分の一に達するのがやっと、といったところだろう。
でも、雨の中での入寮情宣なんてよくあることだ。去年の大雪が降った日は風も強くて、実に惨憺たる結果だった。それと比べれば、まだましと言える。

この日の川崎校舎前の路上には、見慣れない光景があった。
それは俺たちからやや離れた駅寄りの歩道で、五人ほどでビラを撒いていた、どうにも胡散臭さそうな連中のことだ。
俺たちには彼らがどこの団体の者かよくわからず、おまけに全員が白い同じ服を着ていたことが、どこか奇妙で不気味に思えた。法文大学内にも色々と評判の悪い連中はいるが、そいつらとは醸し出す雰囲気が明らかに異なっている。
入寮情宣中に、俺たちにとって非友好的な団体とトラブルになったことは未だかつてないが、用心するに越したことはない。俺は近くにいた童顔で年下の寮生に声をかけた。
「横山。お前受験生のふりして、あいつらから一枚ビラもらってこい」
「わかりました。なんなんでしょうね、あの連中」
横山が受験生に紛れ、白服の集団から受け取ったビラを読んでみると、ヨガとか瞑想とか、他にもなんらかの宗教的な文言が書かれてあり、どうやら新興宗教団体が勧誘のビラを撒いていたらしい。
「俺にも見せてくれ。なになに、ギメル聖神の会。なんじゃこりゃ」
一本骨の折れた、使い古しのくたびれた青い傘を差した俺と同学年の上沼が、所々雨でインクがにじんだビラを見て言った。
「知らん。どっか新手の宗教団体だろう。『正統同盟』でもないし無視していいと思うけど、一応注意だけはして、とりあえず俺らもビラ撒きに戻ろう」と、上沼と横山に声をかけ、俺たちは雨の中ビラ配りを続けた。

ビラ撒き終了後、一応の責任者だった俺が校門前でみんなを集め簡単な総括をし、帰りの途につきかけた頃、ふいに雨は止んだ。
「なんだよ。今頃止むのかよ」「止むんならもっと早く止めよな」
恨みのこもった寮生の声も聞こえたが、こういう間の悪いこともままあること。一々腹を立ててみてもしょうがない。
そんな気まぐれな雨が止むタイミングのことよりも、俺は異様な白服の集団のことがずっと気になっていた。
校門前の路上から、いつの間にか彼らは姿を消していた。
俺たちの邪魔をしそうな団体ではなかったので、特に問題はなかったのだが、彼らとトラブルにならずに済んだことのほうが、俺にはより重要だった。

「じゃあ、俺は用があるからここで」
「ああ、お疲れ様でーす」「お疲れー」
帰りは一緒にいた他の寮生たちとは寮まで同行せず、俺は武蔵小杉駅の改札を通ったところで仲間たちと別れた。俺には彼らとは別に行きたいところがあったのだ。
まだ多少混雑している南武線に再び乗り込み、終点の川崎駅で東海道本線に乗り換えた俺は、三十分ほどの時間をかけて横浜駅までやって来た。
千代田区九段にある法文大学の本校舎と、いくつかのアルバイト先、他には新宿で高校時代の友人とたまに会って酒を飲むことくらいでしか、普段あまり外出することがない俺にとって、横浜駅周辺は生まれて初めて訪れた未知の土地である。
それでも、横浜駅の近くになら必ず大きな本屋さんがあって、そこに俺が最近ずっと探している本があるかも知れないと、ビラ配りのついでに横浜まで足を延ばし、わざわざやって来たのだ。
それは一九八二年の三月の始め。まだ吐く息の白い、寒さの抜けきらない、雨上がりの朝だった。

