アート思考で磨く「イノベーションの種」を見つける力
アート思考とは、アーティストが作品を制作するときに発揮するのと同じ、「これまでの常識を超える斬新なコンセプトを創出する」思考法です。イノベーションの種とは、イノベーションを起こすコンセプトのことです。事業構想大学院大学客員教授の田浦俊春氏は論文で、斬新なコンセプトを創出する際に大切なのが、エビデンスに頼らない「自分なりの考え方」と言及しています。今回は、「自分なりの考え方」こそ、「イノベーションの種」を見つける力であることについて紹介します。
イノベーションについての日本の現状
従来の常識を超えるコンセプトは、これまでの延長線上にない新しい事業をにつながります。日本でも戦後はこのようなイノベーションが数多く行われてきました。チキンラーメンやウォークマンはこの例です。しかし、品質や効率に重きをおくようになり、課題解決型の思考になってしまいました。野中郁次郎氏は、著書『直観の経営』の中で、「論理分析過多、経営計画過多、コンプライアンス過多により、企業の経営から現場まで創造力や活力を失っている。」と指摘しています。
一方、グローバルでは、GAFAMのようなプラットフォーマーが、斬新なコンセプトで事業を展開し、著しい成長を遂げています。私たちも、斬新なコンセプトを創案して、これまでの延長線上にはない事業を展開していく必要があります。
「自分なりの考え方」の重要性
斬新なコンセプトを考えるには、課題解決型とは違う思考が必要です。課題解決の場面では、課題を分析して、解決策が妥当であることを示すエビデンスを求めます。エビデンスがあると合意形成が容易という利点があります。
一方、斬新なコンセプトとは、この逆で、エビデンスがほとんどないような中から考え出す必要があります。エビデンスがないとなると、何をよりどころにすればいいでしょうか。それが、「自分なりの考え方」になると田浦氏は指摘します。
「自分なりの考え方」とは、思想とか哲学など思考の軸ということができます。自分のそれまでの経験から培うもので、これがイノベーションの種である、斬新なコンセプトを見つける力になります。日本のビジネスパーソンは、エビデンスのない状態で、斬新なコンセプトを考えるのが苦手なのです。
しかし、現代アートのアーティストは、エビデンスを求めず斬新なコンセプトを考えることを得意としています。彼らは、独自の視点で社会を見つめ、自分なりの問いを立て、斬新なコンセプトを考えて作品を制作しているのです。
アート思考がコンセプトの豊穣さを生む
末永幸歩さんは、その著書『13歳からのアート思考』の中で、アーティストが考えたコンセプトを根、制作したアートを花に例えて、次のように述べています。
事業の場合も、斬新なコンセプトを考え事業化することは、課題解決型の事業よりも困難を伴い、予期せぬタイミングで実現することがしばしばあります。しかし、それが花開いたときには、アートと同様に社会に大きなインパクトを与えることができます。
アート思考で「自分なりの考え方」を磨く
末永さんは、「美術の本来の目的は、「自分なりの答え」をつくる能力を育むこと」だと言います。私も全く同感です。私のアート思考のワークでは、アーティストと同じように、自分が興味をもった事象に対して、「自分なりの考え方」でコンセプトをつくり、作品を制作してもらっています。このワークであれば、エビデンスがなくても、「自分なりの考え方」でコンセプトをつくることができます。「自分なりの考え方」なので、同じテーマ(例えば環境問題)に興味をもった人が複数いたとしても、それぞれが考え出すコンセプトは全く異なります。しかも、そのいずれもが魅力的なのです。
私は、アート思考を取り入れ「自分なりの考え方」を磨くことで、イノベーションの種を見つけ、社会に大きなインパクトを与えることができると信じています。是非、皆さんもアート思考に触れてみてください。