鉄筆堂

うつし世はゆめ よるの夢こそまこと (江戸川乱歩)

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うつし世はゆめ よるの夢こそまこと (江戸川乱歩)

マガジン

  • 読書記録

    書物の海についた小さな足跡の記録。本屋さんで見つけた本の紹介や、読み終わった本の感想文が置かれています。

  • 夢日記

    寝起きにうすぼんやりと記憶に残っている夢の記録。夢の記録ですから、何の脈絡もないように思われる記事ばかりでしょう。そこでは、うつし世とは異なる奇妙な論理がはたらいているようです。

  • 【英訳】侏儒の言葉

    本稿は芥川龍之介『侏儒の言葉』を英訳してみようという、連続企画です。もともと日本文学の作品を英語やドイツ語などの外国語で読みなおすのが好きだったのですが、芥川龍之介でいちばんお気に入りのこの作品には翻訳が見当たらなかったのがこの企画を思い立ったきっかけです。底本には芥川龍之介『侏儒の言葉』(1968、岩波文庫)を使用しています。

  • 断片的翻訳

    さまざまなジャンルのお気に入りの書物からの抄訳です。現在のところ、日本語の作品を英訳したものを収録していますが、将来的にほかの形態の作品も出てくるかもしれません。

  • ノンジャンル

    表題の通り、さまざまなジャンルの文章です。

最近の記事

買ってきた本8

「忙しい」、「忙しい」と云ってこの「買ってきた本」をずうっと更新していなかったので、再開したいと思います。更新していないあいだにもいろいろな本を購入し、読み、感想を抱いてはきたのですが、つい更新せずにいました。 本日ご紹介するのは、日本文学を英語に翻訳した作品です。先日、仕事で用事があって以前住んでいた町に行ってきたのですが(往復で70キロメートルほどの旅程でした)、よく通っていた書店で衝動買い。 川端康成『雪国』の英訳で、Yasunari Kawabata, "Snow

    • 【夢日記】杜松果

      ぼくはくたびれたスーツからばさばさと汚れを払う。黴臭い。全体、いつから放置していたものかそれは黴の胞子で白く汚れていて、払うとぐるりの空気が粉っぽく感ぜられて、漂う黴の臭いにぼくは思わず涙目になるまで咳込む。 疲れ切った体を引きずって駅まで行くけれども、終電なぞトウに終わっている。伸びすぎた頭髪の襟足を指で弄びながら、終電後のこの時間に家まで帰る方法を思案してみたが、ラム酒に浸された脳細胞は何の答も持ち合わせていないらしい。 両手の指にはなぜか学生の時分に身に着けていた安

      • 【夢日記】痛罵

        狭い事務室に男が一人、椅子に座っている。 ひじ掛けのついた年季の入った事務用の椅子で、初老の男が勤務中だというのに居眠りをしている。 男の眼鏡はだらしなくずり下がっていて、レンズには白い跡がついて汚れているのがわかる。白髪交じりの頭髪は乱れていて、後ろになでつけてあるはずの前髪がいくらか額に垂れ下がっている。ワイシャツにもアイロンがかかっていないのか皺だらけである。 ぼくは彼に声をかける。 びくっと大きく身を震わせたかと思うと、はっと目を覚ます。 「あっ!す、す、す

        • 【英訳】侏儒の言葉32:奴隷

          Slavery  The abolition of slavery merely means that you stop seeing yourself as a slave. It seems that our society is unable to secure its safety even for one single day without slaves. As a matter of fact, the republic that Plato conceive

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        • 読書記録
          13本
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          80本
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          9本
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          5本

        記事

          【夢日記】なまぬるい

          劇場に来ている。 何でも、入口へとつづく道は急な斜面になっていて、歩いている足元がどうにもおぼつかない。すっかり歯が減ってしまった履き古しの下駄の所為かしらん。からからと乾いた足音を立てて、ぼくは劇場へと向かっていく。 煉瓦造りの建物で、いつかどこかで見たような気もするのだが、ここがいったいどこの劇場なのかは判然としない。子どものころ、親が転勤族で転々としていたときにどこかの街で見かけた市営の劇場だったかもしれぬ。 ハテ…。 何を見に来たのだったか。 芝居でもやるのか

          【夢日記】なまぬるい

          【英訳】侏儒の言葉31:二宮尊徳

          Sontoku NINOMIYA I remember that my primary school textbook included a story of Sontoku Ninomiya in his childhood with some exaggeration. He was born in a poor family and while working just as adults did - helping family members with farmi

          【英訳】侏儒の言葉31:二宮尊徳

          【夢日記】踊り子と暗い遊園地

          外は大雨が降っていて、ザアザアという音が聞こえてくる。 ぼくは部屋にいて無心に字引を繰っている。いつもなら、すっと目当ての語義にたどり着くはずだが、妙なことにきょうはドウしても思うようにはいかない。何度頁を繰っても、目当ての見出し語にたどり着くことができない。いつもの字引とは表紙が違っていて、なぜかハアドカバアになっていることに気づくと、ぼくは辞書を机上に放り出してすっくと立ち上がる。 部屋が暗い。 玄関まで行ってドアを開けると、いつのまにか雨が止んでいてすうすうとした

          【夢日記】踊り子と暗い遊園地

          【英訳】侏儒の言葉30:悪

          Evil It is always the case that young men of an artistic temperament are slower to discover ‘human evils’ than anyone else.

