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【夢日記】仏像と料理コンテストと他人の顔

しんしんと雪が降っている。

周囲は色とりどりの着物姿の若い娘だの洋装した紳士だのでごった返しており、ぼくは雪を踏みしめて歩いている。新年を寿ぐ言葉も聞こえないことはないが、ぐるりの人びとはドウモ何かの催し物に向かっているようである。

群衆が鉄道の駅に向かっているのが段々と了解せられてくる。果たして、いつの間にかぼくの眼前には無闇大きな木造の駅が聳え立っている。ふと辺りを見ると、めかし込んだモダアンな男女ばかりでなく、丸眼鏡に詰め襟の学生服姿の連中も目立つようになってくる。嗚呼、✕✕大学かしらん、とぼくは思い思い、群衆の流れに合わせて駅の方へと直進する。

黒光りする巨大な門をくぐって駅構内に這入ると、左右には大小様々の仏様が鎮座している。ガアン、と黒くて大きなおりんが鳴って、香が立ち込めている。どういうわけか、いかにも霊験あらたかといった風情の鏡も奥に鎮座している。ただ、どこからともなく聞こえてくるお経は僧侶が実際に読経するのではなく、録音済みのものを機械で以て流す味気無い館内放送のようである。

そうだ、とぼくは思い出す。

ぼくはこれから料理コンテストに出場するのだ。それだのに、このような馴染みのない駅の近くが会場であるというのはフェアでない、とぼくは憤りを感じている。…それにしても、ブンブンと鳴るこの羽音のようなものは何だろう。

それは無数の小さな仏様である。仏様は小型ドローンに載せられて七色に輝きながら辺り構わず飛び回っている。何体かが行き交う紳士のシャッポをはたき落とし、学生の黒縁眼鏡に当たって弾き飛ばす。女学生らしい小娘の断髪をかすめていく。

ショウウィンドウの向こうでは何枚かのスクリーンをつなげた巨大な画面で住職がゲームをしている。普段はスマホの小さな画面だけで済ましているぼくなぞには、何故にあのように何枚も画面が必要なのか不思議でならない。

嗚呼、こんなのに気を取られている場合ではない。料理コンテストに行かなければならない。前回負けたあの人物に今度こそ勝たなければならない。今回のコンテストでは本格的なナンを焼く。ナンを焼いて、特製の白っぽい粉をかければ、優勝は間違いない。ぼくは優勝したあとの記者会見の様子を思い浮かべる。

しかし、ここで重要なことを思い出す。

コンテストに出場するというのに、職場に半休の申請を出すのを忘れている…「イヤだ〜」、自分の口からオネエ口調の、明らかに低い声が出て吃驚する。住職がゲームをするショウウィンドウに映し出された自分の顔は、オカマバーの店員をしている或る知り人のそれに変わっている。



…というところで、目が醒めた。コタツに這入ったまま眠りに落ちてしまっていたせいで、ひどく喉が渇いている。

ぼくは冷蔵庫から麦茶を取り出して喉を潤し、身支度を整えて出立した。自動車の運転免許が今度から金色の帯になったので、次回の更新は何でも五年後だとか云うことである。

尚、残念ながら、実際のぼくはナンを焼くこともなければ、オカマバーに勤務している知人も実在しない。しかし、小型の仏像がドローンに搭載されて飛び交う様はどこかの動画で見たような気がしないこともない。

夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。