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日本の「アート思考」によるイノベーション:チキンラーメンとウォークマンの誕生:Japan Innovation Review「良書抜粋」第3回公開

JBpressが運営する「Japan Innovation Review」の「良書抜粋」で、『「アート思考」の技術』第3回の記事が公開されました。今回は、「チキンラーメンとウォークマン誕生に見るイノベーション創出の秘訣 安藤百福氏、井深大氏、盛田昭夫氏らの「アート思考」とは」というタイトルで、日本の高度経済成長時代に起きた、「アート思考」によるイノベーションに焦点をあてています。


「戦後日本のイノベーション100選」


「アート思考」は「自らの興味・関心を起点に、既存の常識にとらわれない斬新なコンセプトを創出する思考」と定義しました。このアプローチが日本のイノベーションに果たした役割について詳しく探りましょう。

公益社団法人発明協会が、2016年に「戦後日本のイノベーション100選」を発表しました。アンケートで得票の多かったトップ10について、その開発経緯を調べてみると、内視鏡(胃カメラ)、「チキンラーメン」、マンガ・アニメ、「ウォークマン」、「ウォシュレット」、家庭用ゲーム機・同ソフトの6個は、個人または少人数の興味・関心を起点に開発されています。すなわち、アート思考が主な役割を果たしたということができます。

安藤百福氏と「チキンラーメン」


安藤百福氏は、戦後の食糧難の時代に、「戦後復興を軌道に乗せるには、やはり食が大事だ。食がなければ、衣も住も、芸術も文化もあったものではない」と考えていました。そして、戦後闇市のラーメンの屋台に多くの人が並んでいた光景に、日本人は麺好きだと思っていました。

そして、家庭で簡単に作ることのできる「魔法のラーメン」、お湯を注ぐだけで食べられるラーメンという、それまで存在しなかった革新的な商品コンセプトを考えだしたのです。

麺の製品開発などしたこのなかった安藤氏ですが、麺作りのプロと共同開発するということもせず、既存のラーメンとの味の比較なども行いませんでした。全く新しいコンセプトの麺を開発しようとしたため、製麺業の人たちとの共同開発は必要なかったと考えられます。

盛田昭夫氏とウォークマン


1978年、ソニーは手のひらに乗るくらいのモノラルレコーダー「プレスマン」を発売しました。当時ソニーの名誉会長であった井深大氏は、海外出張の機内でも音楽を聴いていました。そして、プレスマンを再生専用でステレオ対応にするアイデアが生まれました。

ステレオ仕様の試作機は、井深氏だけでなく、当時会長だった盛田昭夫氏も大変気に入りました。盛田氏は「この製品は、1日中音楽を楽しんでいたい若者の願いを満たすものだ。音楽を外へ持って出られるんだよ。録音機能はいらない。ヘッドホン付き再生専用機として商品化すれば、売れるはずだ」と発想しました。

盛田氏の個人的な関心・興味が起点となり、「音楽を外へ連れ出して楽しむ」という革新的なコンセプトが生まれたのです。

しかし、社内からは、録音機能がないことに対し、反対意見がかなり出たといいます。論理的に考えれば、機能のグレードダウンした製品を出すことは納得できないものです。

発売してみると、盛田氏のコンセプトは受け入れられ、世界のウォークマンとなりました。

新たなアート思考の必要性


このように、以前の日本では、個人の興味を起点としたイノベーションが数多く生まれていました。しかし、現在は、顧客のニーズにこたえる傾向が強くなっています。今一度、自分起点で斬新なコンセプトを創出することを目指す必要があると思います。「アート思考」を再評価し、未来のイノベーションに活かしていくことを考えましょう。


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