          【英訳】侏儒の言葉30:悪

          【英訳】侏儒の言葉29:危険思想

          Pernicious Thoughts Pernicious thoughts are the ones that have people attempt to put common sense into practice.

          【英訳】侏儒の言葉29:危険思想

          【夢日記】既視感

           或る晩、勤め先の教室でのことである。  「この文、最初に動詞があるんだから命令文だ。すぐ後の空所に助動詞は入らな…。」と言いかけて、ぼくは「あっ」と云う。「これ、夢で一回云った」、ぼくが思わずそう云うと背筋にすうっと冷たいものが走る。既視感である。  「これ、夢で見たな」というのはこれまでにも度々ぼくの身の上に起こってきた。それは、幼少期に親父に叱られる場面であったり、級友が帰り道にふと口にした言葉であったり、家族で出かけて初めて来た土地で車から降りた瞬間の空気であったり、

          【夢日記】既視感

          【夢日記】蟻塚に惑う

          大きな病院に来ている。 其処は数えきれないほどの病床と、幾つもの病室のある巨大な入院施設を備えた病院で、ぼくも入院患者の婆さんの車椅子を押している。 婆さんは小柄で、枯葉のように細っている。腕からは点滴の管が伸びている。 院内を何か婆さんと話しながら、車椅子を押して進むうち、ぼくは婆さんの顔に面が装着せられているのに気づく。面は陶器で出来ているようで、小柄な婆さんにそぐわないほど大きい。 いったい、その異様な陶器の面には見覚えがある。何処で見たのかしらん、と思い思いす

          【夢日記】蟻塚に惑う

          【英訳】刻舟求剣

          A man from Ch’u was going across the Yangtze River. His sword slipped from the boat into the water. He immediately nicked part of the hull, and said to himself, “This marks the spot where my sword fell.” Then his boat stopped. Following the

          【英訳】刻舟求剣

          【夢日記】液漏れする記憶

          ぼくはしきりに単四電池を探している。 其処は大きな駅のなかに入っている食堂で、飯時ではないから、さほど混んでいるというわけでもない。単四電池は、箸やフオークの入った容器には見当たらず、紙ナプキンのところにも入っていない。 ぼくは仕方なく給仕を呼ぼうとして呼び鈴を押しかけるのだが、そのときに一群の高校生がわいわいと大声で話しながら這入ってくる。口々に「ヤア、席がない」と云ってはどやどやと野球部らしきガタイの良いイガグリ頭達が床に座り出すから困る。ぐるりの席には誰も座っていな

          【夢日記】液漏れする記憶

          【雑記】なぜ私は書くか

          久しぶりに書くので、何を書いてよいかさえ中々思い当たらないのだが、とにかく書いてみようと思う。しばらく使わない筋肉、すっかり萎えてしまったそれを急に使おうというのだから、一晩もすればひどい筋肉痛に襲われることになるのは必定というものである。 君はなぜ文章を書こうとするのか。仕事のためか。家族を養うのにパンを勝ち取るためだろうか。それとも、声名のためか。有名な物書きにでもなって、多額の金員を手にして夜ごと美酒に酔うためだろうか。マア、この広い世の中、そういう手合いも定めしゴロ

          【雑記】なぜ私は書くか

          【英訳】侏儒の言葉28:ユウトピア

          Utopia Basically, the reason why a perfect utopia never comes into being is just as follows - there cannot exist a perfect utopia unless humanity changes itself; if humanity does change, what you once regarded as a flawless utopia may at o

          【英訳】侏儒の言葉28:ユウトピア

          【夢日記】空蝉

          外国に旅行に来てゐる。 穏やかな波の音。 燦々と降り注ぐ陽の光。 空気は暖かく、まとわりつくやうな湿気を感ずる。 たぶん、東南亜細亜あたりだらう。 むかし、一度旅行で行つたことがある。 何処かからラヂオ語学講座の音声が聞こえてくる。 「それではみなさんも発音してみませう。 ‘mazerunda’ ー ハイ、もう一度。 ‘mazerunda’ ー この動詞は日本人の私たちには覚え易いですね。偶然にも『混ぜる』と云ふ意味の動詞なのですから。次はこの動詞の活用形を見ていくこ

          【夢日記】空蝉