とりあえず横浜駅の改札を出てはみたものの、出口は西口と東口があるようで、なんとなく人の流れにのって西口から外に出た俺は、ぐるりと周りを見渡すと、しばらくその場に立ち止まってしまった。
横浜駅は乗り降りする人も多い大きな駅であるはずだが、俺が期待していたような大きな本屋の姿は、どこを向いても見当たらない。当然横浜に土地勘など持たない俺は、仕方なく横浜駅近辺をうろうろと本屋を探して歩き回る羽目になった。
今にもまた雨が降りだしそうな鈍色の寒空。かじかむ手に息を吐きかけながら、高いビルが立ち並ぶ見知らぬ通りを歩いた。
けど、本屋は見つからず、ただただ疲労が溜まるばかり。きょろきょろしながら歩いていると、コートを羽織ったサラリーマンやOLさんと何度もぶつかりそうになる。やっと目に留まった間口の狭い小さな書店には、やはり俺が探している本はなかった。
再びビルの谷間の雑踏を徘徊するが、やはり本屋さんらしき店は、どこにもない。俺はだんだん、うんざりし始めた。
(いったいどういうことだ? 横浜駅の近くだったら、多少大きめの本屋のひとつやふたつ、すぐに見つかってもよさそうなものなのに。もういい加減足も疲れたし寒いし、とっとと諦めて寮に帰ろうか)
歩きながら腕時計を見ると、横浜駅を出て歩きはじめてから、すでに一時間以上経っている。前方に青く点滅している歩行者用の信号機を目にした俺は、横断歩道の手前で立ち止まると、心の底からひとつ大きなため息をついた。
(あ~あ。横浜駅なら駅のすぐ目の前に大きな本屋がドーンと建っていて、きっとそこに俺が探している本もあると思っていたのに。こんなことなら、いっそ新宿駅か、もっと先の東京駅まで行けばよかった。そこならちゃんとでかい本屋があったのに。でも新宿や東京駅まで行くと、そこそこ電車代もかかるし。
しょうがない、しばらくあの本を見つけるのは諦めよう。今朝も早かったし腹も減った。寮に帰ってカップラーメンでも食って、もうひと眠りするか)
とは思ったものの、せっかく横浜くんだりまでやって来たんだからと考え直し、俺はもう少しだけ、本屋探しを続けることにした。
周りの歩行者が一斉に歩き始めたことに気付き、向かいの歩行者用信号機が青に変わっていることを確かめた俺は、目の前の長い横断歩道を渡るべく、自分の重たい足を一歩前に出した。

どこかに本屋の看板が見えないだろうかと周りのビル群を見上げながら、(そうだ、駅の反対側、東口の方へも行ってみようか)と思った瞬間、通りがかったビルの角で俺はうっかり誰かとぶつかってしまった。
それほど強くぶつかった感触はなかったが、とにかく、よそ見をしていたのは自分だ。
とっさに「あっ、ごめんなさい」と声を出し、「大丈夫ですか」と声をかけながらぶつかった相手をよく見てみると、それは制服を着た一人の女子高校生だった。俺の不注意のせいで、女の子に申し訳ないことをしてしまった。
紺色のブレザーの制服に似たような色のコートを羽織り、おさげ髪をした女子高生は、最初は口に手を当てて驚いたような顔をしていたが、すぐに「あっ、気にしないでください。私は大丈夫ですから。別に痛くもなんともありませんでしたし」と明るく笑って許してくれた。襟元を飾る赤いリボンが印象的だった。
相手が優しい人でよかった。こんな心の温かい女の子に怪我をさせずに済んだ、とホッとした途端、ふと思い付き、俺は失礼を承知で彼女に尋ねてみた。
「どうもすいませんでした。あなたに怪我がなくて本当に良かったです。それから、ごめんなさいついでに聞きたいんですけど、この近くに大きめの本屋さんってありますか?」
すると女の子は嫌な顔ひとつせず、指をさして俺に教えてくれた。
「あっ、本屋さんだったら、あの二つ先の信号を左に曲がって、えーっと、百メートルほど行ったとこに、英文堂っていう大きな本屋さんがありますよ」
なんだ、ちゃんとあるじゃないか。やはり聞いてみるもんだ。
嬉しくなった俺は彼女にお礼を言い、もう一度ぶつかったことを丁寧に詫びると、女子高生が教えてくれた本屋へと向かうべく、まずはちょうど赤から青に変わった、二つ先の信号機を目指した。

