「のどかだった世界」

 澄み渡った青空の下、僕は一人歩いていた。 心地よい時間。仕事に忙殺される日々とはこの時間だけはおさらばだ。

 歩き続けていると田んぼ道に差し掛かった。そこらから虫の鳴き声が聞こえる。草場に足を踏み入れるたびに草が音を立てて揺れて、驚いたバッタが跳ねる。

 草花と土の匂いが鼻腔に流れ込んできた。ああ、何と素晴らしい。最新技術もここまで進むとはな。

 すると耳にインターホンの音が入ってきた。

 郵便が来た。僕はVRゴーグルを外して、玄関に向かった。

 扉を開けると配達員が僕に荷物を渡してくれた。開いた扉から見える緑のない世界に僕はうんざりしつつ、配達員に感謝を告げて、扉を閉めた。

 もう僕の知る自然はこの世界にない。だから僕はゴーグルを取る。

 再びゴーグルを装着した。

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