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【夢日記】或る葬儀

母方の曾祖母の葬儀に参列する。

ぼくは喪服を着て、リムジンに乗り斎場に向かっている。車内には何人か、三十代、四十代恰好の男女が乗り合わせている。たぶん、イトコであるとか、長いこと顔を見ていない親戚連中なのだが、誰ひとり判然としない。マア、曾祖母の前回の葬儀から二十年位は経っているのだから仕方がない。一同、押し黙ったまま、車が進んで行く。

斎場に到着したので、黒塗りのリムジンから降車。暗く、雨が降っている。斎場まで延びる赤絨毯を踏みしめる。

斎場には、ぼくが以前勤めていた税関の空港官署にいた頃の職員がたくさん詰めかけている。所属していた12班の面々に挨拶をする。統括官殿も上席官殿もお変わりないらしい。モウ酒に酔っているのか、顔を真っ赤にして、かつて摘発した不正薬物の密輸入事犯について武勇伝を語っている禿頭の監視官もいる。いつの間にやら、階級章の星が一ツ増えている。ほがらかな雰囲気だが、曾祖母の二回目の葬儀だしするから、マア、これも仕方のないことだ。

挨拶もソコソコに斎場に這入ろうとすると、隠しに香典が無いのに気づく。嗚呼、これはいけない。香典を持っていないのでは葬儀に参列できないので、仕方なく、ぼくは会社に戻ることにする。

辺りはいつのまにか、強い日差しに包まれている。

駅までの道すがら、腹ごしらえをすることにする。炒飯をセルフサービスで作る店に這入る。中華鍋もお玉も本格的な物が揃っている。叉焼で盛り沢山の焼飯をつくり、いつも通り、ギネスビールも自分で注いで飲む。ぼくが一杯呑んでいると、隣には現在の職場でいつも担当している双子の男子生徒が居合わせている。「ヨウ」と一応挨拶するが、どちらがどちらなのか、いつもながら区別が難しい。ヤットのことで左目の下にホクロのある方が兄だと思い出す。

食べ乍ら、懐が寂しい事に思い至る。嗚呼、香典も出せないんだものな。この調子では十勝から新千歳空港まで、特急には乗れないだろうか。内地まで戻るのに、飛行機代なんて出せるのかしらん。月の後半はいつも金欠である。

仕方がないので、ぼくは歩いて会社に戻ることにする。

勤務先の学習塾に戻ると、一階の職員室が復た勝手に改装せられている。最近、ぼくが体調を崩して短縮勤務になっているからといってあんまりの仕打ちだ。上司がそんなひとだとは思っていなかったのに、と口惜しい。せめて事前に相談するなりしてほしいものだ。沸々と苛立つ気持ちが湧き上がる。ツナギ姿の作業員の方が何人かうろうろしている。

改装作業の音があまり騒々しいものだから、ぼくは給湯室に行くことにする。何か違和感があるので、流し台の下にある物入れを開けてみると、何でも、汚らしい女がキャミソオル一枚の姿で自慰をしている。冬場のことだし、最近はめっきり寒いので、これもやむを得ないことだと諦めて、自習室の様子を見に行くことにする。

自習室では、金髪のチンピラみたようなのが走り回っている。自習をしている他の者の邪魔になってはいけないので、「オイ、君、静かにしたまえ」と云うのだが、「先生、それはハラスメントと云うものです。静かにしたくてもできない人間も居るのです。サイレンスハラスメントだ」と金髪は主張する。暫し押し問答が続くものの、彼が深夜の国道に走りに行くと云う事だから、階級社会の矛盾を感じつつ、渋々承知する。

ぼくは三階に向かう。三階は消灯していて深閑としており、ぼくの靴の音だけが響く。見回りをしているベテランのY先生の姿を認める。

「おつかれさまです」
「おつかれさまです。戻っていたのですね」
「ええ、きょう歩いて戻ったのです」
「十勝から?それはご苦労様でした」
「どうも。職員室の改装の件は…」
「ええ、復たなのです。やかましくてかないません。」
「ときにXXX君の様子はドウですか」
「XXX君ならきょうも遅刻しまして」
「ハハア。またですか。共通テストの成績も振るわないようだし」
「そうですな」
「彼は結局今後ドウするつもりなのですか」
「わかりません。兎に角面談しないと」
「彼はいまどこに?」
「自習室で悪魔城のゲームでもやっている頃合いかと思いますが、先生は、モウお会いではなかったですか?」

そのとき、唐突に、オヤ、曾祖母は二回も葬儀をする必要があったのかしらん、と思い至って…



…というところで目が醒めた。午前三時半頃。線香臭いような気がするのは、たぶん気の所為だろう。いまから、きょうの授業で使う教材を作らなければ。

夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。