三日月 秋

趣味で小説を書いている、関東在住のおっさんアマチュアギタリストです。好きなギタリストは…

三日月 秋

趣味で小説を書いている、関東在住のおっさんアマチュアギタリストです。好きなギタリストは松原正樹さん。15年以上前からのサガン鳥栖サポーター。

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麗しき毒蛇の復讐 第1章

あらすじ 海槌麗巳は生きていた。名前を変え米国で莫大な資産を形成していた彼女は、麻宮サキの生存を知ると、日本へ帰国し麻宮サキと暗闇機関、さらに日本という国家に対する壮絶な復讐を開始した。 真っ先に暗殺された暗闇指令と瞬く間に壊滅する暗闇機関。 その時、最後の学生刑事となった一人の少女が立ち上がる。失われたはずの”あの”ヨーヨーを手にして。                            原作:和田慎二 第1章 毒蛇の帰還 その年、最も早く日本列島へ接近した台風六

    • スケバン刑事主演女優さんにまつわる思ひ出

      初代 斉藤由貴   私はかつて、斉藤由貴さんのファンだった。 ファンクラブにも加入していた。「斉藤由貴友の会」。 しかし1990年、「Moon」というアルバムが発売された頃から、いつの間にか私は、彼女に対する興味を次第に失っていった。 まるで、砂浜から潮がスーッと引いてゆくように。 自分のことなのに自分でも不思議だった。多分あの頃、「Moon」はほんの数回しか聴いていない。 「Moon」発売の直前までは、やれコンサートだ、ドラマだ、映画だ、舞台だ、ニューアルバムだと騒い

      • ヨコハマ・ラプソディ 20

        二十.氷川丸  すべては、はるか遠く過ぎ去った、懐かしい過去のこと。 俺は今、ほぼ三十年ぶりに、山下公園を訪れている。 一人で、もうかれこれ三時間近く、氷川丸が見えるベンチに座っている。 ここでまた志織と出逢ってからの日々のことを、雪山での出来事について、静かに追想に耽っていた。 山下公園から見る景色は三十年前と比べ、ずいぶんと変わった。 当時はまだ横浜ランドマークタワーも、大観覧車もなかった。建設中のベイブリッジは、まだ無骨な土木建造物に過ぎなかった。 山下公園に来る前

        • ヨコハマ・ラプソディ 19

          十九.富樫岳  《志織に逢えなくなってから長い歳月が過ぎてゆき、あれは確か、東日本で大震災が起きる二年前の冬。いや、暦の上ではすでに春だった》 「おかしい……」 また、一層強い横殴りの風雪が俺に襲いかかる。 あまりの強烈さに、ゴーグルを付けているにもかかわらず、俺は思わず目をつぶった。 もうとっくに樹林帯に突き当たるはずだった。俺は歩みを止め、ぐるりと周りを見渡した。 俺の前後左右、すべてが雪と厚いガスに覆われ、ほぼなにも見えない。視界は約七、八メートル。良い時でせ

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        麗しき毒蛇の復讐 第1章

          ヨコハマ・ラプソディ 18

          十八.赤い電話器  志織と別れてから約三ヶ月後。 初めて志織と逢った日と同じように、朝から冷たい雨が降っていた冬のある日。夜十一時頃。 来月から始まる今年の入寮情宣について、夜遅くまで話し合っていた執行委員会をようやく終え、俺は風呂に入ろうと洗面器を抱えて三階の自分の部屋から一階の風呂場へ向かっていた。 三階から二階のロビーに続く階段を下りる途中で、俺は寮の電話のベルが鳴っていることに気が付いた。 受付終了後の夜中にも、電話のベルが鳴ることはちょくちょくあることだが、なぜか

          ヨコハマ・ラプソディ 18

          ヨコハマ・ラプソディ 17

          十七.ビルの角  志織と最後に逢った日から二週間過ぎても、三週間が経っても、彼女からの電話はかかってこなかった。 俺は、結局志織は門限に間に合わなくて、親から叱責され、俺への電話を禁止されているのだと思っていた。それまでは必ず、門限に間に合うように気を付けていた。ギリギリになりそうなのは、最後に逢った日が初めてだった。 さすがに心配になって、俺から志織の家に電話をかけようかと何度も思った。 でも万一志織の親が、特に門限に厳しい父親が電話に出た場合、俺の電話が余計に父親の反感

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          ヨコハマ・ラプソディ 16

          十六.絆創膏  この日は朝から冷たい秋雨が降っていた。 いつものようにMoonで久しぶりに逢った志織は、やけに明るかった。 「機嫌よさそうじゃん。なにかいいこと、あった?」 「このあいだの全国模試がね、結構いい成績だったの」 「ほう、さすが志織。よかったね」 「へへへ」 「でも志織。少し痩せたように見えるけど、ちゃんとご飯食べてんの?」 「ほんと? ちゃんと食べてるよ」 だが、彼女の笑顔にどことなくぎこちなさを感じた俺に、微かな不安が残った。 志織のことだ。きっと食欲を失く

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          ヨコハマ・ラプソディ 15

          十五.白いスカートの少女  俺の手が届かない遠くの先に、薄いピンク色のカーディガンに白いスカートをはいた、少女の後ろ姿が見える。 俺は女の子に声をかけようと思った。でも、なぜか声が出ない。 少女は前を向いたまま、ゆっくりと歩いていく。 待って! どこへ行くんだ! 待ってくれ! そう言いたいのだけれど、声にならない。おまけに足も動かせない。 待ってくれ! 俺を置いていかないでくれ! でも、少女は俺の方を振り向いてくれない。 くそっ! なぜ、声がでない。なぜ、足が動かないんだ!