英文堂書店という看板が掲げられた五階建てのビルは、一階から三階までが本屋さんのようだ。これだけの大きな店なら、きっと俺が探している本はあるだろうと期待しながら、俺は店内に足を踏み入れた。
入り口付近を始め、一階には多くの週刊誌や月刊誌等の雑誌が並べられている。他の本屋ではあまり見たことのない、なにやらかなり専門的な雑誌も目にした。
でも、肝心の文庫本売り場が見当たらない。店内の案内板を見ると、文庫本売り場は二階だと書かれてあった。
俺は案内板のすぐ横にあった海老茶色の階段を登り、二階に上がると左右を見渡した。広いフロアーにいくつもの本棚が見える。
(これ、全部文庫本か?)
いやがうえにも期待に胸が膨らむ。とりあえず近くの本棚をざっと見てみたが、置かれていた本の著者は、すべて日本の作家だった。
さらに奥の方へと、左右の本棚に並ぶ文庫本の背表紙を見ながら歩いていき、前を向いた視線の先に海外文学のコーナーを見つけた俺は、早速お目当ての本を探し始めた。
(えーっと、ここは出版社ごとに並べられているのか。あれは新潮文庫だったっけ?)
本棚に設置された出版社名が書かれたプレートを見ながら新潮文庫を探している途中、俺はふと、自分のすぐ横に人の気配を感じ、なにげなく横を振り向いた。
するとそこにいたのは、つい先ほどビルの角で俺とぶつかった、紺色の制服を着たおさげ髪の女子高校生だった。

「なに、探してるんですか?」と、その子がなんとも無邪気な声で俺に話しかけてきた。
いかにも好奇心でいっぱい、といわんばかりに大きな目をキラキラさせて、俺のことを見ている。
「はい。あの、えーっと……、ソルジェニーツィンの『収容所群島』の第五巻なんですけど」
俺は予想外の遭遇に戸惑いつつ、そう答えた。ただ、心の中では(この子は平日の午前中に、本屋でいったいなにをやっているんだろう。学校には行かなくて大丈夫なのか)と、彼女の制服姿をいぶかしげに見ていた。
「ソルジェニーツィン? 聞いたことのあるような、ないような」
女の子が可愛くあごに人差し指を当て、小首をかしげる。確かに、ソルジェニーツィンのことを良く知る女子高生なんて、少なくとも日本にはほとんどいないだろう。
「ソ連の反体制派の作家です。それほど巷では有名ではないかもしれませんね」
「う~ん、ソ連ですか。ロシア人作家だったらツルゲーネフとか、ドストエフスキーなんかの有名どころは、何冊か読んだことがあるんですけど」
(おや? この子。きっと読書好きな子だな)
懐かしい著者たちの名前が、目の前にいる女子高校生に対する俺の好奇心をつついた。
「本を読むの、好きなんですね。トルストイなんて読みます? 例えば『戦争と平和』とか」
そのロシア人作家が書いた長編小説は、登場人物が多すぎて覚えきれないと思って、途中で読むのを止めていた本だった。今も他の何冊かの本と一緒に俺の机の上に置いてあり、数日前にもパラパラとページをめくっていたところだ。改めてきちんと読み直すきっかけになればと、彼女の感想を聞いてみたかった。
「『戦争と平和』はまだ読んだことないです。トルストイはどちらかというと、あまり私の好みじゃないんですよね。チェーホフは好きで、ほとんど全部読んだんですけど。あっ、本を探してるんでしたね。邪魔しちゃってごめんなさい」
女の子が俺に頭を下げて謝った。そこまで深々と頭を下げなくてもいいのに。
「構わないですよ。俺もチェーホフは『桜の園』だったかな? 昔読んだことがあります。ところで君、学校は? 行かなくていいんですか?」と、まあ余計なお世話だよなと思いながら聞いてみると、
「あのう、私、このあとで病院に行くんです」
急に顔を俯かせた彼女の口からは、どこか心細そうな弱々しい返事が返ってきた。
「あっ、そうなんですか。すいません」
と、一応は謝ったものの、彼女が悪い病気だったらどうしよう、本当に余計なことを聞いてしまったな、と後悔しかけた矢先。
「えへっ、うそ。本当は朝から雨が降ってたから、今日は休みっ」
茶目っ気たっぷりの上目遣いで、女の子が答えた。
(はあ? なんじゃそりゃ。わけわからん)
なぜ雨が降ったくらいで学校を休むことになるのか。台風でもあるまいし。それにもしズル休みがしたいのであれば、仮病でも使って家で寝ていればいいのに、この子はちゃんと制服を着て学生カバンも持っている。彼女が言った言葉は、俺には意味がよくわからなかった。
「ソルジェニーツィンの『収容所群島』でしたっけ。探すの、お手伝いします。出版社はどこかわかりますか?」と、彼女が尋ねてきた。
親切心なのか、ただのおせっかいなのか。どちらにしろ古本屋じゃあるまいし、たかが一冊の文庫本を探すのに他人の世話は必要ない。
「たぶん新潮文庫だけど、大丈夫です。自分で探しますから」と、俺は素っ気なく断った。
なのに、女の子は明るく「新潮文庫はこっちです」と言うなりササッと走っていって、目の前にある長い本棚の裏側へ回った。

