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【夢日記】下降

気がつけば、ぼくの手にはロープが握られている。
そのまたロープには大振りな桶みたようなものが括りつけられてある。

桶のなかには、たぶん一歳くらいだろう、小さな赤子が入っている。

どこの子かは知らない。
男の子か女の子かさえ遠くてよくわからぬ。

ここは、新宿かどこかの古い高層ビル。
見覚えはあるのだけれども、どこなのかは判然としない。

螺旋状の階段を登り切った、一番上の階にぼくは居て、ロープを握っている。

そこの手すりかなにかから、ロープは螺旋階段の渦巻きの真ん中を、気の遠くなるほど下までずっとのびている。

赤子は元気だった。桶のなかで赤子はしきりに這い出ようとしたり、立ち上がろうとしたりして動く。

ぼくはそういう桶を、ロープを手繰って、怖々と下に降ろしていく。

額からつと汗が流れてきて片目に入り、ひどくしみる。
両の腕は、とうに疲れ切っていて、痛みさえ感じる。

それでも、ぼくはこの子を下に降ろさねばならぬ。

孤独な重労働をしばらく辛抱するうちに、ぼくはふと思う。

何故?
何故、この子を下まで降ろさなければならぬのか。

下にはなにがあるのか。
そう思うと、何故かぼくには怒りの感情がふつふつと湧いてくる。

下の桶からだろうか、舌打ちが聞こえてくる。
「また駄目か」

…というところで目が醒めた。なにが「また駄目」だったのだろうか、朝の四時半。寝直そうにもどうも具合が悪い。耳鳴りの高い音がずっとキィーンといいつづけている。少ししたら、きっとまたぼくは数時間ばかり泥のようなまどろみに溶け込み、時間ぎりぎりになって、わかりきった不機嫌のなかで出勤していくのだろう。

夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。