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【夢日記】濁り水の底に沈むもの

部屋の床はざぶざぶと水に浸つてゐる。何処かで水でも漏れてゐるのかしらん。

僅かに滑る濁つた水にくるぶしの辺りまで浸しながら、僕は部屋のなかを歩きまはる。そもそも如何して自分が此処にゐるものやらとんと見当もつかぬ。

ともかく其処は奇妙な部屋である。

一面水浸しになつてゐて、彼方此方に小さな石像のやうなものが水面から覗いてゐる。

ー 違ふ。あれはただの像ではない。地蔵?確かに地蔵にも似てゐるやうだが、其れにしては何だか妙である。二頭身くらいしかない其像は薄気味悪い微笑を湛へてゐる。

よく見るとさういふのが水面から沢山、部屋中で、頭をにゆつと出してゐたり、鼻の辺りまで水に汚水に浸かつたりしながら、不思議と此方を見てゐるのである。

何でも此部屋にゐてはならぬ、と云ふ心持になつてくる。

出口を求めて僕は当てもなく歩き出すのだが、何方に出口があるものやら分からず、ただまごついてさまよひ歩く。

さまよひ歩くうちに、ブロツク片みたやうなのに足を取られて転びかける。

其時、ぐにゆ、といふ皮膚の感触が水で重くなつた靴底に伝はつてくる。

はつとして、僕は足元を見る。

其処には割れて断片となつた地蔵の顔が微笑を湛へて ー

…というところで目が覚めた。

時間は世間様と大きくずれているものの、この数日はよく眠れる。

最近、働きすぎて心身に故障を来し、時間を大幅に短縮した勤務を一時的にゆるされるようになった。きょうもこれから医者のもとを訪れ、会社が私に下した処遇についてコメントを求めるよう、社の責任者に言われている。

皮肉にも、私が故障することで、家族との時間が増え、こうして文章を書く時間と心のゆとりを少しだけ取り戻している。

それにしても最後にぼくが見たあの地蔵の顔は、皮肉な巡り合わせに微苦笑するぼく自身のそれではなかったか。

夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。