「えーっと、ソルジェニーツィン、ソルジェニーツィン……収容所群……あった!」
女の子が指さす方に目をやると、『収容所群島』の一巻はなかったが、確かに二巻から六巻までが、俺の目の前に整然と並んでいた。
「おおぉ、あったぁぁぁぁ!」と思わずひそやかな大声を出し、宝物を見つけたような歓喜に浸りながら俺は『収容所群島』の第五巻を手に取った。
「本屋はもう何軒も探したけど、これの五巻だけはどっこにもなくて、ずうっと探してたんだ。やっと見つけられた。ありがとう!」
「見つかってよかったですね」と微笑む女の子の笑顔は実に爽やかで、結構、可愛かった。
念願の本を手にすることが出来て、つい嬉しさのあまりと女の子の素敵な笑顔につられ、
「この本を見つけてくれたお礼と、さっきぶつかったお詫びにお茶でもごちそうします」と、俺は半分条件反射、半分社交辞令のつもりでさらりと口にしたのだったが、言った直後、後悔が走った。
(しまった。軽々しくお茶なんて言っちゃったけど、この女の子と喫茶店に行ったとして、俺はそこでいったい、なにを話せばいいんだ? だいたい、こんな朝っぱら女子高生をお茶に誘うなんて非常識だろ。変な男だと思われただろうな。でもまあ、さすがに社交辞令だということは、この子もわかってくれるだろう)
すると女の子は、ほんの少し目線を斜めに上げると、「そうですね。今日は寒いし、なにか温かいものでも飲みたいですね」と笑顔で答えてきた。
まさか。女子高生が俺の誘いに乗ってくるとは。
当然断られるだろうと油断していた俺は、意外なことの成り行きに、久しぶりに女性のことでちょっとドキドキしてしまった。

本屋のレジで、会計後に見た俺の財布の中には、二枚の千円札と一枚の五百円札が確認できた。
(よし。帰りの電車賃を考えても、お茶ぐらいはなんとかなる)
「ところで俺、横浜に来たのって今日が初めてなんだ。どこか近くでお茶出来る場所って、知ってます?」
「この本屋さんのすぐ近くに喫茶店があります。二か月ぐらい前にオープンしたばかりの、きれいなお店ですよ」
他にも二言三言、言葉を交わしながら、俺たちは女の子が教えてくれた、英文堂書店からは二つ隣のビルの二階にある、いつもの俺なら尻込みしそうないかにも都会的で「ちょっと気の利いた感じ」の喫茶店に入った。
白と黒を基調とした上品な内装の店内で、俺たちは窓際の空いた席を見つけて座り、やって来たウエイトレスに俺はホットコーヒーを、女の子は紅茶を注文した。
それにしても、まだ午前中だというのに、制服姿の女子高校生と喫茶店にいるのは、大いに違和感がある。
違和感というより、学校のサボりに手を貸しているというような一種の罪悪感。ある種の後ろめたさか。ただでさえ、女の子と二人っきりで喫茶店に入るのは、高校の卒業式のあと、上京する直前以来だ。どこか妙に気後れするし、座りの悪さは否めない。
周りはサラリーマンと年配の客が大半で、当たり前だが、制服姿の高校生など一人も見当たらない。彼らの目に俺たち二人はどう映っているのだろうと、さりげなく辺りを見回したが、こちらを気に留めて見ている人など誰もいなかった。