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          ヨコハマ・ラプソディ 14

          十四.雨やどり  八月も終わりに近づいたある日、俺は根岸にあるレストランで、志織と一緒ランチを取った。この日訪れた店は、志織の話ではなんでもユーミンこと、松任谷由実さんが歌った曲に出てくることで有名だという。 俺はユーミンの曲は「中央フリーウェイ」くらいしか知らなかったし、志織が言う曲の名前も聞いたことはなかったが、志織は嬉しそうに目を細めながら、店の名物だという緑色をした飲料水を飲んでいた。 「ソーダ水の中を貨物船が通るのよ」 志織は片目をつぶり、グラス越しに外の景色を見

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          ヨコハマ・ラプソディ 13

          十三.母親  世間がお盆休みに入ると同時に、俺は佐賀に帰省した。 佐賀駅に着き、電話で実家に到着を知らせてから北口のロータリーで両親の迎えを待つ。 気のせいだとは思うが、やはり佐賀は東京に比べて少し暑いような気がする。というか、太陽の日差しが強烈なのだ。子供の頃はこの暑さをろくに暑いとも思わず、友達とはしゃぎ回っていたのだが。 見覚えのある白いカローラで佐賀駅まで迎えに来てくれた両親は、二人ともすこぶる元気そうで俺は安心した。 「元気しとったね?」と母親が尋ね、「うん。元気

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          ヨコハマ・ラプソディ 12

          十二.城ケ島  迎えた城ケ島へのデート当日。この日も暑く、朝から抜けるような青空だった。 出かける前に見た、寮のロビーにあるテレビでの天気予報も、山沿いを除き雨の降る心配はないと言っていた。 横浜駅、京浜急行の改札口前で待ち合わせた俺たちだったが、俺にはまだ複雑な感情が残っていた。 志織は相変わらずの、無邪気な愛らしい笑顔を俺に見せてくれた。だが俺はその時、上手く笑えていただろうか。 志織の服装は、白系の爽やかな印象のワンピースだった。それと彼女がかぶる、淡いピンク色のつば

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          ヨコハマ・ラプソディ 11

          十一.気分転換  その遅く帰った日のお昼近く。 あんなことのあったあとだから、俺はどうせ当分、志織から連絡は来ないだろうと思い、しばらくはアルバイトでもしようと考えていた。けれどその時、寮に来ていたアルバイトの募集はどれも肉体労働系だった。 寮の掲示板に張られていた、三枚のアルバイト募集の張り紙をさてどうしたものかと、寝不足でボーッとした頭で見ていた時、俺宛に電話が来ていると寮内放送で呼び出された。 「もしもし」 「あっ、信也さん? 志織です!」 受話器から聞こえてきたの

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          ヨコハマ・ラプソディ 10

          十.いちばん長い日  迎えた約束の月曜日は、朝からとにかく蒸し暑い日だった。 暑さのせいで朝の六時半頃には、俺はすでに目を覚ましていた。枕元の目覚まし時計を見て、もう一度寝ようと思ったが、それからはもう暑さで眠れなかった。 仕方がないので溜まっていた洗濯物を片付けようと、朝から寮の一階にある洗濯機を回し、干した洗濯物は午前中には全部乾いていた。 ベランダから外を見ると、所々に雲はあるが空はよく晴れている。午後に向けて、これからさらに暑さは増すだろう。でも、そんなことは大した

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          ヨコハマ・ラプソディ 9

          九.夏休み  関東の梅雨明けが発表されたあとの最初の土曜日も、やはり暑く空は快晴だった。 志織は昨日の午後から高校の夏休みに入っていた。うちの大学は一部の学部以外、すでに夏休みに入っている。これからは曜日に縛られることなく志織と逢うことができる……はずだった。 だが俺は生憎、今日は寮の行事があり志織とは逢うことができない。それどころか、俺にはやるべきことが目白押しだった。 俺は、この土曜日と翌日の日曜日に近所の地域センターで行われる夏祭りに、国立寮自治会として参加する綿菓子

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          ヨコハマ・ラプソディ 8

          八.国立寮  とうとう関東地方も梅雨に入った六月中旬。ある日の電話で、志織は大学へ進んだら、いずれ一人暮らしがしたいといった話をしていた。その話の流れで、志織が国立寮の俺の部屋まで遊びに行きたいと言い出し、結局次の日曜日、寮に来ることになった。もちろん彼女が俺の部屋まで来るのは、今回が初めてのことである。 この日の俺は朝からそわそわしていて、どこか落ち着きを失くしていた。自分の部屋に女の子を迎え入れるなど初めてのことだったし、なにより俺はこれから訪れる、ある意味「密室」に

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          ヨコハマ・ラプソディ 7

          七.チョコパフェ  志織と「タップス」を見に行ってから数日経った日の夜、俺が珍しく大学の授業の勉強をしていた時だった。 「コンコン」 誰かが部屋をノックする音がした。 「はーい」 「なあ、松崎。お前、彼女いたよな。二人でうちらのライブに来ない?」 ドアを開け、無精ひげの生えた顔を覗かせたのは、同じ学年で社会学部の富田だった。いつも部屋でギターを弾いているやつだ。 「ライブ? ああ、お前バンドやってたっけ。なんの曲やんの? そもそもどんなジャンル演るんだっけ?」 富田がギター

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