改めて俺たちは自己紹介をした。
「えっと、俺の名前は松崎信也(まつざきしんや)。法文大学の現在二年生で法学部の政治学科。今は国立にある大学の寮に住んでます」
「私、長澤志織(ながさわしおり)といいます。清水平高校の二年生ですけど、もうすぐ三年生になります」
「ところでさっき、なんであの本屋にいたの?」と、俺がずっと一番疑問に思っていたことを早速尋ねると、女の子は黒い学生カバンの中から一冊の少女漫画雑誌を取り出した。
「今日はね、この『花とゆめ』の発売日だったんです。中でも『ガラスの仮面』と『スケバン刑事(デカ)』っていうのがすっごく面白くて、私の大のお気に入りなの」
彼女が浮かべる屈託のない笑顔には、学校をサボって本屋に漫画を買いに来たことに対する、悪びれた様子は微塵も見受けられない。
「ふ~ん、『ガラスの仮面』は聞いたことはあるなあ。『スケバン刑事』は知らない。まあ少女漫画はほとんど読んだことないけどね」と言いながら、俺は改めて、長澤志織と名乗った女の子の顔をじっくりと眺めた。
指で押せばポンとはじき返えされそうな、弾力感たっぷりの頬をした丸い顔に、ぷっくりとした唇。太い眉毛はどこか意志の強さを感じさせる。が、なんといっても大きくて優し気な目が特徴的だ。もうすぐ高校三年という割に幼く見えるのは、やはりおさげの髪型のせいか。
ルックス的には少し地味っぽい、というか素朴な印象もあるが、それを差し引いたとしても、かなり可愛いほうの部類に入ると思う。そんじょそこらのアイドル歌手になら、決して引けを取らないのでは。でも、俺が知っているどの女性アイドルとも似ていなくて、彼女から受ける知的な空気感は好印象だ。
そんな彼女は、やはり横浜の子らしく制服を着ているとはいえ見事に垢抜けていて、それでいて漂う清楚な雰囲気は、なんとも清々しい。
俺の地元、佐賀のどこを探してもこんな女の子はいない。佇まいというか、オーラというか、とにかく田舎の女子高生とは明らかに異なるのだ。
それにしても、不良っぽさなど微塵も感じさせない、どこからどう見てもすごく真面目そうな子が、なんで午前中から学校をサボって街の中を歩き回っているんだろう。

「あれっ、じゃあ、あのぶつかったあと、ずっと俺のあと、ついて来たてたの?」
「松崎さんて、歩くの遅いですよね。何度も追い越しそうになりましたよ」
彼女がにっこりと笑った。もちろんその笑みに俺を侮蔑するまなざしは感じられない。まるで春の日だまりのような、暖かみのあるいい笑顔だ。
「うん。まあ、俺は田舎もんだからね。やっぱり都会の人より歩くのは遅いと、自分でも思う」
「田舎ってどこなんですか?」
「九州の佐賀県」
「お待たせしました」
さっき注文を取りに来たウエイトレスが、コーヒーと紅茶を運んできた。俺はコーヒーにミルクだけを入れてスプーンでかき混ぜる。いつもは砂糖も二杯入れるのだけれど。
すると、またしても好奇心に満ちた目で彼女が尋ねてきた。
「ところでさっき松崎さんが買ってた本って、どんな内容の本なんですか?」
よかった。話題を変えてくれた。出身地の話で佐賀の名前を出すと、大概「佐賀ってどこにあるんですか?」という話になる。
一々説明するのは、はっきり言って、もううんざりだ。それに正直、佐賀の話は面白くないし面倒くさいから、あまりしたくない。
「ソ連の強制収容所の話。そこでの拷問とか、処刑とか強制労働とか、あとは収容者同士の密告の話とかね。ソルジェニーツィンは実際に強制収容所に送り込まれた人で、この本は収容所での実体験を書いたノンフィクション。ソ連には強制収容所がいたるところにあって、それを海に浮かぶ島々に例えて『収容所群島』って題名にしたらしい」
「ふ~ん。なんだか怖い話なんですね」
「まあ、ソビエトの現実なんてそんなもんだよね。当然ソ連国内では出版できなくて、最初にフランスで出版されたらしいけど。でもそれよりさ、君、ホントに学校行かなくていいの? 先生に見つかったりしたら、まずいんじゃないの?」
「今まで、先生に見つかったことなんてないですよ」
「さては常習犯かな?」
「アハハ!」
のんきに笑っている。まあ、いいや。
「長澤さんは普段どんな本読んでんの?」
「最近だと、ミヒャエル・エンデの『モモ』が面白かったですね。あとは『アルジャーノンに花束を』とか」
「『アルジャーノン』は聞いたことがある。面白い?」
「う~ん。面白いというか、色々と考えさせる本です。人間の幸福と不幸ってなんだろうとか、人の賢さ・愚かさを他人が決めつけることの虚しさとか。それに、知らないほうが幸せってこと、本当にあるんですよね。松崎さんは? 『収容所群島』の他にはどんな本、読んでるんですか?」
「俺がこのあいだ読んで印象的だったのは、ジョージ・オーウェルの『1984年』」
「あっ、読んだことはないけど題名は知ってます。面白いの?」
「俺は面白かったけど、ちょっと怖い話だった。近未来的な話を装ってるけど、共産主義とか全体主義とかに対する批判というか皮肉というか。ある国には『ビッグ・ブラザー』という謎の独裁者がいて、『ビッグ・ブラザーがあなたを見守っている』という言葉と彼のポスターが街じゅうに張られている。けれど、本当にそんな人物が実在するのかはよくわからない」
「うん?」
「国民は徹底して監視され、管理されて、使われている言葉も意味と実際はまったく逆だったりする。真理省という役所は歴史記録の改竄作業をやってるし、愛情省という役所じゃ尋問とか拷問とかをやってるし」
「ふ~ん」
「最後はもう悲劇というか喜劇というか。いや、やっぱり恐ろしかったな」
「へー。ちょっと読んでみたいかも」
「あとジョージ・オーウェルだったら、『動物農場』もなかなか面白いよ。こっちは農場に飼われていた動物たちが飼い主を追っ払って理想国家を作ろうとする、いわゆる寓話的な話なんだけど、これもかなり共産主義に対する風刺が効いてて。最初はこっちのほうが取っ付きやすいかも知れない」
「松崎さん、その『動物農場』って本、持ってるんですか?」
「うん」
「今度貸してもらえません?」
「えっ?」
「ダメ?」
「いや、いいけど」
「やったー」

そういう訳で『動物農場』を貸すために、俺は長澤志織と名乗った女子高校生と再び会うことになった。替わりに彼女が俺に『アルジャーノンに花束を』を貸してくれるという。

志織という子は、確かに女の子として魅力的な子ではある。どこかしら飾り気のなさを残すとはいえ、笑った顔は文句なく可愛いし、これだけのルックスを持つ子には、そうそうお目にかかれないだろう。好きな小説の話ができることが、楽しいことなのも間違いではない。
けれど三才も年下の女子高生と、今後どういう会話をしていけばいいのか。正直、俺の頭の中は困惑と不安がぐるぐると渦を巻いていた。
今度本を貸す時にまた会わなければならないし、借りた本を返す時にも会わなければならない。ただ会って、本の貸し借りをして、はい、さようなら。という訳にもいくまい。ましてや、相手はぶつかって迷惑をかけたり、お目当ての本があった本屋を教えてくれたりした人だ。だいたい、小説の話だけで場が持つとは思えないし、俺がいまどきの女子高生の話題についていけるなどとは、到底考えられない。
ただでさえ俺は人と話をするのは、あまり得意ではなかった。相手が男であってもできれば極力遠慮したいのに、話し相手が女性ともなれば、もう大の苦手という以外の何物でもない。
別にまったく会話ができない訳ではないし、会って最初のうちこそは、そこそこ話もできるのだけれど。でもホント、始めのうちだけだ。すぐに俺の話す話題は途切れ、会話は黙っている時間が多くなる。俺は沈黙が気になり、ますますなにも話せなくなる。
よほど相手がおしゃべり好きか理解のある人じゃないと、とても場が持たなくなり、微妙な空気が流れ出す。そんな雰囲気に耐えてくれた女性は、今までに一人しかいなかった。それもずいぶん前の話だ。
志織という可愛いらしい女の子を目の前にしても、日を変えてまた彼女と会うことは、俺にとって嬉しいという気持ちより、不安のほうが遥かに大きかった。

「松崎さんって、トルストイやチェーホフ以外のロシア人作家の本って、読んだことあります?」
「うん、一応ね。例えばドストエフスキーなんかは読んだことがある」
「あっ、ドストエフスキーって語り口が独特で、なんだか黒魔術的だって思ったことありません?」
黒魔術的?
「いや……特には……」
「あ、そうですか……」
「あっ、でも……う~ん……」
「……」
確かに独特とは言えるかもしれないが、ドストエフスキーは『カラマーゾフの兄弟』を、それも高校時代にしか読んだことがない。興味深い部分もあることはあったが、やたら神様がうんたらという言葉が多くてわかりにくい話だったという以外、詳しい内容を忘れかけている俺には、彼女が言う黒魔術的の意味がよくわからなかった。
「松崎さんがおすすめするロシア文学の小説って、なにかありますか?」
「う~ん……」
「……」
「……」
「『アンナ・カレーニナ』は読みました?」
「いや……」
「……」

案の定である。本の貸し借りの約束をするまでは調子のよかった俺の口数は、途端に少なくなった。
一旦こうなると、もうどうしようもない。なにかを話さなければと焦ってばかりで、なんの話題も思い浮かばなくなった。
(せっかく女子高生が俺とお茶に付き合ってくれているんだから、なにか話せよ。少しは大学生としての貫禄を見せろよ。ほらロシア文学で、そこそこ面白かった本があっただろ。あれは、えーっと……。なんだったっけ?)
俺の脳内は虚しく空回りするだけだった。
「…………」
「…………」
とうとう、恐れていた長い沈黙が二人の間に訪れてしまった。が、いくら焦っても、俺の口からはなんの言葉も出てこようとしない。どうしていつもこうなってしまうのか。本当に自分の性格が嫌になる。
「今度お会いする日。いつにしましょうか?」
彼女が助け船を出してくれた。けれど、もうこれ以上雰囲気を悪くしたくなかった俺は、次に会う日時を急いで彼女と決めると、喫茶店を出ることにした。
「そろそろ、出ようか」
「うーん……。そうですね」
「今日はどうもありがとう」
「いいえ。こちらこそ、ありがとうございました。私、楽しかったです」
ん? 楽しかった? 会話も盛り上がらない俺と一緒にいることが? もちろん、社交辞令なのだろうけど。
彼女は高校生なのに礼儀もきちんとわきまえていて、きっと、いいとこのお嬢さんなんだろうなと、俺には思えた。
 
喫茶店を出て階段を下り店の外に出ると、寒さは相変わらずだが、空は雲が薄れ少し明るくなっていた。
これから横浜駅まで二人で歩くのは気まずい、というかちょっと面倒くさいなと思っていると、彼女が俺に明るく話しかけてきた。
「私、こっちからバスに乗って山手町にある学校に行きます。今から行けば、午前中の最後の授業には途中から出られるので、私、行きます」
本当か? と正直疑ったが、俺は余計なことは言わず、ホッとした本心が顔に出ないようにして彼女を笑顔で見送ることにした。
「あ、わかりました。じゃあ、気を付けて」
「さようなら」
別れ際にも丁寧にお辞儀をした彼女は、すっきりとした晴れやかな表情をしていた。たぶん本当にこれから学校へ行くのだろう。
真面目なのか不真面目なのか、よくわからない子だ。

俺は横浜駅まで戻り、買ったばかりの『収容所群島』の第五巻を読みながら電車で国立にある寮まで帰ったが、俺が電車に乗っている間もちらほらと制服姿の女子高生を見かけた。
本来授業中であるはずの時間帯に、駅や街の中にいる女の子の制服姿は何度も見ているし、不思議だなと思ったこともある。
佐賀ではあまり見ない光景だが、やはり都会は違うんだなと、改めて思った。



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